5
「にぃに!!遅かったねぇ。」
家に帰って着替えると、すぐラナが抱きしめてきた。
いつものことだ、けれど今回はなんだかいつも以上に安心してどっと疲れが出てきた。
「ラナ…今日はどう?元気だった?」
「うん!元気だったよ!今はにぃにに会えたからもっと元気!」
「そっか」
ラナの頭に手を伸ばす。
すると、ラナは驚いたように目を見開いた。
「にぃに!怪我してる!!!」
「あ、…。」
言われて思い出す。
そういえばそうだ。今日は穴から落ちて、ネオに殴られて、いっぱい怪我したんだ。
言われて気がつくとなんだかヅキヅキと顔や身体が痛み始めた。
少し苦笑いを浮かべて考える。何て言おうか。
「んー今日は新しいところだったから、転んじゃったんだ。にぃにのカッコ悪いところばれちゃったなぁ~。」
茶化すように頬を掻いた。
「カッコ悪くなんてないよ!!にぃに…痛くない?大丈夫?」
「痛くないよ。大丈夫、大丈夫。」
強引にぎゅっと、心配そうなラナを抱きしめる。
なんだかとても愛おしくなってしまったのだ。
腕のなかのラナは不満そうに少しごねたが、あきらめたのか「どこか悪くなったらすぐに言ってね」とだけ言い、僕の背中に腕をまわした。
本当に今日は色々あった。
今日、と言ってももう明日になってしまっているけれど。
「もう遅いから眠ってるかと思ってた。」
「日中にねいっぱい寝たから、にぃにと会いたくて待ってたの。にぃにはどうだった?」
「にぃにはね、今回はたくさん収穫があったんだ!新しい建物を見つけて、…そこで、…ラナが使えそうな薬を持って帰ってきたんだ。ほら!」
持っていた巾着袋をラナに渡す。
ラナはやったと嬉しそうに取り出して薬を並べて行った。
「頭痛薬、胃薬、漢方、…冷え性の薬まで!わぁ、お薬ってこんなに種類があったんだねぇ。」
「そうなんだ、見つけた場所はドラッグストアって言うらしくてね、ここにある以上にいっぱい薬が落ちてたんだよ!それに中もまだ壊れてなくてね、びっくりした。…僕ももっと勉強をしておけばよかったな、そしたらもっと大切なものを見つけられたかもしれないのに。」
「…にぃに。…大丈夫だよ、にぃに!にぃにの代わりにラナが読めるもん。だから、ラナがにぃにのお手伝いできるよ!」
にっこりとラナは僕に向かって笑った。
笑顔が眩しくて、その頭に手を伸ばした。
「ありがとう。じゃあ、…この薬の使い方多分箱に書かれてると思うんだけど、にぃに読めないんだ。ラナは読める?」
撫でられて少し心地良さそうなラナはにっこりと頷き、元気な返事をした。
そうして並べた箱を次々と裏返していき、文字を読み始めた。
「うん、大丈夫!全部読めそう!…にぃにの前に建物にいた人は親切だったんだね。」
「え、どうして?」
「ほら、全文じゃないけど、簡単に使い方書かれてるでしょ!」
「…本当だ。」
ラナの言う通り箱には使い方が書かれていた。
『ごはんのあと、につぶのむ。いちにちさんかい』
これはネオだ。…きっとネオが、僕が難しい字や言葉を知らないと気づいていたから使い方まで書いてくれたんだ。そう思うと、なんだか胸がぎゅっとして、泣く前のような熱さが少し喉につっかえた。
「やさしい人だね。きっと誰でも使えるようにって書いてくれたんだよ。」
そう言ってラナはぎゅっと箱を抱きしめて、この人が今幸せだったらいいね。と呟いた。
僕はそれを聞いて、無言で頷くことしかできなかった。
それからラナは丁寧に箱を薬箱に詰めて片付けた。
ラナもお手伝いできるから、今度安全で元気な日にでいいからこのドラッグストアに連れて行ってほしいと軽くお願いしてきたが、危ないし遠いからと僕はそれを拒んだ。
ラナは食い下がることはせずに少し、悲しそうに「そっか」とだけ返事をして俯いた。
ラナはきっと本当に僕の手伝いがしたいのだろうと思った。
確かに外に興味もあるだろうが、それ以上に少しでも暮らしを手伝いたいのだろう。
ラナは病気で、細くて、とてもあそこまでの道を歩けるとは思えない。それに彼女の体調を考えると安全にしたほうがいい。僕は心の中でつぶやいた。
ラナだってきっとわかってる。わかってくれてる。
けれど、彼女の顔を見るとなんだか胸が痛くなった。きっとラナの憧れに共感できてしまったからだ。今日感じたドキドキやワクワクをラナから取り上げてしまってる。僕の判断で。
けれども、…なんとなくだがどうしてもあそこにラナは連れて行きたくなかった。
なぜだかわからないけれど、嫌だった。僕の僕だけの場所にしたかった。
妙に胸がつっかえてズキズキする。
僕は誤魔化すようにラナを抱きしめた。
「ごめんね、ラナ。…病気が治ったら、良くなったらまた話そう。…それまで代わりと言ってはなんだけど、にぃにに読み書きを教えてくれないかな。」
無言のままラナは何も言わず、細い腕で弱々しく僕の腰に腕を回し、ぎゅっと服を掴んだ。
そして、こくん小さく頷いた。
きっと、わかってくれたんだ。ラナは今泣いているだろうか。
僕はなんだかラナが怖くて、どんな顔をしているのか見ることはしなかった。
「にぃに、明日もまたご飯探しにいくの?」
少しだけさみしそうな、元気が無さそうなラナの声だけが聞こえた。
「…そうだね、お薬はたくさん見つかったけど、ご飯は足りないし…それに今日見つけた場所も忘れないうちに覚えなきゃならないから。」
僕はそう言いながらごまかすように頭を撫でた。
「そっか。…ラナ良い子でまってるね。気をつけて、ちゃんと帰ってきてね。」
「うん。ラナ、にぃにはラナが大好きだよ。ごめんね。」
ラナ。僕の妹ラナ。大切な、僕の最後の家族なんだから。
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