第100話 第1話のリメイクを書いてみよう 『暗がり・改』

 この街は夜も眠らない。天突く建造物に鈴なりに実る電飾看板、古式ゆかしいネオンサインの青とピンク、数多のオフィスビルの窓からこぼれる室内灯の白い光、酒を呑め新しいサイバネを買えとがなり立てる広告立体映像アド・ホロ。みっちりと密集して建つ二百メートル級超高層建築物群の威容が形作る渓谷には、昼間と変わらぬ光が満ち溢れている。

 街の光にかき消えて、夜空に浮かぶ星の光もあいまいだ。しかし、電飾と立体映像ホログラムでけばけばしく彩った不眠症都市にも、光の届かない場所はある。高い高い建造物に挟まれた裏路地には、古い暗闇が残っていた。

 常世の小道に、二つの足跡が響いている。一つは俺の、一つは俺の後ろから響いてくる。コツ、コツ、コツ。銀クロームに光るアサルト安全靴の足先がアスファルトを蹴る様を、俺は幻視する。額に汗が滲む。歩みを早める。足音がついてくる。ふいに低音の男の声が後ろから響き、俺を背を突き刺す。

「おい、止まれ」

 男の言葉の通りに、俺は歩みを止め、振り返った。男は二メートル近い巨漢で、銃身の短いコンパクト・ショットガンを持っていた。ポンプアクション式で、総弾数は4発のやつ。身体の大きい男が持っていると、大きめの拳銃にも見える。ショットガンの銃口は俺の顔面にまっすぐ向いて、その底知れぬ暗さを見せつけていた。

「手を挙げろ――」

 男が言い終える前に、俺は手を挙げた。俺の前腕がぱっくり割れて、本来尺骨のあるべき場所から黒い銃身が飛び出す。カチ。腕部内蔵式売り畳み20mmグレネードランチャーが瞬時に組み立つのを感じる。俺は銃口を男の額に向け、心の中で引き金を引いた。

 強い反動。へたくそがやるスイカ割りのスイカみたいに、男の頭が爆ぜて赤いものをあたりに飛び散らす。脳だか皮膚だかが俺の頬まで飛んできて、へばりついた。

「……くそっ」

 頬を拭いながら、俺は舌打ちをした。武器腕に内蔵するための特殊弾頭は、べらぼうに高くてチンピラひとりの命には到底贖わない。大損だ。

 だがまあ、致し方ない。こういう日もある。そう納得するしかない。今日に限って他の武器を携帯していなかったことを悔いながら、俺は暗い小道を去った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

デッドコピーたこはちの習作 デッドコピーたこはち @mizutako8

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説