Tomorrow Song~あしたのうた~


「あー……しんどかったエル」


 三連続の長い戦いがやっと終わった。

 緊張が抜けたオレは妖精の姿に戻り、そのまま大の字になって倒れ込んだ。

 視界いっぱいに拡がる空は、青色に灰色の煙がマーブル模様を描いている。周囲を見回すと建物は瓦礫がれきの山と化しており、あちらこちらで火災が起きている。遠くからは消防車のサイレンも聞こえてくる。

 消火活動した方がいいかもしれないが、これ以上動けそうにないので諦める。あとは朱向市あかむきしの住民がなんとかしてくれるはずだ。


「痛いしだるいし……はぁ」


 全身至る所がズキズキ悲鳴を上げており、疲労困憊ひろうこんぱいでずっしり重い。体調の悪さならここ一番、人間だった頃を含めても最大級の酷さだ。

 それなのに、過去最高の満足感がじんわりと、胸を中心に指の先まで行き渡っている。体と心が一致していないのに、そのちぐはぐさがどこか心地良い。

 地球を狙う悪者から人々を守る。全身全霊で挑んで退ける。これまでのオレの人生では考えられない大活躍をしたのだ。嬉しくないわけがない。


「ありがとう、エルル」

「感謝しないこともなくってよ」

「また次も一緒に戦ってほしいのですぅ」


 それに魔闘乙女マジバトヒロイン達の笑顔があるから頑張れる。どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児だけど、彼女達がいるからこそ、どんなに強大な敵相手でも命を賭して戦えるのだ。


「ああ、もちろんエル」


 オレは一度怪人にされて、不慮の事故で一度死んで、こうして妖精として復活した。第二の人生ならぬ妖精生ようせいせいだ。

 命があっただけ儲けもの、それどころか活躍の場を与えられ、少女達と共に過ごせる環境も得た。

 まったく、これ以上なにを望むというのか。それこそ、志半ばで散った元エルルが、妖精霊として化けて出てくるかもしれない。事故で消えてしまった彼女のためにも、オレはこの役目を全うするのが使命なのだ。


「……今のオレの姿も、悪くないな」


 折れ曲がったカーブミラーに映るのは、か弱くキュートな三頭身の妖精だ。人間の一般男性でも醜い怪人の姿でもない。かつての面影は微塵みじんも感じさせない、可愛さにパラメータ全振りした姿。

 最初は戸惑ったし、未だに慣れないことでいっぱいだ。

 それでも、きっとうまくやっていけるはず。魔闘乙女マジバトヒロインの少女達となら絶対に大丈夫。

 根拠はなくとも、そう思える。

 自信を持って、そう言える。


「やはり今日一番の活躍は私ですわね」

「えー、まいんの方が頑張ったはずですぅ」

「頑張りだけで認められるのは小学生までですわ。大人になれば結果が求められるものだと理解してもらえませんこと?」

「それってぇ、まいんがまだ幼稚で右も左もわからないお子ちゃまって言いたいのかなぁ?」

「あら、そう聞こえましたの。では図星だったのですわね」

「あんまり調子に乗らないでもらえます、寸胴まな板先輩?」

「ふ、ふたりとも、これからチームでやっていくんだし、仲良くしようよ~」

「「だから、平和主義なのが一番ムカつく」」「のですわ」

「平和主義のなにが悪いのよ! 平和主義はね、とっても平和なかんじで平和なのがいいんだからねっ!」


 オレがしんみり感傷に浸っているのに、女子三人はやいのやいのと喧嘩にいそしんでいる。雰囲気ぶち壊しだ。

 ほむらも風華もまいんも、同じ魔闘乙女マジバトヒロインとして協力し合おうという気がないのだろうか。困ったものである。オレ達のチームって醜くないか?


「これもオレの役目……なんだろうな」


 個性も方向性も趣味嗜好も全てがバラバラの彼女達を纏め上げる。それもオレが、元エルルから受け継いだ仕事のひとつだ。先が思いやられるが、今後戦いを経験していく中で、彼女達もつかず離れず、丁度ちょうど良い塩梅あんばいでうまいことやっていけるはずだ。きっと、おそらく、多分、少しくらいは……。やっぱり不安しかないわ。


「エルルは誰の味方なの!?」

「優秀な私に決まってますわよね?」

「えー、可愛い者同士、まいんに清き一票でしょ?」

「オーケイ、とりあえず全員黙ろうか、エル」


 今日もまた、魔闘乙女マジバトヒロインの活躍で街の平和は守られた。

 だが、ゾスの眷属はいつまた牙をくかわからない。邪神復活と全ての生命絶滅を狙い、今も虎視眈々こしたんたんと反撃の機会をうかがっているのだ。

 地球と全ての生命のため、戦え魔闘乙女マジバトヒロイン

 真の平和を手にするその日まで。


完。

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魔闘乙女《マジバトヒロイン》ビビッドリームズ~一般男性《モブキャラ》が妖精キャラになりました~ 黒糖はるる @5910haruru

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