転生初日

「ッ....ここは....」


 気が付いた時には私は、見たことの無いような森の中にぽつりと立っていた。手元には、いくらかの草の束があって....まるで私が乗り移るまで別人がここで、何かをしていたとでも言わんばかり様子がそこには広がっている。

 転生、と言っていたけど実際には憑依ではないのか。そう、思わずにはいられないようなことであるのは間違いがなく......けれど、私がどうこうすることのできるような話のレベルではとっくのとうに、なくなってしまっているのだから。


「エヴァン・アティさん.....ごめんなさい」


 きっと聞こえていないと思うけど、私はそう謝らなければいけないと思ってしまう。彼女には彼女が生きるべき人生があったのかもしれないのに、私がそれを奪っていしまったのだから。

 もしも彼女の.....エヴァン・アティの魂なんかが残っているならば責めてもなんて思って。それは、きっと私の偽善でしかないけど、これをやらないなんて選択肢にはない。


「エヴァンさんは.....お母さんとの2人暮らし....ですね」


 彼女の記憶というものは私の中に流れ込んでくる。少し、違和感は拭えないけどそれでも、元々この体が持っていた記憶だからなのか特に頭が痛むといった、ラノベとかでよくあるようなことが起きるわけではない。

 それはそれでよかったというか、何ともいうことが出来ないような気持になってしまうというか.....複雑な気持ちに私がなってしまったということ自体は間違いがないのかもしれないけど、それでもと。割り切らなければいけないと、どこか私の冷静な心のようなものが私に語り掛けてくる。


「.......」


 記憶をたどれば、どうやら自分は.....エヴァン・アティはここに薬草を集めに来ていたようで、まだ目標の数に集まっていない為、薬草探しを再開する。不思議なことに、どれが状態のいい薬草なのか見分けることが出来て.....薬草探しにはそこまで苦労をするということはなかった。

 これもきっと、エヴァンさんのおかげなのだろう。


「そういえば.....『ステータス』」


〈ステータス〉─────────────


エヴァン・アティ(人族ヒューマン

体力:2011/2300

魔力:11万/29万

攻撃力:191

俊敏:224

防御力:579

魔法防御力:12900

幸運:200


スキル

光魔法LVⅠ、聖魔法LV.Ⅱ、魔力制御LV.Ⅹ


称号

異世界人、転生者、聖女、女神の使者


─────────────────────


「これが私の.....」


 作業をしている中で、ふとステータスを呟いてみればエヴァン・アティのステータスが私の目の前に半透明の板のようなものとして表示される。初めて見る単語、はおおいけど転生特典なのかはたまたこの体のおかげなのか.....すんなりと私は書いてあることが理解できる。

 そしてこれらが、一般人の基準を大幅に超えているような数値をしているということも同時にわかってしまう。


 主人公、とはよく言ったものだ。今はまだ、何人かいるのかもしれないけど.....最終的な、要するにレベルカンストまでに至った私のステータスを越える存在なんてものはいないと、私の直感がそう告げている。

 それほどまでの力。存在してはいけない力、とまでは自分自身の力である以上言いたくはないけど仮にそういわれてしまったとしても仕方が無いと、どこか納得をすることが出来るような....そんな力。


「(これがきっと、聖女たる所以だよね....)」


 少なくとも一般人、貴族などがいるこの世界の中で平民に分類される私が持っていい力じゃないのは確かで....だからこそ、エヴァン・アティという存在が物語の主人公で正常であるということの証明になるのかもしれない。

 不安がないと、断言をしてしまうのは嘘になってしまうけど....不思議なことにこの世界でも私はなんとか暮らすことが出来ると、そういった確信も持つことが出来てしまう。それは、転生したからなのか或いはエヴァン・アティという少女が誰からも好かれるような存在だったからなのか....借り物の私にはわからない。


「本当に、ごめんなさい.....」


 さっきから何度も、謝罪の言葉が私の口から出てしまっているけどそれでも私の気持ちが晴れることはない。体を勝手に奪っておいて今更どの面を下げて謝っているのか.....自分自身で、そう思ってしまっているからなのかもしれないけど、しばらくこの罪悪感が消えることはないのだろうと、自分自身のことだから。

 自分自身のことだからこそ、深く深くしっかりと理解をすることが出来てしまう。


 けれどそれでも、もう転生をしてしまったものはしてしまったのだから生きなければいけない。薬草を集め終わっていた私は、たくさんの不安の中にどこか期待のような感情を抱きながらも、この記憶をたどって自分が住んでいる街に、家に帰るためのルートに向けてゆっくりと足を動かす。

 ......幻聴のような声で何かが聞こえた気がするのはきっと私の気のせいだろう。

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五度目の転生は平凡で~元勇者で聖女で大賢者で魔王な私は平凡を求める~ 潮風翡翠 @kirisamemarina

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