彼のこと

バブみ道日丿宮組

お題:彼と顔 制限時間:15分

彼のこと

 少女はベッドの上でただ無感情にその時を待った。

 いつか現れる彼を迎えられるようにその顔を覚えてられるように。

 そういって少女は主として執事たちに命じた。

『私の夢に現れた彼と同一の人物、もしくは似た顔を持ってきなさい』と。

 そうして幾週間がたち、戻ると早朝に少女は連絡をもらってた。

 だから、無感情というよりは、期待感と虚しさが混じり合ったなんともいえない感情になりつつあった。 

 ノック音が部屋に響き渡ると、少女はカメラで廊下の様子を確認した後、解除ボタンのスイッチをおした。扉のセキュリティが重々しい音をたて開く。

「……お嬢様、今回のはいかがでしょうか?」

 部屋に颯爽と入ってきた執事はそういって、テーブルの上に人の顔をした仮面を並べてく。

「ずいぶんと今回はまた狩ったものね? 代償はきっちり支払ったのよね?」

 狩ったというのは人の顔の仮面というように、人の顔だ。しかも男性。

「もちろん、違う顔を……しかも殿方に選んで頂き、またこちらか多大な料金を支払わさせていただきました」

 そういって執事は支払ったという金額とその顔を提供した人物のデータと契約書を少女へと手渡す。何十枚にも及ぶため、少女はいくつか見るとベッドの脇においた。

「……また色々複雑な人ばかりね」

「はい、お嬢様が夢に見たという人物の特徴と一致するのが難しく」

 大変でしたという様子を醸し出しつつも、

「結局は見つかりませんでした」

 執事は頭を垂れた。

「そう。振り出しに戻るだけなのね」

 はぁと少女は深く息を吐く。

 いっそのこと、夢の中の彼を連れ出すことができれば簡単なことなのに。

 そう夢見る少女は、しかし普通ではなかった。

 だからこそ、

「顔のサンプルは集まったから、私の地下室で顔を今度こそ完璧に作りなさい」

「心得ました。こちらもだんだんと腕があがってきまして、最初のような不出来な作品にはならないでしょう」

 主あっての執事か。また執事たちも狂人ともいえる精神の持ち主だった。

「最後は彼の顔に会う人を探すことね。これは私が披露宴で探すしかないわ」

「はい、お嬢様に不出来なものはこちらが剥ぎ取っておきます」

 お願いねと少女は服を脱ぎ、執事に身を任せた。


 そしてーー披露宴の日が訪れ、帰る人は誰もいなかった。

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彼のこと バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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