バッチヤラ。正体不明のVTuber集団
シカンタザ(AI使用)
バッチヤラ。正体不明のVTuber集団
1
「バッチヤラ」というVTuber団体がネットにデビューした。
最初に投稿した動画のタイトルは「我々は実在する。証明しよう」だった。その動画の内容はVTuberの日常風景を撮影したものだった。
この動画を見た視聴者たちは
「え?ただの一般人じゃね?」
「いや、普通に生活してるだけじゃんwwww」
「これって、普通の人だよね……」
とバッチヤラの正体について様々な意見が飛び交った。
とあるVTuber事務所の社長の仮木雄一はバッチヤラのデビュー当時から注目しており、彼らの配信をずっと見ていた。ある日、彼は社長室で事務作業をしていた。その時、彼のスマホから通知音が聞こえてきた。
「ん?なんだ?こんな時間に…………えっ!?」
通知音を聞いてスマホを確認した瞬間、彼から驚きの声が上がった。
通知音の正体は彼の会社に所属するVTuberたちのグループチャットであった。
会社で1番人気のVTuberであるモギメゆきり(人間換算で18歳の精霊というキャラ)が突然こんなメッセージを送ってきた。
「なんか今日めっちゃ疲れてる……もう無理かもしんない……」
彼が所属する会社のVTuber全員にこのメッセージを送信したようだ。
そのメッセージを見て、彼はすぐに返信を送った。
「大丈夫か?俺も今忙しいけど少し話をするよ。どうしたんだ?」
そう返事を送るとモギメゆきりが社長と2人で話をすることを提案し、彼は承諾した。
「実は今日の収録の時にミスしちゃってさ……それで周りのメンバーからいろいろ言われて落ち込んじゃったんだよねぇ……それでさぁ、社長はバッチャラって知ってる?」
「あー!あの謎の集団か!」
「知ってるんだ!実はね、私もそのバッチヤラに加入したんだよね~」
「マジで!?全く気付かなかったぞ!」
バッチヤラに加入していることを知った彼は驚いた。彼が知る限りではこの業界にはそんなVTuberはいないはずだからだ。
「でも、なんで加入したんだ?うちとの契約もあるだろ?」
加入理由を聞くとゆきりはすぐに答えた。
「えっとぉ~……特に理由は無いかな~……気がついたら加入してました☆テヘペロ♪」
「はぁー……」
頭を抱える社長。
「お前なぁ……。まぁいいや。それで、これからどうするつもりなんだ?」
「う~んどうしようかなぁ~」
バッチヤラに加入しても今まで通りに活動していくつもりだったらしい。彼としてはゆきりの気持ちを尊重したいが、こちらでの活動に支障が出ると困る。
「とりあえず、バッチヤラのことは忘れていつも通り活動をしてくれないか?」
ゆきりにそのことを伝えると彼女はあっさり了承してくれた。
その後、ゆきりはバッチヤラから離れた。社長は公式サイトにある連絡先に電話をかけたがとても紳士的な対応だった。
「それにしてもバッチャラって何者なんだろうな」
彼は改めてゆきりに話しかけた。
「わからないけど、バッチヤラのファンになった人たちがファンアートを描いてくれてるから私も嬉しいんだよね!」
「そうなの?」
「うん!ほら見てみて!」
ゆきりが見せてくれたバッチヤラのファンアートはボ美美というユーザーネームの女性が描いたものだった。
その絵を見た彼はあることに気づいた。
「あれ?この絵どこかで見たことあるような……」
「それ、私だよ!バッチヤラに入った時、ファンアートがたくさん投稿されててさぁ、こっちでやってるデザインと似てるでしょ?」
「確かにそうだな」
それからしばらく経ち、バッチヤラによる配信は同接10万人を超える程にもなっていた。
雄一はバッチヤラについて調べていた。
「いまだにオフではどんなことをしているのか全然わからんな。メンバーも正体不明だし」
すると彼はあることに気が付いた。「ん?このアイコンのイラストってモギメゆきりじゃないか?」
アイコンに描かれているキャラの名前はクラン・モンテール(北欧の女子高生キャラ)。モギメゆきりとそっくりでゆきりがバッチヤラに加入した時期には活動していた。
「まさか……な」
彼はこのことを誰にも言わず心の中に留めておくことにした。
後日、モギメゆきりはバッチヤラに正式に移籍することが発表された。彼女がひそかにバッチヤラで活動していたことがばれていて、チャンネル登録者数は激減していた。
モギメゆきりの移籍に伴い、雄一は新しいVTuberをスカウトしてきて、彼女にデビューさせた。
彼女がデビューした日に、モギメゆきりの最後の配信がされた。その内容はモギメゆきりが改めてバッチヤラに移籍するということを報告するものであった。
「皆さんこんばんは、モギメゆきりです。この度、バッチヤラに移籍することになりました。理由はいろいろありますが、1番の理由としてはモギメゆきりを応援してくれる人が減ったからですね」
視聴者たちは困惑していた。
「いや、何言ってんだよ?」
「意味わかんねぇんだけどw」
「おい、誰か止めろよ」
様々なコメントが寄せられるがゆきりは気にせず話を続ける。
「私だってこんな理由で戻ってくるつもりはなかったですよ?でも、最近、バッチヤラのメンバー同士で喧嘩があって、そのせいで私の居場所が無くなって……それで私は思ったんです。このままだとダメだ。ちゃんとしたところに所属して活動しないといつか居場所がなくなるんじゃないかって……」
涙声になりながら彼女は話す。
「は?」
「は?」
「は?」
お前は何を言ってるんだ?という心境の視聴者。
「だから……これからはバッチヤラのメンバーとしてじゃなくて1人のモギメゆきりとしてよろしくお願いします!」
そう言い残してゆきりは配信を終えた。
「えっ……どういうこと?」
「なんかよく分からなかった」
「結局、ゆきりんは何がしたかったの?」
「もう引退でいいじゃん。どうせすぐ消えるんだからさぁ」
そんなコメントが多く寄せられた。
ゆきりの配信が終わって数時間後、雄一の社長室の電話が鳴った。
「もしもし?」
電話をかけてきたのはゆきりだった。
「あ、社長さんですか?バッチヤラのモギメゆきりです。突然すみません……」
「ああ、ゆきりか。配信見てたよ。大丈夫か?」
「はい……。大丈夫です。あの……社長、ごめんなさい」
「いいんだ。新しいところでもがんばれよ」
「はい……」
電話を切った。なんだったんだろう。それにしても、バッチヤラとはいったい……。彼は途方に暮れた。
2
モギメゆきりとクラン・モンテールがコラボ配信をした。クラン・モンテールは女性であることを公言している。
「こうしてゆきりちゃんと配信するのもご縁だね!」
クランがはにかむ。その笑顔を、ゆきりもまた微笑みながら見つめる。
「そうですね」
ゆきりの声色は、普段よりも少しだけ低い。それは彼女が、自分の中の感情を押し殺しているからだろう。
「あー! 緊張してるでしょ?」
「落ち着けよ」とリスナーからスパチャが投げられる。
「大丈夫。ただ、いつもより声が低くなってしまって……」
ゆきりが申し訳なさそうな顔をした。だが、リスナーたちにはそれがむしろいいらしい。
「もっと低くてもいいぞ!」「そのまましゃべって」などとのコメントが流れる。
「それでは……皆さんありがとうございます。」
ゆきりは小さく頭を下げた。そして顔を上げると同時に表情を引き締める。
「本日はよろしくお願いします。」
「こちらこそだよ~! 一緒にゲームやろうね!」
「はい」
ゆきりとクランが微笑み合う。そこに、リスナーたちがスパチャをしてきた。
「おぉ!?」
「うおっ!」
リスナーが驚いた。なんとゆきりが、このタイミングで500円分の投げ銭をしたのである。
「え? ちょっと待って。どういうこと?」
困惑するリスナー。クランに500円が渡っていた。コメント欄には、「初手500円分とか勇者すぎるw」「まじでびっくりした」などという言葉が流れていく。
「いえ、こういう時は気持ちよくゲームを始めてほしいと思っただけです」
「なるほどなぁ」
「これは良い子過ぎる」
「もうゆきりん大好きになったわ俺」
そんな言葉が流れるのを見て、こいつらゆきり全肯定勢かよ…とクランファン側のリスナーが呆れた。
「でも、貰っちゃったから使わせてもらうね。ありがとう」
クランが言う。それに対して、ゆきりは無言のままこくりと肯いた。
「じゃあさっそくだけど、ゲーム始めようか。今日やるゲームはこれだよ」
2人はFPSのマルチを始めた。
「このゲームやったことある?」
「はい、何回か。あまり上手じゃないけど」
「まあまあ気にしないで。私も全然上手くないからさ」
「そう?」
「うん。初心者だからさ」
「わかった」
その後しばらく2人のプレイが続いた。「あれ?」
クランが首を傾げた。
「どうしました?」
「なんか、私のキャラ弱くない?」
「弱いですか?」
「うん、普通に強いはずの人がめっちゃ雑魚になってるんだけど……。これ、バグかな?」
リスナー「バグじゃないだろ」
ゆきり「絶対違うよね」
クラン「そうだね。多分、他の人が強く設定されてるんだと思う」
ゆきり「そういうこともあるのかー。気をつけないとね」
「いやなんでそうなるw」リスナー者がツッコミを入れる。
「確かに」
思わず笑うクラン。リスナーたちも笑っている。
「やっぱり面白いなー!」
ゆきりが言った。そこで彼女は、リスナーたちに向かって語りかける。
「実は私、ずっと黙ってたことがあるんです」
「ん? なんだろ?」
「私は本当は男性恐怖症なんです。それで、今まで男性と接する機会を避けてきたんですよね」
「えぇ!? そうなの!?」
クランが驚く。
「はい。それで今、その克服のために配信をしてるんです。」
リスナーたちがざわつく。中には、「マジかよ……」という声もあった。
「それなのにこんなに楽しく会話できちゃってるなんて……すごい不思議ですよね」
「えぇ……私は女だよ?」
ゆきりの言葉を受けて、クランが困惑している。
「ふふっ、ごめんなさい。冗談。ただ、本当に楽しかったから、つい言ってみたくなっただけ」
ゆきりが悪戯っぽく微笑む。そしてすぐに真顔に戻った。
「皆さんのおかげで、だいぶ良くなってきたと思います」
ポカンとするクランとリスナー。
「だから、これからはもっといろんな人と話せるように頑張りますね」
ゆきりが言い終わると同時にゲームが終了した。
「あの、ゆきりちゃん?」
クランが呼びかける。
「はい?」
ゆきりがクランに顔を向ける。
「いやあもう噂通りやべーやつだねあんた!ハハッ」
クランが笑うと「それなwww」とリスナーがコメントをした。
「そこがいいんだよ」「ゆきりんはかわいいね」「ゆきりん大天使」とゆきり全肯定リスナー。
「やべーの来たな」「なんだこいつら……(ドン引き)」「後方腕組み彼氏面やめろや!」とクランサイドのリスナー。
この配信を見ていた仮木雄一は、ゆきりが上手くやれているようで一安心した。バッチヤラの素性については相変わらず何もわかっていない。だが、今はこれで十分だと彼は思った。
その夜。雄一の会社にて。
「そういえばゆきりさんって、うちの所属VTuberとちょくちょく連絡しているんですよね」
「そうなんだ」
社員から聞いた雄一は何となく嫌な予感がした。
翌日、ボ美美がゆきりとクランのファンアートをSNSに投稿した。ボ美美はバッチヤラのファンアートを精力的に描いていてフォロワーは1万人ほどいる。そんなボ美美がある事件を起こしたようで……?
3
バッチヤラのファンアートを精力的に描いているボ美美は配信もしていた。ある配信でこんなことを言った。
「あんまフォロワー増えないね…。」
ボ美美は自分の絵はもっと評価されるはずという思いがあった。
「ヘラってんじゃねーぞ」
次々とリスナーから辛辣なコメントが寄せられる。
「いや、なんていうか、その……」
「お前なんか応援する価値もないわ!」
リスナーの一人が言うと、それに便乗してどんどん批判のコメントが増えていく。
「おい!謝れよ!!」
ボ美美が怒鳴る。いつもはこれぐらいではキレないが最近は気持ちが沈んでいた。しかし、リスナーたちは一向に謝ろうとしない。それどころかさらに罵倒を続ける。ボ美美はブロックしていく。
「あぁもういい!この放送終わります!お疲れ様です!!」
そう言って放送を切る。
「なんであんなこと言われないといけないの?私だって一生懸命描いてんのにさ……。」
それから数日経ってもボ美美の気分は晴れなかった。そんな中、モギメゆきりの配信が始まる。
「みんな~今日も来てくれてありがと~」ねぇ聞いて欲しいんだけど……。」
そこからはリスナーからの質問コーナーが始まった。ボ美美はその流れに乗ってスパチャで自分の悩みを打ち明けた。
「最近、色々上手くいかなくて……。私の絵が評価されないし、他の人も全然伸びていかないし……。」
それにゆきりは
「えーっと。私は絵とか詳しくないけど……そういう時もあると思うよ。気にしない方がいいんじゃないかな?」
「でも、私、頑張ってるんだよ!?なのにどうして評価されないの!?」
ボ美美がまたスパチャを送った。ゆきりとリスナーは困惑する。
「あの、質問コーナー終わり!それで昨日クランが…」
「うるさい!!黙って!!!」
「あーもう!」
ゆきりがいら立ちを見せる。そして
「あなたにはわからないかもしれないけど、私たちにはあなたの何倍ものお金が必要なの!私たちはプロを目指して活動してるんだから邪魔しないで!!!」
「うっ……。ごめんなさい……。」
その後、モギメゆきりは放送を終了した。
「なんだよボ美美ってやつ……」
「あの底辺絵師だろ?ゆきりんもブロックすればいいのに」
バッチヤラー(バッチヤラのファン名)がSNSでやり取りする。ボ美美のSNSアカウントに苦言を呈する者も多数いた。
「はぁ……もう辞めようかな……。」
ボ美美は呟く。すると
「大丈夫だよ。」
誰かの声が聞こえてきた。周りを見渡すが誰もいない。気のせいだと思いパソコンの前に座るとまた声が聞こえる。
「誰?どこにいるの?」
「ここだよ」
ボ美美の前に現れたのは白い服を着た少女だった。
「君はだれ?」
「僕は君の味方さ。僕はバーチャル世界の精霊。君のために力を貸しに来たんだ。僕の名はモギメゆきり。よろしくね。早速だけど君の悩みを聞いてあげるよ。」
ボ美美は困惑した。あのモギメゆきり?本当に精霊だったの?っていうか普段僕っ娘なんお?
「どうやら信じてもらえていないみたいだね。じゃあ、僕の正体を見せてあげよう。」
そう言ってゆきりは自分の姿を映している画面に触れた。すると画面にノイズが入り、次の瞬間にはボ美美の姿が映し出されていた。
「これでわかったかい?」
「いや、何もわからないんだけど」
「そうかい?それならもう一度見せてあげよう。」
ゆきりはまたボ美美の姿を映す。
「だからなんなの?不思議なことができるってことはわかったけど……」
「仕方ないなぁ。こうなったら最後の手段を使うしかないようだ……。本当はやりたくなかったんだけど……。」
ゆきりは何かを決心したように言う。両掌を合わせて
「破!」
ボ美美の周りを光が包む。
「え!?」
ボ美美は光に包まれて消えてしまった。
「ふう……。何とか成功させたぞ。これからは彼女もバッチヤラのメンバーとして配信してくれるはずだ。きっとうまくやってくれるだろう。」
モギメゆきりはどこかへ行ってしまった。
数日後、ボ美美が放送を始める。
「こんにちはー!」
「なんだあいつ?」
「新しいメンバーか?」
「おいおい、こんな時期に新メンバーか?」
リスナーたちが疑問を持つ。
「私はボ美美です。今、異世界にいるんですけど、こちらの世界に戻るために仲間を集めています。協力してくださる方はDMで連絡ください。お願いします!」
ボ美美の放送が終わった直後、一部のリスナーが意味深なことを言う。
「おい、これってもしかしたら……」
「ああ、間違いないな。」
「なんだよ何か知ってるんかよ?」
ネット民がそいつらに聞く。
「俺も聞いた話だが、あるVtuberが姿を消したらしい。消えた原因は不明でそのVtuberもリスナーも皆、悲しんでたそうだ。でも、最近になって、いなくなったはずのそのVtuberが再び姿を現したんだ。しかも、別人としてな。」
「それ転生じゃん」
「それはただの転生と違って、この世界とは別の世界に転移するタイプで、Vtuberはその世界で新しく生を受けたってことなんだよ。つまり……ボ美美はそうしてバッチヤラのメンバーになったんだよ」
「何言ってんだよ?じゃあゆきりはなんなんだよ?」
「ゆきりは……多分、ゆきり本人だと思う。だって、モギメゆきりって名前、モギメとゆきりで文字数が一緒だし、モギメって名前のVTuberなんてほとんどいないしな。」
「なんも根拠がねーぞ」
「まあ、これはあくまで噂だ。真実はわからん。」
「はぁ……。わけわかんねーこと言うなよ。」
「まあ、俺はバッチヤラに新しい風が吹いたことを歓迎するぜ。」
(まさか本当に上手くいくとは……。ゆきりの言った通りだ。ありがとう。)
ボ美美はモギメゆきりに感謝しながら配信を続けた。
その後、バッチヤラは更に人気となり、ボ美美の人気も急上昇。ボ美美はどんどん有名になっていった。
そしてボ美美は思った。(もっとたくさんの人に私のことを知ってもらいたい!もっと多くの人と繋がりたい!!)
ボ美美の願いは叶った。
「みんなー!!!今日は私のために集まってくれてありがとー!!」
「いえーい!!!」
「盛り上がってるかーい?」
「おおーーーーーーーーーーー!!!」
「イェーイ!!!」
「今日は、バッチヤラの新人メンバーのお披露目会だよ~。どんな子が来るのか楽しみだね~」
「えぇー?」
戸惑うリスナー
「それでは登場してもらいましょう。どうぞ!」
現れたのは、カマキリだった。
4
ボ美美の放送でバッチヤラの新メンバーとして登場したのは袈裟を着たカマキリだった。
「身を観ずれば水の泡消ぬる後は人もなし。カマキリ僧侶VTuberのシギョモジョ・キマカでーす!」
「うわあ……すげえのが来た……」
リスナーがどよめく。
「今の言葉は一遍さんのだよね?」
「そうそうしょっぎょむじょー!」
キマカが両前足を上げる。
「一遍上人は『よき武士と道者とは、死するさまを、あたりに知らせぬ事ぞ。わが終わらんをば人の知るまじきぞ』と言って、死ぬ前に念仏を唱えなかったんだ」
「本当なのそれ~?」
「キマカも死ぬ時は誰かに悲しまれたくないなぁ」
「デビュー配信でそんな重い話題かよ~」
呆れるボ美美。
「今日はマシュマロに届いた質問に答えていくよ。まずはこれ」
【キマさんこんばんは! 僕は最近VTuberという職業に興味を持ち始めました。そこで、もし自分がVTuberになるとしたらどんなキャラになりたいですか?】
「キマカならそうだねぇ。やっぱり可愛い女の子かなぁ」
「は?」
「は?」
ボ美美とリスナーがあっけにとられる。
「次の質問は」
【キマさんって普段からパンツ丸出しなんですか?】
「パンツ丸出しじゃないもん!!」
キマカが怒鳴り声をあげる。
「なんだこいつ…」
ドン引きするリスナー。
「次の質問!次これ!」
【シギョモジョさんの好きなゲームを教えてください】
「格闘ゲームですぅ!特に部狼伝説が好きぃいいいいい!!!」
絶叫するキマカ。
「次!次!!つぎぇえええええい!」その後もキマカの暴走は止まらず、そのまま放送は終了した。放送が終わった後、ボ美美が呟く。
「あいつヤバいな……」
一方そのころ、謎の空間で宙に浮くモニターを白人金髪碧眼若年男性が見ていた。
「VTuberか……興味深いな……。よし、早速アカウントを作ってみよう」
彼は「バーチャルサキュバス軍団」の団長である。彼の目に映っているのはシギョモジョ・キマカのチャンネル。
「この子が俺の最初の子だ」
彼はニヤリと笑った。
翌日、バッチヤラ公式Twitterにて発表があった。バッチヤラの公式マスコットとして、新しいキャラクターが誕生したとのこと。そのキャラクターは……
「こんにちは、バッチヤラの新しい仲間になりました、バーチャルサキュバス(男性)のマーガラギーです!」
「えっ!?」
驚くバッチヤラ所属のVTuberたち。
「マーガラギー君はVtuberの卵を育成するアプリ『バーチャルサキュバス』で育成された新人さんだよ!」
バッチヤラ代表(仮)が叫んだ。
「よろしくお願いします!」
「マジかよ……」
その様子を見ていた仮木雄一は呆然としていた。
「まさかこんな形でコラボすることになるなんてね……」
その後、バッチヤラ所属VTuberたちが次々と新しいメンバーと絡んでいく様子が動画サイトやSNSなどで拡散され、VTuber業界は大盛り上がりとなった。
「お前ら……どうしてこうなった……」
仮木雄一は会社のVTuberに問いかける。
ピカピカピカーッ!!!
答えを待つ間もなく、あたり一体が光で満ちた。これはモギメゆきりが精霊としての力を覚醒させた瞬間だった。
「うわーっ!!」
仮木は思わず目をつぶる。光が収まった後、一匹の小さなカマキリがいた。
「うわあああああ!!!」
小さなカマキリが叫ぶ。
「おい、どうした?」
カマキリは涙目で答える。
「ここどこぉおお!!?」
「しゃべるカマキリってこわっ!なんなのあんた!?」
雄一が叫んだ。
「知らないよお!!気がついたらここにいて、怖くて、寂しくて、もうやだよお!」
「落ち着け!ここは日本だから!人間しかいないから!」
雄一が必死に説得する。しかし、パニック状態のカマキリには聞こえていないようだ。そこで大地震のような大きな揺れが起きて、床の一部が抜けた。
「うわあーっ!」
二人は穴の中へと落下していく。
「助けてくれええーっ!!」
二人が落ちた先はゴミ捨て場だった。大量の生ごみが散乱している。
「ぐえっ」
「痛い……」
雄一とカマキリは頭をぶつけて気絶してしまった。
「はぁ……」
ため息をつく男がいる。彼はバッチヤラの運営会社社長である。
「はじめまして。私はバッチヤラの運営会社社長の瓜市卓です」
「あ、どうも……もう訳が分かりません」
カマキリはいなくなっていた。
「それはですね……」
瓜市が口を開く。
「実は1年前からバーチャルの世界では大変なことが起きました。それは……」
「それは……?」
「バーチャルサキュバスが男女問わずみんな妊娠して子供が生まれてしまったのです」
「はい?」
「信じられないかもしれませんが本当なのです。今バーチャルサキュバスは子供を育てるのに大忙し。そしてバーチャルサキュバスが全員いなくなったことで、あなたたちの世界とバーチャルサキュバスの世界の次元の壁が崩れ、二つの世界に同時に存在できる状態になっています。つまり、あなたの世界にいるバーチャルサキュバスも、私の会社にもいるということになります。信じがたいと思いますが、これが真実です。ちなみに……」
「もういいです!」
雄一はうんざりした。
「あっそうだ。モギメゆきりのことを教えてくれませんか?彼女はいったい何なんです?」
「あれはバーチャルサキュバスの中でもかなり特殊な個体です。元々彼女の親のサキュバスたちはバーチャルサキュバスをたくさん作ろうとしていたようで、ある実験をしました。それがあのサキュバス増殖剤『バッチヤラ』の開発です」
まるで理解が追い付かない。質問をしようとした雄一の体が急上昇し、会社に戻った。
「なんだったんだ、今のは……?」
部屋には誰もいない。「夢だったのか……?」
数日後、バッチヤラ公式配信。
「今日は重大な発表があります!それは、バーチャル世界へ行けるアプリ『バーチャルサキュバス』の正式リリースが決定いたしました!」
パチパチパチパチ……!! コメント欄は大盛り上がりであった……。
5
バーチャル世界へ行けるアプリ「バーチャルサキュバス」がリリースされた夜、モギメゆきりが空に浮かんでいた。
「ア・ポ・カ・リ・プ・ス!!!!!」
全てが光り輝いた!
ドィウワアアアアアアアアアアアアアァアアアアァアアアアアアアアアアアアアァァーーーーーー!!!!!!!!!!
「うわああああああああああっっっ!!!!!」
衝撃波により、俺は吹き飛ばされた。
ドゴオォオオォオンッ!!!
「ぐえぇ……」
俺は地面に叩きつけられた。
「………………うぅ……」
意識がもうろうとする中、俺は顔を上げた。すると、そこには見たことのない女の子がいた。
「あれ? 誰だこの子?」
白い肌、長い黒髪、青い瞳をした女の子だった。
「…………」
その子は俺をじっと見つめていた。
「きみ、大丈夫か?すごい衝撃があったんだけど……」
「バーチャル世界はね、本当はこういう世界なのよ!」
「ん?」
「あなたもバーチャル世界の虜にしてあげるわ……私の魅力にかかれば誰でも私のこと好きになってしまうんだから!」
「何言ってるんだこいつ……」
「さぁ、行きましょう!」
「おい何をする!?」
女の子に腕を引っ張られると何もない空間から次元の穴が空き飲み込まれた。
「ここは……?」
「ようこそ、バーチャル世界へ!」
そこはまるで遊園地のような場所だった。
「なんだここ?どこだよ?」
「私はね、バーチャル世界を管理している者なの。だからここにいるってわけ」
「バーチャル世界を管理してるだと?」
俺が聞くと後ろから
「そうだよ」
と見た目20代男性が話しかけた。
「私はバッチヤラの運営会社社長の瓜市卓。その子はモギメゆきりだよ」
「あのバッチヤラ!?お、俺は……」
自己紹介しようとするとモギメゆきりと瓜市に止められた。
「いいのよ、名前なんて。どうせみんなすぐに忘れてしまうもの。あなたの名前は今ここで消えるわ」
「なんだよそれ……」
「君はこれから私たちの仲間になるんだよ」
「瓜市さんだっけ?それってどういうことなんですか!?」
「そのままの意味だよ。君には仲間になってもらう」
「バッチヤラとはなんなんですか!?あなた方はいったい何をやっているんですか!?」
「その質問に答える前にひとつ聞きたいことがあるんだけど、君、異世界に興味があるかい?」
「異世界?そんなのあるわけ……」
そう言いかけてあることに気がついた。
「異世界?まさか……」
「察しが早くて助かるよ。バッチヤラは異世界へ行くために作られた会社だ。君にもその資格はあると思うのだが」
「異世界に行くためにこんなことをしてたんですか!?」
「ああそうだとも。バッチヤラがしたのはバーチャル世界と異世界を繋いで行き来できるようにしたことだ」
「ここはバーチャル世界ってことですか?」
「そうよ」
ゆきりが答えた。クラン・モンテール、ボ美美、シギョモジョ・キマカ、マーガラギー他、バッチヤラ所属VTuberが集まってきた。
「バッチヤラ所属のVTuber全員集合!今日もバッチヤラ営業開始!チャンネル登録よろしくお願いします!バッチヤラで検索すればすぐ出ます!さあ、今日の配信はこれで終了!次回の配信までさよならバイバイ!」
リスナー「ばいばーい!!!」
気が付くと俺の目の前にバッチヤラのリスナーたちが映っていた。
「えっ!?これって……」
「これがバッチヤラの力よ!バッチヤラに所属しているVTuberたちは視聴者に幻覚を見せることができるの!バッチヤラのVTuberになるとこうやってファンと交流することができるようになるの!すごいでしょ?」
もぎりが力説する。
「はぁ……?つまりどういうことだよ社長!?」
「バッチヤラに入ったらもう普通の生活はできないということだ。バッチヤラはそういうところだ」
「じゃあ俺は……」
「君の夢はなんだ?」
「えっ?」
「どんな仕事に就きたかったんだ?」
「俺は……俺はゲームクリエイターになりたいです!」
「ならバッチヤラに入るといい。バーチャル世界で夢を叶えろ」
「えっ?でも俺は現実世界では……」
「バーチャル世界に来たということはもう君の体はバーチャル世界にあるということだ。現実での体はもはや抜け殻に過ぎない。心配することは無い」
「……わかりました。俺はバッチヤラに入ります!」
「決まりね!」
「歓迎しよう!」
こうして俺はバッチヤラの一員となった。
一方そのころ、PCで一部始終を見た仮木雄一は
「あいつは誰だ?」
記憶喪失になっていた。
「あの子の名前は?」
「確か……ユウイチだったはずよ」
「俺の知り合いなのか?」
「多分違うんじゃないかしら?」
「まぁいいや。それよりも面白いものを見つけたぞ。これを見てみろ」
「まぁ、これは……」
そこにはバッチヤラとコラボ中のアイドル事務所のVTuberがいた。
「バッチヤラとコラボしているアイドルグループ『Vaikyrie』のメンバーは?」
「ユキ、レイコ、ミキ、トモコ、アオ、アキ、カナミ、みんなかわいいわよね~」
「そうだな。よし、この子たちは俺のものにするか」
「あなたは相変わらずねぇ……」
「さて、そろそろいただくとするか」
男はバーチャル椅子から立ち上がる。
「行くわよ」
「ああ」
男と女は次元の穴に入っていった……。
完
バッチヤラ。正体不明のVTuber集団 シカンタザ(AI使用) @shikantaza
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