第4話 紐なしバンジー

俺は未だに二人の義兄と父親の事を見たことが無い。

しっかりと歩けるようになったので、屋敷の内部の把握と家族の顔と生態を確認しようと思う。


今後もし俺がこの家から脱出しなきゃいけない時の為に敷地を抜けるための隠密行動の練習でもある。


まず俺が把握している範囲では俺の部屋を出ると向かいに部屋の無い廊下になっている。


両サイドにはマリーとアンの部屋があって右側には5部屋ほど先に突き当たりの窓が付いている。


だが俺には窓の外を見るほどの背丈がまだないために何階にいるのかが想像つかない。



そもそも知っている範囲だけでこの世界の技術力がバラバラ過ぎる。

でも、俺が世界を作るのであればイメージ通りの大きい何か所かとんがっているお城は必須だし、中世ヨーロッパ風の屋敷と街並みを再現すると思う。


あのゲーミングチェアと飲料を用意するくらいだからこの世界を監修している閻魔様がそこら辺を妥協するとは思えない。


だから俺は日本の迎賓館の様なタイプの屋敷ではないかと読んでいる。

未だにあの性格の悪い美人(奥様やあの人などで呼ばれているため、名前はまだ知らない)にしか家族と面会していないのだが、俺の部屋から右側だけに5部屋もあるため、この建物の規模から俺が別館に隔離されている事は無いと思う。


てことで俺は左側の3部屋行った先にある曲がり角を曲がって探検に出ようとおもう。


ここでマリーとアンにばれると部屋に戻されるので曲がり角まで音を立てないようにハイハイで進むつもりだ。


俺はドアの隙間から人がくる気配が無い事を覗き見てさっと部屋の外に出た。

気分はさながら機密事項を盗みに潜入したスパイ。

姿勢を低くでももたもたしないようにと床に手をつきスタンバイすると床にはフサフサではないが、図書館にあるようなフェルト生地のようなカーペットが敷かれていた。

ちょっと残念に思い、高ぶってスパイごっこをしていた自分に恥ずかしくなり走って曲がり角に向かった。


曲がり角を抜けると目には驚くような映画で見たことのある豪華なシャンデリアと天井を支える柱に化粧された狼の魔物の彫刻が目に入ってきた。


目が離せずに凝視したまま足をゆっくり進めていくとそこは吹き抜けでイメージ通りのホールが威厳を放ちながら存在していた。


一軒家が丸っと収まるほどの空間が吹き抜けになっていて俺はどうやら下から数えて3階にあたる部分にいるようだ。


そのホールの正面だと思われる大きなドアから見ると1階から二階にかけて左横から正面まで緩やかなカーブを描きながら階段が続き、円状の踊り場とその踊り場から右上にと3階への階段が伸びているような造りになっており、俺はちょうど3階正面の手すりの隙間から下を覗いている状態である。


下には数人のメイド服を着た美人と小学校高学年くらいの男の子の姿があった。


男の子は俺に気が付いて驚いた顔をした後に嬉しそうに手を振ってくれた。


俺は左手で柵をしっかりとつかみ柵と柵の間から頭と右肩を出し下に向けて手を振った。


ここで誤算だったのは、日本の様に小さい子供が落ちないような規格がしっかりとされている柵でなく。体がすっぽりと柵の間から抜けてしまったこと。この体では左手一本で崩れた体のバランスを支えきれなかったことだ。


俺は3階から真下へ落ちていく。


「きゃぁぁあ~」


男の子が手を振った先を見たメイドの一人が悲鳴を上げ、他の作業をしていたメイドが一斉にそちらを向くのを見て、今お前が視線集めてどうすんねん。なんてのんきに考えていた。


このまま落ちて死ぬ実感もなく、即死しなければ回復魔法でどうとでもなると思った。


地面に着く前に足から落ちるように空中でバランスを整えると衝撃に備える、上半身からバンジージャンプの安全帯をつけた時の様な引っ張られる感覚がしたと同時に、進行方向が振り子のように変化して地面から2メートルほどの高さで止まった。


ん?何が起きた⁉


空中で体が止まっていることに驚き、手足をわたわたさせて降りようとした。


「お前がブラッドだな。」


目の前から声がしたことに地面を見ていた顔を上げると目の前にはダンディーなイケメンの顔があった。


「自分の身体を把握しきれていないようだな。部屋から自力で出てくることが出来るのなら明日から剣術と魔法を学びなさい。」


そう言葉を残してそのイケメンは去って行った。


きょとんとしていた俺は走って来た男の子に抱き締められ、ぺたぺたと体を触られ怪我が無い事を確認された。


「だれ?」


さっきの人もこの男の子も、ちょっと理解が追い付かないことが一気に過ぎ去り、捻り出た質問がこれだった。


男の子は少し寂しそうにはにかんだ後に


「僕は君の兄だよ。一番上の兄、ルーカス・ツー・バーデンだ。よろしくねブラッド。」


「兄ちゃん‼」


想像と違う初対面と、バレンタインに紙袋でチョコを持って帰りそうなj系イケメンが俺の兄だった事に驚き叫んでしまった。


俺に兄ちゃんと呼ばれたことがうれしいのか、パッと笑顔になり頭を撫でてくれる。


良かった俺のことを嫌っていない家族もいるんだ。そう安心すると、自分が死にかけたことの恐怖と家族らしい家族がいた事に涙が出てきて泣いてしまった。


この体になってから感情が爆発しやすいとなんてことを涙を袖で拭きながら考えていたら慌ててマリーが走ってきて俺を抱きかかえギュとしてくれた。


マリーのいい匂いを感じながら泣き疲れて俺は眠りに落ちた。

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欲望に素直な異世界転生~どうせ転生するなら強いイケメンになってモテモテになりたいじゃん~ 折れた綿棒 @oretamenboo

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