6. ゾンビネイティブアメリカン
「あと、二日、二日だけ、待って」
キャロルはどろりと濁った目で僕を見た。
「まつ……の?」
「うん、がんばれ」
こくっとうなずいて、つっと一筋キャロルは涙をながした。
ああ、もうキャロルは残骸に近くなっている。
二日たっても、元のキャロルには戻れないかもしれないな。
でも、しょうがない。
心を広げてみると、かなり近い、向こうの山まで彼等は近づいていた。
「どけ、おらあっ!」
パンチョが僕を蹴り上げた。
「ボスのお気に入りだからって、でかい面してんじゃねえぞっ!」
「でかいつらとか、してませんよ、パンチョさん」
「てめえとかキャロとかの綺麗な顔見てると、ほんとに虫唾が走るんだっ! うせろっ!」
パンチョは僕を殴りつけると、キャロルの服を破いてのしかかった。
僕はそこを離れていった。
ショッピングセンターはまだまだ物資にあふれていた。
マッチョ達は、毎日酒盛りをして、ハムやソーセージをむしゃむしゃ食い、駐車場に並んだ車にでたらめに銃を撃ち込んで遊んでいた。
キャロルの悲鳴がコンクリートに反響して僕を追いかけるように聞こえて来た。
がんばれ。
余分な銃器はまとめて倉庫に収められていた。
銃を持ち出せるのは、デイビットと、サブリーダーのジョンだけだった。
二日目、その時が来たら、キャロルの所に居なければならない。できれば銃とロケットランチャーを持って。
砂漠から風が吹いて、ショッピングモール玄関の窓を砂で削って飛び去っていく。
なるべく丁寧にキャロルの世話をした。
あまり食べなくなった彼女に、甘い物を探してきて食べさせる。体をマッサージして打ち身をほぐす。
ふと、この子はヒヒ爺さんの孫なんだから、こんな事しなくても、とも思ったが、やっぱり好きになっていたんだなと思い返す。
初めて会った時の輝くような金髪や、照れながら憎まれ口を利く彼女の姿が懐かしい。
そして、二日目、待ちに待った彼等がやってきた。
どどどと地を鳴らして彼等はショッピングモールに突進してきた。
ゾンビの馬に乗った、ゾンビインデアンたちだ。いや政治的に正しく言うとゾンビネイティブアメリカンだ。
彼等は風のように食料品コーナーを、家庭用品コーナーを駆け抜け、槍とウインチェスターライフルで、マッチョたちを倒していく。
僕とキャロルはシャワー室に隠れていた。
キャロルはぼんやりと外をみて、何も語らなかった。
「助かるんだよキャロル」
「……」
血だらけになったディビットが駆け込んできた。
「大丈夫だったかい、ベイビー」
「うん、デイビットも大丈夫?」
「ちょっと、やられちゃったが、俺は大丈夫さ」
にっこり白い歯を見せてディビットは笑った。
「車がある、どこかで、三人でやりなおそう」
すこし照れたように彼ははにかんだ。なんだか、近所のいたずら坊主みたいな、そんな、昔のディビットの顔が浮かんだような気がした。
「べ、べつに、お前の為の提案じゃないんだけどな」
「うん、デイビット」
彼は、キャロルの汚れてしまった金髪をいとおしそうに撫でると、頭を抱いた。
「キャロル嬢ちゃんには悪いことをしてしまったが、なに、また別の所で平和に暮らせば、大丈夫だよ」
「うん、そうだね」
そこへ、ゾンビネイティブアメリカンが三騎駆け込んできた。
「逃げろっ! ミッシェルッ! キャロルッ!」
デイビットは狂ったように銃を撃った。
ゾンビたちは槍を振るった。
デイビットの心臓は槍に突かれて、その動きを止めた。
ゾンビネイティブアメリカンは残心するように動きをとめた。そして、僕たちを見ると、会釈をして去って行った。
僕はディビットの腰からキーリングを取り出して、キャロルの手を引いて、静かになったショッピングモールを歩いた。
あたりにマッチョの屍骸がごろごろと転がっていた。
槍でハリネズミのようになったサムソンがのろのろとゾンビになって起きあがった。
パンチョも起きあがって来て、うーうー唸りながらふらふらと歩く。
キャロルは生きているけど、心が死んで、ゾンビのように首を振りながら僕に引かれていた。
衣料売り場に行った。
ゴスロリの服はなかったけど、綺麗な赤いドレスをキャロルに着せた。
そして、倉庫に行き、僕はロケットランチャーを取り出した。
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