幕問:聖女の生活

聖女の転生

 私、不知火禊しらぬいみそぎという存在は何の変哲もない女子高校生だった。成績が特別いいというわけでなければ、運動神経も普通....というよりかは中の下といったところ。

 どこまでも変哲のない、普通の人生。それはそれで楽しかったけど.....つまらない、なんてことを思ってしまっている。それがダメなことであるというわけではないのかもしれないけど、少なくとも私には刺激が欲しいと、そう思ってしまう程度の日常でしかなかった。


 ──────だからこそ、転生をしたとわかったときには内心テンションが上がった。それはもう、これを表に出してしまえばテンションが限界突破して不審者じゃないかなんて視線を向けられる程度にはテンションは上がった。

 どうして、私が死んだのかはわからない。覚えているような覚えていないような.....何かから女の子をかばったということは覚えているけど、それ以外のことを思い出すことが出来るわけではなく、気づけば他のことに私の興味というものは流されていった。


『妾の名は創造神ロヴァー。哀れな魂の持ち主である、そなたをここまで導いたものなり』


 始まりはそんな言葉だった。気が付いた時には私は、何もないような真っ白な空間に立たされていて.....そんなことを言ってくる偉そうな女性の人が私の目の前にいた。

 神々しい、とは思うことが出来るけどどこか胡散臭い、とも思うことが出来てしまうそれは自らのことを創造神を呼んでいるようなのだがどこか....創造神と名乗るのには威厳が足りないようにも感じてしまう。


「えっと私は....」


 心の中ではテンションぶち上がりではあるものの、至って冷静に務める。何とかといった感じでそれはできるけど....いつぼろが出てしまうのかわからないから、何とかといった感じでしかない。

 それにしても、創造神.....こういうのってもっと普通下級の神様とかが来るんじゃないのかな......


『そなたは哀れなことにも、死ぬ必要のないところでその生を終わらせた。哀れに思った妾は、そなたにチャンスを与える』


「チャンス、ですか....?」


 あ、死んだんだと。そう思いつつもサラーっと流されていることなのは間違いがないし.....今更どうこうすることが出来るようには到底思うことが出来ないからそれは私の中でも不自然なほど・・・・・・素直に受け入れることが出来る。

 .....あれ?今、私何を考えて......


『哀れな生物、不知火禊しらぬいみそぎ。そなたはエヴァン・アティとなり次の人生を与える』


 変だと、自分の考えていることが私の物でないと.....一瞬だけそう思ってしまったけど、その考えは創造神の声によってかき消されることになる。

 それにしても、エヴァン・アティ.......確か、有名な乙女ゲームの主人公だった....よね?私は、お金がなくて買うことが出来なくてプレイもすることはできていないけど、クラスメイトが会話内容に出していたのは覚えているし......それに、こういった系統のラノベっていうのはちょくちょく読んでいる。


 アルバイトの時間つぶしに、無料のWEB小説は読んでいるからそこそこ.....というよりかは普通に知識はある方だと思うし、何とかは....できるのかな?


『ふむ....そなたにはこのゲームの知識がないようだな』


「あ、はい。やったことがなくて.....」


 まぁ、ここで創造神に嘘をつく理由なんてものはないしその言葉には素直に頷いておく。でも、なんで創造神が私がゲームをプレイしたことがあるかどうかを気にするのだろうか.....?

 何か特別な事情・・・・・がない限りそんなこと気にしなくてもいいと思うし.....私に、何かをしてほしいということなのかな?


『であるのならば、最低限の知識を与えよう』


「え....?」


 どういうことと、口に出そうとした瞬間にはすでに手遅れだった。その知識というものは私の中に流れ込んでくるし.....それを、理由はわからないけど絶対に忘れることがないなんて言う自信と共に完璧に覚えることが出来てしまう。

 エヴァン・アティ....ラグナロク・イーリス、ルイ・イーリス、フランジュ・スフォルツァ、レイ・ボルジア.....そしてリース・メテンソマ。様々な人物の名前が、情報が私の中に入り込んでくるけど.....最後の、所謂悪役令嬢のような人物に対してだけ、殺意を覚えてしまう。


「.....リース・メテンソマ」


『ほう、そいつか。それは、悪役令嬢と呼ばれるものでな....悪逆非道の限りを尽くす矮小なる存在だ』


 入ってきた情報の中で、リース・メテンソマという存在だけは一線を画す。明らかに、悪逆非道の限りを行っていて....乙女ゲームというだけあって様々なルートが存在している見たいだけど、そのどれもでも彼女が反省をしている様子を見せることはなく処刑されている。

 あまりにもひどいと、あまりにも怒りを覚えてしまうと。そう、無意識の中でも私はその光景に対してそんな感情を抱くことになってしまった。


『この世界の主人公は、そなただ。そのリース・メテンソマを殺すのも奴隷にするのも.....何をするのもそなたの自由だ』


 甘い甘い言葉。私の感情を見透かしているかのように、それでいながらどこか私の考えを無視しているとも思うことが出来てしまうような、そんな甘い言葉。何を言いたいのかわからないほど私の思考能力というものは馬鹿ではない。

 その言葉を最後に、私の意識は真っ白な空間にへと飛ばされていく.....創造神が最後、邪悪な笑みを浮かべているように見えてしまったのはいったいなんでだろうか。

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