第3話 予備として
この世界に自我を持ってから約6か月で大体の俺の立場を理解した。
父は強力な水魔法を使う魔法剣士であり、騎士団の第二部隊(対軍用特殊武装騎士隊)の元隊長であり王国の中でもかなりの実力者として名を知られている事。
当主を継ぐことによって隊長から降りたが、父に代わる優秀な跡取りを待望されている事。
俺には2人の兄がいるが長男は水魔法が使えなかった。その事を危惧して当時、水・雷の魔法使いと
有名な冒険者として活躍していた母(メアリー)は面倒な貴族と対立してしまい、狙われている家族とパーティメンバーの命を助ける事を条件に妾として子供を産む契約をした。
母の妊娠が発覚してすぐに正妻との間に水魔法の才能を持った次男が生まれた。
俺の存在意義はそこでかなり薄まったが、“息子”ではなく“次男が成人するまでの強い予備”としてこの世に誕生した。
てことで俺は離乳食を口にできる様になったタイミングから微毒を服用させられ強制的に毒耐性を付けさせられたり、1歳から刃を潰した短剣(赤ちゃんの体では大剣サイズ)を持たされたり、魔物のぬいぐるみと騎士の人形で討伐劇を見せられたりする日常を送っている。
初めから強くなるための環境が整っていて普通の赤ちゃんではない事を隠し、人の目を気にしなくて良い何てご都合主義の環境かと思う人もいるだろう。
はっきり言わせてもらう。そんな気楽に考えないでくれ、毎日どこかの食事に毒入り哺乳瓶んを渡され飲むのを拒むと抱きかかえられ強制的に口に運ばれる。最低10分は症状を我慢しないと回復魔法をかけてもらえないし。腹痛だけでなく、体がしびれたり強制的に船酔い状態にされたり。一番きつかったのは全身に尋常ではない痒みが纏わりつき掻こうとすると皮膚に激痛が走る毒だった。
赤ちゃんから幼児になる第一成長期から教育すれば最強になるであろうと考えるのは理解できるが、自然回復力を高めるためにリストカットの様な傷を治ってはつけの繰り返し。魔力労を上げるために魔道具に使うからの魔石を定期的に擦れさせられて魔力を枯渇させられる。
常に魔力枯渇でインフルエンザにかかったような倦怠感と関節の痛み・常に切り傷があることで傷付近が熱いようなジンジンする痛み・そこに服毒することでの体の異常。
1歳の体でこれらを体験すれば体調を壊したりそれなりの確立で死亡するのだろうが、皮肉にもそれらの苦痛から解放してくれる回復魔法がそれを阻止してしまう。
これを聞いてまだご都合主義だと言えるなら誰か変わって欲しい物だ。
そんな生活の中にも幸せな時間は存在する。それはアンとマリーにお世話される時間だ。
体力を少しでもつけるために部屋の端と端を往復するように歩くのだが両サイドにはアンとマリーが膝立ちで腕を伸ばして待ち構えている。端に着くたびにギュッと抱き着きアンの至高の感触とマリーの石鹸のいい香りを堪能している。
お昼寝の時間は赤ちゃん言葉モードのマリーとベッドに入り、こちょこちょしたりされたり。赤ちゃんのこの体では一日5回のお食事にうち3回はアンからの授乳であり。毎日一心不乱に“もきゅもきゅ”とおいしく頂いている。
正直言って最高です。性欲とかではなく、男として綺麗なお姉さんにあやまかされるのは至福でしかないと思う。
そんな俺も段々と舌と顔の筋肉がついて長時間でなければ会話ができるようになってきた。
流石に流暢に会話をしたら不自然なため単語のみを使っている。最近は「なんで?・どうして?これ何?」の3つが最強であることに気が付いた。
今日はアンを捕まえてあの鑑定結晶であろう物の解説とあわよくば俺のステータスを解説してもらおうと思う。
なぜ6カ月たつまでステータスを調べなかったのか?それは日々生きるのに必死で余裕がなかったからである。しかしついこの間、いつものように毒によって苦しんでいると回復魔法をかけられていないのに急激に症状が和らいだ。俺はついに毒耐性を身につけたのかもしれない。もしそうなら早くみんなに気づいてもらって今日の食事に毒を盛らないように手配させないと。
そう考えた時に、“あ、俺ってどんなステータスしてるんだろ”と鑑定できるであろうあの水晶を思い出したのだ。
てことで、
「アン!アン!これ何?」
俺は白々しく棚の上に置いてある結晶を指さし、アンに訪ねる。
「ブラッド様、今日は何に興味を持ったのですか~?あぁ、“スキル結晶”ですね。“鑑定結晶”って呼ぶ人もいますが。」
「みせて!みせて!』
俺はアンの手を取ってイスまで誘導し、アンの膝の上に抱えられるように座った。
「この“スキル結晶”は自身のステータスとスキルの選択に使う物です。ではブラッド様のステータスを見てみましょう。こう、すくうようにこの水晶を持ってみてください。」
俺はアンに手を取られ水晶を持つと、後頭部から首にかけてのぽよぽよを堪能していた。
ウィン♪
―――――――――――――――――
氏名:ブラッド・リアス・ツー・バンテーン Lv:1
種族:人族 性別:男
生命力:570 (300―3000)
力:10 (5-450)
速さ:6 (5―200)
器用:4 (3-100)
知能:70 (10ー100)
魔力:50 (20―200)
セットスキル
・空欄
・空欄
・空欄
・空欄
スキル:水魔法Lv1・雷魔法Lv1・苦痛耐性Lv1・毒耐性Lv1
――――――――――――――――――
え!?俺の名前長くない?
「アン!これ何?」(いや、ほんとこれ何?どーやって見るの?)
アンは初めて自分のステータスを見て興奮気味の俺の頭をなでながら一つ一つ文字が読めないはずの俺に説明してくれた。
「このブラッド・リアス・ツー・バーデンって言うのがブラッド様の正式な名前ですね。ブラッドが母親のメリア様が名付けた名前で、リアスは王都の商業地区の名前からくるメリア様の家名ですね。ブラッド・リアスだと、リアス商業地区のブラッドって事になります。」
ほうほう、なるほど俺のお母さんはメリア・リアスでその王都のリアス商業地区に実家があるって事だな。何かあったらそこに逃げ出そう。
「ふーん、これは名前じゃない?」
俺はステータスの数値の説明に移る前にツー・バーデンの説明を促した。
「ツーは貴族様に着く名前ですね。ちなみに王族と王家の血を引く2世代目までは、ツーではなくフォンに変わります。バーデンがこのバーデン伯爵家の家名?貴族名?ですね。お貴族様の名前で○○・ツー・○○だとご当主様か正妻の子供つまり本家。ブラッド様のリアスの様に○○・◇・ツー・○○だと分家もしくは◇から嫁いできた妾とその子供って判別することが出来るようになっています。まだブラッド様には難しいですからこれは覚えなくて大丈夫ですよ。」
そう言ってアンの声色はどこか悲しげで謝罪しているかの様に感じた。
どうやら俺の今後があまり明るくない事に責任を感じているようだ。
「こっち何?数字いっぱい!」
出来る限り明るい声色で元気よく次を促す。本当ならアンに俺の秘密を教えて気にし無くていいと言ってあげたい。でも俺にはどんな状態でも打開できるようなチートは無い。才能は授かったがあくまで、あの時に胎児の状態の中で一番才能があるだけであり一般的な範囲内でしかないのだ。この先誰かに秘密を言う事は無いだろう。
「この数字はブラッド様のステータスですね。()の中の数字は、(同じ年齢の同じLVの平均値 ― 同じレベルの成人の平均値)を表しています。ブラッド様は普段頑張っているだけあってとても優秀です!この数値は凄いです!」
アンはとても嬉しそうに褒めてくれるが俺は知能が成人の平均より劣っている事に強いショックを受けた。
俺って平凡な大学ではあるけど4年の卒業見込みまで行ったのに…。この世界では頭いい方だと勝手に思い込んでいたよ…。
「特に知能の数値は飛びぬけて優秀です!知能はお勉強はもちろん、いかに魔法を効率よく制御できるか・身体強化で通常より早く体を動かす時の思考速度などに大変重要になってくるのです。魔法を使っていないのに70もあるのは途轍もない才能ですよ!!」
「ほんとに!やったぁ」
あぶねぇ良かった~。ですよね?俺がバカではなく魔法を使うことで鍛えられるからまだ魔法を使っていない俺は初期値って事だよね?!
「それよりブラッド様!スキルですよ、毒耐性のスキルが発現していますよ!!よく耐えました。よく頑張りました!せっかくですからスキルをセットしてみましょう♪」
アンは俺をぎゅっと抱きしめ俺の天然パーマがかかった髪に顔を埋め慈愛に満ちた声色で俺を褒めてくれた。
この世界に転生してから何処か達観していた俺は初めて愛情を受けていると感じることが出来た。
前世の親を覚えている分、母が居なく・父を見たこともないこの環境をすんなり受け入れていたがこうやって愛情を感じるとどうやら寂しかったみたいだ。
この時始めて幼児の体に引っ張られるのではなく、心からの涙を流した。
喜んでくれているマリーに泣いているのがバレない様に涙を拭い、マリーからしたら今の俺は二つの大きな胸の谷間にくるくる髪の頭が半分生えているように見えるのかと想像すると自然と笑顔になっていた。
「スキルは一人4つまでセットすることが可能で、スキルをセットするとその技能の成長スピードが倍くらい上がるんです。スキルのレベルはその人の才能をマックスに引き出せるようになるとLv10で表記がLvMAXに変わります。なので、人によってスキルレベルと実力はバラバラになるのですよ。」
ん?なんかちょっと難しいな。
「わかんない!」うん、ここら辺を誤解して覚えると後に後悔しそうだからここは質問攻めで行こう。
「そうですね、うーん。スキルが発現するのはその技能に一定の才能がある人だけなんです。もちろんスキルが無くても剣は振れます。長年訓練したスキルがない人と1か月でスキルが発現した人が戦ってもスキルがない人が勝つのは分かりますか?」
「分かる。じゃぁーさぁ~、スキルって強くないの?」
くそ、子供っぽく質問するのが難しすぎる。最低限の質問でも多分俺の年齢にしては話し過ぎな気もするし。くそ、頼む通じてくれ!
「あぁ、スキル自体は強さを表しているのでは無くて才能とその上限の指標となるのですよ。指標って分かります?分からないですよね?」
「分かる!」
「ほんとですかぁ~?ふふ、そうですね。例えば私の場合は回復魔法Lv3の時に解毒の魔法を使えるようになりました。でも今代の聖女様はLv2で解毒の魔法を使用したと聞いています。私と聖女様には才能に差があるために同じ実力でもスキルレベルに違いが出てしまうのです。」
なるほどな、あくまでもスキルはその人の潜在能力の指標であり自分の限界と到達点が可視化しているだけって事か。
俺はどうやら生まれつき水魔法と雷魔法のスキルを持っていたから才能ありとして保留処置されて、義兄が早い段階でスキルレベルが上がらないか様子見している段階って事か…。
「セットしたいスキルを指で押しながらこのセットスキルの空欄って所に移動させるんです。ブラッド様できますか?」
俺はアンの説明を聞いて発現している4つのスキルのうち水魔法以外のスキルをセットした。
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