じぬしじぬされ生きるのさ 6
若地主はクソ野郎に案内されながら帰り道を歩いていた。
普段は車から見ることの多い道で一人で歩いたこともある道だったが、友達と一緒に歩くということがとても新鮮だった。
クソ野郎は若地主にいろんな場所を教えてくれた。よくたまり場になっているゲームセンターや、卓球やダーツも楽しめるカラオケ屋など、今度もすこすやクラスメイトを誘って遊ぼうと誘ってくれた。
そうして歩いているうちに広めの空き地に通りかかった。そこの空き地には人の背丈くらいの石像のようなものがくの字に立っていて若地主は以前からその石像のようなものが気になっていたのだ。そのことを若地主はクソ野郎に聞いてみた。
「これはある出来事が終結した記念に作られた石像なんだよ。」
そう言ってクソ野郎はその出来事について話し始めた。
以前、この町にはヘルニア5と呼ばれる五人組がいた。
椎間板ヘルニアの者、頚椎ヘルニアの者、でベソの者、いくつも併発している者の集まった五人組だ。
その五人組は町の人々の中に溶け込みながら日々を過ごしていたそうだった。
そんな中その中の一人がヘルニア持ちは人類の進化系であり、人々の上に立つ存在だと主張しはじめた。他のヘルニア5メンバーは人々と共存するべきだと主張し、そのメンバーはヘルニア5を抜けることとなった。
その抜けたメンバーは各地で同志を集め、この町を侵略の足掛かりにするべく戻って来たのだった。
その動向を事前に察知した共存派も全国より仲間を募って迎え撃とうとしていた。この時、S市内には全国から多数のヘルニア持ちが集まり、抗争ついでに観光をしよう者たちが多かったことからS市内の観光事業、宿泊施設等の景気が潤った。このことを後に『ヘルニア特需』と呼ぶ。
そして抗争の場所に選ばれたのが若地主とクソ野郎がいる空き地だった。
両雄入り乱れ、総勢200人近くのヘルニア持ちがこの空き地に集まったという。若干キャパオーバーだったらしく、空き地に入り切らずそのまま帰った者も数人いたらしい。
お互いのヘルニアとしてのプライドを尊重し、最低限の秩序を持たせるため、抗争はたくあんでのしばき合いで決着をつける事となった。
その日、市内のスーパーからたくあんが姿を消した。
そして、この抗争は三日三晩続いた。結果は全員がヘルニアの悪化による病院送り。現場にはボロボロになった無数のコルセットだけが残った。
この出来事のことを人々は『ヘルニアインパクト』と呼び、二度とこのようなことを繰り返さないように、腰を気づかうヘルニア持ちの人を模した石像をこの空き地に建てたのだった。
「そんな出来事がここであったんだ。」
若地主はクソ野郎からヘルニアインパクトの話を聞き、長い人類の歴史の中では自分がいかにちっぽけな存在なのかを思い知らされた気がした。
「あれ?若地主じゃないですか。それと、優太くんも。」
若地主たちの背後から背の高い男が声をかけた。
「優太くん?…ああ!クソ野郎のことか!」
若地主はクソ野郎の本名になかなかピンとこない。
「藍沢!どうしてこんなとこにいるの?」
「ブラブラ歩いてたら見覚えのある後ろ姿が見えたんで来てみたんですよ。」
この男は藍沢といい、若地主が物心つく頃から地主家に出入りしていて、遊んでくれたり色々と良くしてくれる若地主からすると頼りになる存在だ。職業や、年齢に関しては尋ねたこともないので若地主はよく知らない。
「学生服なかなか似合ってるじゃないですか!学校は楽しかったですか?」
藍沢は若地主に対しては昔から敬語だ。
「ありがとう!学校楽しかったよ。今、クソ野郎にヘルニアインパクトについて教えてもらったとこだったんだ。」
「そうですか…。あんな悲しい出来事は繰り返しちゃいけません。」
藍沢表情が苦々しく歪んだ。若地主には奥歯にニラが挟まった表情に見えた。ヘルニア5から抜けた元メンバーが藍沢の父親なのだが、これはまた別の話。
「今から帰りなら一緒に帰りますか?ちょうど俺も地主家にちょっと用事があるんで。」
「うん。一緒に帰ろう!」
三人揃って歩き出そうとしたときだった。
「ちょっと待って!今、やめてくださいって聞こえなかった?」
クソ野郎が辺りを見回しながら言った。
「なんか聞こえた気がするけど。」
若地主にも微かに聞こえていたが、内容までは聞き取れていなかった。
「女の人の声で、聞き覚えのある声だった。もしかしたら小倉さんかも。」
「じぬしっ!!(水兵リーベ僕のお船、名前があるシップスクラークか)」
若地主は驚きのあまり地主語で今日、授業でやった元素記号の覚え方を唱えてしまった。
「取り合えす、声の聞こえた方に行こう!多分あっちの方だと思うよ!」
クソ野郎の指差す方へ三人は駆け出した。
地主物語 JAZZ坊主 @temamon
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