作者の気持ち

結騎 了

#365日ショートショート 037

 では、この問題を。園田くん。問題文を読み上げてください。なにっ、居眠りしていてどこか分からないだって。なんてことだ。では、先生が読み上げるから、ちゃんと聞いておきなさい。いいですか。『棒線Aの箇所について、この時の作者の気持ちを答えなさい』。国語ではお馴染みの問題ですね。まずやることはなんですか。そうです。作者の名前や生きた時代をしっかりと調べることです。では、みんなタブレットを起動して。そう、ブラウザを開いてくださいね。この作者が生きていた時代の出版業界の情勢をしっかりと調べてください。ここまでは昨日、宿題にしましたよね。ちゃんと予習できましたか。この作者が生きていた当時、文芸誌はどれだけ盛んだったか。作家業の世間的な認知度や、発刊のペースを調べます。そして、作者その人の来歴も必須ですね。この作品が書かれた当時、この作者はどこでどのような生活を送っていたのか。どれくらいの連載を抱えていたのか。発表した作品はいくつか。こういった情報も調査する必要があります。では、先ほど配ったプリントを見てください。時間がもったいないので、今日は先生が前もって調べておきました。この作者は本作を発表した当時、海沿いの街に住んでいたようです。抱えている連載はなく、この作品を二年かけて書き上げています。また、死後に発表された彼のエッセーによると、この時、彼はカモメについてよく言葉を残していました。二年かけて一編を仕上げたということは…… そうです、いわゆるスランプと言えるでしょう。はい、ここで注目。海沿いの街でカモメについて考えており、また、執筆作業は行き詰まっていた。ということは、つまり園田くん。ここの『作者の気持ち』を類察してください。はい、はい。そうですね。そうです。……正解にしておきましょう。皆さんも解答欄に赤ペンでちゃんと書いておいてくださいね。「カモメは自由で楽しそうだな」、と。

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作者の気持ち 結騎 了 @slinky_dog_s11

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