禁句
しらは。
第1話
シモン=サファードは、ギルド唯一の魔獣使いである。
ガナムという大型の灰色狼を『隷獣』として従えるのが彼の能力で、本人には取り立てて役に立つような能力は無かったが、それを差し引いてもガナムの戦闘力や危機感知能力は貴重なものだった。
しかし、そんなシモンはある日、パーティのリーダーであるエインストから呼び出しを受ける。
エインストは冒険者としても指導者としても優秀だと評判の男だが、普段の言動から冷たい印象があり、シモンはあまり彼のことを好きではなかった。
「結論から言うとシモン、今のままだとお前をうちのパーティに置いておくことはできない」
エインストは真っすぐシモンの顔を見ながらそう言った。
シモンはなんとか笑みを浮かべたが、緊張でぎこちなくなってしまうのが自分でも分かった。
「どうしたんだ、エイン? 僕たち、結構うまくやれていると思うんだけど」
「そうだな。たしかに今まではうまくできた。しかし将来のことを考えたとき、明らかにお前の力は劣っているんだ。そして、それに関しては他のメンバーからも不満が出ている。シモン本人にももう少し頑張ってもらいたいとか、まあそんな内容だな」
エインストは多少ぼかして伝えたが、メンバーのなかには公然と『無能』呼ばわりしている者もいることをシモンは知っていた。
知っていたが、黙って耐え続けた。魔獣使いはただでさえ珍しい職業だし、評判も良くない。
エインストのパーティに入る前にも散々苦労したのだ。
「心配するなシモン。俺が何もせずお前を放り出すような男に見えるか?」
「……どうすればいい?」
エインストは笑いながら答えた。
まるで悪魔が浮かべるような、冷たい笑みだった。
「簡単なことだ。もっと強い魔獣を見つけて隷獣にすればいい。そのために必要なサポートは全てする」
それは、前々からエインストに打診されていた案件である。
しかし、シモンがそれを拒絶していたのには、もちろん理由があった。
「だが、それは、つまり、ガルムを……」
「そうだ、誤魔化しても意味が無いからハッキリ言わせてもらうが、ガルムは処分しろ」
シモンは拳をテーブルに叩きつけ激怒した。
目の前の男にとって何の意味も無い行為だと分かってはいたが、それでも怒りをぶつけずにはいられなかった。
「やめろ! 簡単に処分なんて言うな。あの子は大事な仲間だ! それにガルムは他のメンバーと比べても決して劣っていない!」
「そうだな。実際、1体1でガルムに勝てる人間は俺も含めてパーティにいないだろう。でも、残念だがお前の弱さを埋め合わせできるほどじゃない」
エインストはそこで一度言葉を切った。
その顔からはすでに笑みは消えていた。
「これが最後のチャンスだ、シモン。ガルムを捨てて新しい隷獣を探す。それだけがパーティに居続けるための条件だ。俺はお前を買っている、失望させないでくれ」
エインストの言葉はもしかしたら本当で、彼なりにシモンのことを買ってくれていたのかもしれない。
しかし悩んだ末に、シモンは首を横に振った。
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