7. ゾンビの王とゾンビの王妃

 キャロルにロケットランチャーを渡した。

 そして、僕は、彼女の前に立つ。


「キャロル。良く聞いて。君は自分が汚されたように感じてるかもしれないけど、そんな事は無いんだ」

「……」


 キャロルはのろのろとアゴを上げて僕を見る。


「泥に落ちて、金髪が汚れたようなものさ。お風呂に入れば、元の輝きを取り戻せる」


 キャロルは下を向いて、顔を横にちいさく振る。


「大丈夫だから、立ち直れるからっ! 立って、キャロルっ!」


 キャロルは腰をおとし、ぺたんとショッピングセンターの床に座り、背を丸める。


「ゾンビの世界を終わらせる事ができるからっ!」


 はっと、キャロルがこちらを向いた。


「君がゾンビの世界を終わらせる事が出来るんだ。本当だよ」

「……な、なに、を、言ってるの?」

「この世にゾンビを生み出したのは僕だ」

「ど、どういうこと?」

「僕はヒヒ爺さんに性のオモチャにされる事がつくづく嫌になってたんだ。そんな時にミリアムってハイチ生まれのメイドにおまじないを教えて貰ったんだ。世界が変わる魔法だって言ってた。おままごとみたいな物だったんで、ちょっと前まで忘れていたんだよ」


 キャロルがのろのろと立ち上がった。


「僕は、願った。この腐りきった世界を終わらせてくださいってね。そして、次の日、ゾンビの世界が始まった。僕だ、僕がゾンビの王なんだ。僕は全部のゾンビを操る事が出来るっ」


 キャロルが僕をまっすぐ見つめる。


「僕をそのロケットランチャーで撃つんだ。そうすれば、ゾンビの世界が終わる。キャロルが誇りを持って生きられる世界が来る」


 キャロルはロケットランチャーを構える。

 砲口はゆらゆらと揺れる。


「そうすれば、君は、元に戻る事が出来るっ、キラキラしていた頃のキャロルに、僕の大好きだったキャロルに戻れるんだっ」


 ふうっ、と息をキャロルは吐く。

 ぴたりと砲口は止まる。


「撃って、撃って、僕を殺して。そして、キャロルの明日をつかんで。僕はもう良いんだ。ゾンビの世界になっても、思っていたほど開放感が無かったし。マッチョに支配されて、逆に落ち着いていたぐらい。だから、僕の居場所はこの世界にはないから、キャロルの世界を僕は帰すよっ」


 キャロルの目に力が戻る。

 風が吹き込んで、彼女の金髪がふわりと揺れた。


「さあっ、キャロル、撃ってっ!!」

「ふざけんじゃ、ないわよっ!!」


 キャロルは怒鳴ると、天井に向けロケットランチャーを撃った。

 光り輝くロケット弾は上昇し天井の鉄骨にあたり爆発した。

 ばらばらと榴弾が僕とキャロルの上に降った。


「あんた、馬っ鹿じゃないっ!! あんたゾンビの王なんでしょっ、この世界の王様じゃないっ!!」

「え?」

「え、じゃないわよっ! こんな、インディアンゾンビとか強力な力を持ってて、僕の居場所がこの世界にない? 作れば良いじゃないっ!!」

「え、だって、その、キャロルが居ない世界なんて、そのっ」

「いいわっ! わたしゾンビの王妃になってあげる。あんたと一緒にあんたの居場所を作ってあげるっ! べ、べつにあんたの事が馬鹿で心配だからじゃ、な、なくって、私が、王妃になって、贅沢とか権力とか持って、マッチョとかぶっ殺したいから、だから、王妃になってあげるからっ!!」

「キャ、キャロル……」

「泣くなっ! ゾンビの王さまは泣かないのっ!! ほんとにもう、馬鹿なんだからっ!! 王妃になってくださいって言いなさいよっ!」

「うん、キャロル、王妃さまになってください」

「もう、あんたは性奴隷じゃないのよ。胸をはりなさいっ! そ、それから、その、愛してるとか、い、言いなさい」

「うん、愛してるよ、キャロル」

「駄目っ!! なによそれ、いつもの性奴隷の仮面じゃない。ミッシェルとして、心から、あたしのことを、その、愛してるとか、その言いなさいっ!」

「え、あ、その……」


 僕は困った。凄く困った、いつもの嘘の愛のセリフが禁じられた。

 本当の気持ちを僕は一度も誰にも伝えた事なんかない。

 すごくこまった、顔が熱くなった、胸の奥がジンジンとしびれた。


「い、いやその、べべつに、その、キャロルが好きだから、その、愛してるわけじゃ、ないんだよ」


 うわ、なんだか、意味が通ってないよう。

 キャロルはロケットランチャーを放り投げて、満面の笑顔で僕に抱きついてきた。


「合格っ!!」


(了)

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僕とゾンビと金髪のあの子 川獺右端 @kawauso

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