6
あのあと、いつも通り僕たちはわずかな保存食を食べて眠りについた。
一つだけ違ったのは寝る前の少しの時間にラナに読み書きを教えてもらったことだ。これから毎日楽しみだね、とラナはとても嬉しそうに笑っていた。
そしていつも通り寝て起きて、僕が嫌いな朝がきた。
ゆっくりと起き上がる。
いつもより体が重たい、というよりはなんだか痛かった。ああ、昨日のかなとぼんやり考えて、それでも僕は着替えを始めた。
体は痛かったけれど、何だか今日は嫌じゃなかった。
そういえば、昨日防護服が壊れてしまっていた。破れた箇所は何とかくっつけたけれど、果たして意味があるのだろうか。もう穴じゃなければ何でもいいや。
昨日日中ずっと寝ていたといっていたラナはぐっすりとベットで寝ている。
前まではラナは僕が着替えてる音で起きることが多かった。けれど最近はそれもほとんど無くなった。慣れたのか、それとも。
少しだけ母さんと重なる。母さんが死ぬまえも、たくさん寝てた。
いやな考えを頭を振って落とした。
それでも、二人きりになったばかりのときは起きてた…だからきっと慣れただけだ。
そう考えてからなんだか頭が少し痛くなった。
はぁ、と一度軽くため息をつき、勢いをつけて立ち上がる。
僕が今やるべきこと、それは道の確保だ。
見つけたドラッグストアへの道を忘れないように印を残しておかなければ。
たとえあまり風が吹かないこの場所でも、ずっと似たような景色だから、迷わないようにすることが一番大切なのだ…とお父さんが言っていた。
足元は進むたびに少しだけ灰に沈んでいた。
確か裏の倉庫に父さんと作った目印がまだのこってたはず。
倉庫に入るとなんだか少し懐かしい匂いがした。父さんと一緒の入った記憶が蘇る。
ここには基本的に父さん以外はいることが許されなかった。
危ないからだと言っていたが、多分違う。ここを父さんの秘密基地だからでもない。多分僕たちに見せたくないものを置いていたからだと思う。
父さんはいつも怖い時もあったけど、僕たちのことを大切にしてくれていから。
「あった。」
埃が溜まった箱の中に目印として使うポールがまだいくつか残っていた。
ポールをいくつか取り出して箱を元に戻した。
父さんがいなくなってしばらくして、この倉庫の中を調べたことがあった。
僕には使いかたがよくわからないものが多かった。だから僕がわかるもの以外はあまり覚えていなかったけれど、そのなかから一つだけ気になるものがあった。
一番すみっこの棚に置かれている銀色の箱。気になって開けてみるとその中には何かの骨と、よくわからない生き物と、紙…ノートが入っていた。
僕には何かわからないし、いなくなった父さんの秘密を探っていることをなんだか母さんに怒られる気がして何であるか聞けなかった。
僕は今文字を読めないし、何が書かれているのか怖くて、開けなかった。
だから、これは僕だけの秘密として忘れるように胸の奥にしまったのだが、この倉庫に来るとなんだか思い出してしまう。
外に出したポールを引きずって昨日の道を辿る。
まだ道は完全に消えていなかったようで安心する。
目星になりそうなものがあるところを間に挟みつつ何もないところに目印を立てる。
ポール自体は簡単なもので、本体を地面に突き刺して立て4本の紐と杭で固定する形式だ。
赤い紐を進行方向。青い紐を家の方向に突き刺す。
これをある程度の間隔で続けるのだが、ポールの数自体はあまりないためそんなに遠いところにはいけない。
今回もドラッグストアまで残した距離的に足りるか少々怪しいが、何もないよりマシかと思ってやっているだけだった。
地道に道を作るのを繰り返す。
ポールをたてて、杭を打ち、杭を打ち、杭をうち、杭を打ち…
「あぁ、やっと終わった…!!」
すぐに地面に倒れこむ。
目先のすぐそこにあの薬局の角が見えるところまで打ち通した。なんともハードな作業か。そもそもこの作業そんなにやってなかったし、やる時も近場かもしくは父さんと一緒にやっていた。
というか、僕はほとんど補佐で父さんがほとんどやっていた。
疲れた。非常に、面倒臭かった。
そしてこれから、家に帰らなければならないというのか。考えるとなおさら嫌になってくる。酸素ボンベの管を伸ばし、地面に下ろす。
それを引きずってあるきドラッグストアの入り口に向かった。
「あれ」
前回割ったはずの入り口が綺麗さっぱり治っていた。
昨日会ったことはなんだったのか。全て夢だった?
けれど僕は昨日の道の通りに進んでここに辿り着いている。
どんどんと入り口を叩いた。
なんで、少し動揺が走る。
叩いたガラスは昨日の壊す前のように硬いままだ。
いや、でも夢なはずがない。だって僕は昨日落ちて怪我してるし…それに防護服だって、破れてしまって。
…もしかすると、ここは昨日と違う建物なのだろうか?
背筋が少し寒くなる。僕はこの辺をよく知らないからないことじゃないかもしれない。
どんどん。叩く。
もう一度壊さなければ。そんな考えが頭を巡る。
引っ張ってきたボンベを見る、そうだ、昨日使ったボンベはまだここにあるはず。
きっと中に入れば、薬もボンベも…ネオもいるはず。
ゆっくりと立ち上がってボンベを両手で抱えた。
「このアホ!!せっかく直したガラスをまた壊す気か!」
横から声が聞こえて振り向く。
しかしその方向にも誰もいない。
「ね…ネオ?」
「おい坊主、ここから入れ。」
地面の…地面の中からネオが顔を出して、話かけていた。
「全く、どこの誰かと思ったらお前か。間に合ってよかった。」
「ご、ごめんなさい。…てっきり違う場所なのかもしれないって思って…入らなきゃって。」
「…はぁ、とにかく次はここから入るようにしてくれ。ほら、灰が入る前に行くぞ。」
そういってネオは僕についてくるように促した。
「そのリュックサックは俺に渡せ。抱えながらだと引っかかるかもしれないからな。」
そう言ってネオは僕が抱えていたボンベを受け取り先に中に下ろした。
その後他に荷物がないことを確認して彼は下へと下がり始める。
僕もそれに倣って彼の後をついて中に入っていった。
ついて、と言っても後ろ向きではあるのだが。いつの間にかこんなにくだらないことを考えて少し笑みをこぼしていた。
灰色の傷に花びらを 夏秋冬春 @SAWS
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