後編

D男「どういうことだ?A男」


A男「去年のバレンタインデーにチョコを貰っていたのさ!しかもリア充にしか決して手にすることが出来ない至宝のアイテム【手作りチョコ】をだッ!」


D男「去年……」


B男「手作りチョコだと?」


A男「そうさ!そのチョコは、この世の物とは思えぬほどの超やわらか食感で、頬をとろかすような美味うまさだった。グルメな俺の舌が過去最高点を付けたほどだ!『好きだよ』というホワイトチョコで書かれたラブラブメッセージ!繊細に、つ色鮮やかにほどこされたラッピング!アレは俺に心底しんそこれた女子にしか作れないミラクルスイーツだ!だから、その女子が今年もくれるはずさッ!」


C男「そうだったんだ。その子が誰なのか見当はついてるの?」


A男「一年待ったがアクションを起こして来ないから、まだ予想中だ。あのチョコから想像するに、たぶん物静かな兎系女子だとは思う。俺との相性はバッチリなはずさ。絶対今年こそは誰だったのか解き明かしてみせるぜ。そして二人は結ばれ、俺は晴れて本物のリア充に生まれ変わるんだ。ぼっち人生におさらばさ!」


その話を聞いてB男とD男は俯いて唇を噛んでいた。その表情が少し暗い。


A男「どうした?二人共?俺がリア充に成るのが不服か?」


D男「すまん……俺達なんだ……」


A男「あん?」


D男「去年、お前の机に入っていたチョコ……あれ、俺とB男がジョークで入れたチョコなんだ」


A男「ば、馬鹿な!『好きだよ』ってメッセージの丸文字は、女子にしか出せない曲線だったぞ!チョコの食感も、まるで天使とキスしてるかのようなフワトロ食感だった!断じてお前達に作れる代物じゃない!」


D男「うちのばあちゃんに作ってもらった。『A男にイタズラするんだ』って、言ったらノリノリで作ってくれた……」


A男「な、何でそんな手の込んだ事を……」


D男「お前の糠喜ぬかよろこびする笑顔が見たかったんだ」


A男「俺の……笑顔を……」


B男「俺達、お前に言われるまでその事をスッカリ忘れてたよ……お前、ずっと覚えててくれたんだな……有難う」


A男「当たり前じゃないか!生まれて初めてもらったチョコレートなんだぞ!忘れられるわけないじゃないか!今も包装紙は大事にクローゼットにしまってあるよ!」


D男「全く……お前って奴は……」


B男「だましがいの有る奴だぜ!」


A男「へへッ……」


C男「えっ?何で感動展開なの?それでいいのかA男?」


A男、B男、D男の3人は肩を抱きあって踊りながら笑った。

A男は思わず涙ぐむ。

それは嬉し涙だったのか、それとも別の涙だったのか……。


C男「なあ……俺、もう帰っていい?彼女と待ち合わせしてるんだ」


B男「あ、俺もッ!」


D男「俺もだ!じゃあな!A男!」


A男「おい!ちょっと待て!お前ら!今年のチョコは?ばあちゃんの手作りでいいから、卒業まで責任持って夢見させろやッ!!」




【友人、謎の美少女なりすまし事件】……バレンタインデーに男友達が女子になりすまし、机の中や下駄箱にチョコや手紙を入れるアレである。

これは母親が「可愛らしい女の子からアンタにって、チョコ預かったわよ」と、言って自分で買ったチョコを息子に渡す【オカン、謎の美少女なりすまし事件】と共に、毎年沢山の少年が犠牲に成っている。(推定で全国数万件)

悪戯にせよ、善意にせよ、異性にチョコを貰った経験の無い少年がこの事件に巻き込まれると、心に深い傷を負ってしまうかもしれない。

だが被害にあった少年達よ、悲観する必要はない。なぜなら成人男性の約7割が学生時代にチョコを貰った経験が無いのだから……。



【ツイッターによる実際の調査】

小、中学生時代にバレンタインデーチョコが机の中に入っていた経験は有りますか?


ある……31%

ない……38%

チョコ?何それ美味しいの?……31%


(調査期間2022年2月9日〜2月10日。投票数16票。但し作者フォロワーさんのみ)


因みに作者は学生時代のバレンタインデーの記憶を何者かに削除されました。

だからこの物語のA男のモデルが誰なのか、思い出すことが出来ません。

思い出そうとすると……ウッ!頭が……!!


〈おしまい〉

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【バレンタインミステリー】密室教室ロストチョコ事件 押見五六三 @563

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