野添くんの告白

結騎 了

#365日ショートショート 039

 学内に密かにファンクラブがある野添くん。まさか、彼に呼び出されるなんて思ってもみなかった。どうしよう、私のこの気持ちに気づかれでもしたら。待ち合わせの校舎裏が近づく度に、顔から火が出そうになる。

「あ、ごめん。急に呼び出して。用事とか、なかった?」

 野添くんは、整った顔立ちに似合わないほど、頬を真っ赤に染めていた。これはやっぱりそういうことなのかな。サッカー部のキャプテンで、身長が高く、手足も長い野添くん。緊張をごまかすためか、その長い手足に落ち着きがない。言葉を必死に紡ごうとしているのか、さっきからとにかく挙動不審だ。

「あ、あの、さ……」

 ごくり。身の縮む思いだ。

「あんまり、俺。上手く喋れるタイプじゃないから。率直に言うね。飯田、好きだ。俺と付き合ってほしい」

 ああ、やっぱり。彼の口から私の名前が飛び出すなんて。どうしよう、本当にどうしよう。こんなの、手に負えないよ。

「ごめんね、突然こんなこと言って。でも、俺、ずっと見てたんだ。飯田のこと。飯田って、なんか皆とは違うっていうかさ。自分があるって感じがして。それに、いつもすごく皆のこと気にしてるよね。クラスで友達が少ない人とか、よく話しかけたり。というか、クラス全員とあんなに仲良いの、飯田だけだと思うんだ」

 びっくり。野添くんって、そんなに私のこと見てたんだ。

「だから、俺、そんなお前に惹かれて……。よかったら、俺の彼女になってほしい」

 きっと、誰もが舞い上がってしまうのだろう。本当は、喉から手が出るほど嬉しい告白だ。私も、野添くんと親しい関係になりたい。それをすっごく望んでる。ふたりでしかできないこと、彼といっぱいしてみたい。手を握って、目を見て、そして。もっと、もっと、してみたい。でも……

「ごめんなさい」

 こうやって、頭を下げるしかないの。本当にごめんなさい。

「……こっちこそ、ごめん。本当に。今の話、忘れてくれていいから」

 そう声を震わせながら、野添くんは正門へ小走りに駆けていった。野添くん、ごめんね。気持ちはありがたいの。でも、まだその時じゃないんだ。

 それにしても、気づかれちゃったかと思った。危ない危ない。もし正体を問いただす内容だったらどうしようって、焦っちゃった。私が地球侵略を企むディオム星人の調査員で、今はこうして人間に擬態していて、その気になれば喉から手が出てくるし、この両腕はただの飾りだし、念じれば体のサイズを自由自在に変えられるし、顔から火炎放射もできるなんて、彼に知られたら大変なことだった。でも、本当に美味しそうだったな。友達以上の関係になれば、ゆっくり食べる機会も作りやすそうだったのに。クラス全員の品定めもとっくに済んでいて、きっと美味しいのは野添くんと前原くんと城崎さんだって目星はついているのに。……いやいや、もう!調査員の食事は禁じられているんだから!私ったら、いけないディオム星人っ!

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