じぬしじぬされ生きるのさ 5
若地主はクソ野郎と一緒に下校することにした。玄関を出ると、校門に地主家の専用車と脇に立っている山中が見えた。
「お疲れさまです。若。どうでしたか?初登校は。」
「山中!とても楽しかったよ!クソ野郎とも同じクラスだし、みんないい人ばかりだったよ。」
「それはよかったです。ではお車にお乗りください。」
若地主は手のひらを山中に向けて目を閉じゆっくりと二度首を振った。
「今日はクソ野郎と歩いて一緒に帰るから大丈夫。」
「おお、それはいいですね。でもあまり寄り道とかはダメですよ。優太、若を頼みますよ。」
山中はクソ野郎に向かって言った。
「任せといてよ。お父さん。」
「じゃあ、私は先に行ってますね。二人とも気を付けて!」
そう言うと山中は地主家の専用車の助手席に乗り込み、若地主とクソ野郎に小さく会釈し、運転手に車を出すよう促した。運転手は気の弱そうな顔をしていたが、エンジンを掛けた途端、精悍な顔つきに変わり猛スピードで車を発進させた。
「ひゃっはー!」
運転手のあげた声が響きわたり200メートルほど先のカーブをほとんど減速することなく見事なドライビングテクニックで曲がっていった。
この運転手の名前は小林琢磨。地主家専属の運転手で地主家の人間を乗せるときは殆ど揺れのない滑るような完全な安全運転をしているが、元々ハンドルを握ると性格が変わるタイプのため、地主家の人間が同乗しない場合は運転に性格だ出てしまうのだ。しかしその運転技術は凄まじく、普通車はもちろんのこと航空機から子供向けの三輪車まで乗り物なら何でも乗りこなす程の腕前なのだ。逸話では夜中に一人でドライブ中に暴走族のチームに煽られた際、車のトランクに積んであったホッピング一つで暴走族のチームを壊滅させた程乗り物の扱いに長けている。そんな小林琢磨が後に竹馬テコンドーを極めオリンピックの公式種目化を目指すのはまた別の話。
下校途中の生徒達や通りすがりの人々がポカンとした顔で車の去った先を見ていた。クソ野郎も例外ではなく、
「あんな人が運転手で大丈夫なの?」
と若地主に訪ねた。
「普段、地主や父地主、母地主が乗るときは安全運転じぬし。」
若地主は「地主や父地主、母地主」の部分に引っ張られて語尾に地主語が出てしまった。
「あっ、ごめん!今の地主訛ってた?」
「何を今さら気にしてるのさ。さっきくらいのだったら僕以外の他の人にも伝わるから大丈夫だよ。」
クソ野郎は笑顔で答えた。クソ野郎いいやつ。
「だったらよかった。地主は父地主や祖父地主、祖母地主、伯父地主、伯母地主、従兄弟地主、再従兄弟地主、地主ーズトランプリラティブス以外じぬしじーぬし。あっ、ごめんまた鈍っちゃった!」
「大丈夫。ギリ伝わるよ。地主一族以外にはなるべく地主語を使わないってことね。」
クソ野郎だからギリギリ伝わっていた。若地主はこうやって甘やかされて育ってきたのだ。
「よかった。じゃあ帰ろうか!地主はずっとここに住んできたけど全然詳しくないんだよ。だからクソ野郎に色々教えてもらいながら帰るのも楽しみなんだ!」
若地主は楽しみな気持ちが溢れたのか、小走りに走りながらそう言った。そして顔にも楽しみを溢れさせながらクソ野郎の方へ振り返った。しかし、若地主の視線の先には遠ざかっていくクソ野郎の後ろ姿があった。それと同時に隣に若地主がいないことに気づいたクソ野郎が後ろにいる若地主に気づいた。
「若!こっちこっち!帰り道はこっちだよ!」
クソ野郎がそう言いきる前にフリスビーで鍛えた俊足で若地主はクソ野郎の隣に来ていた。
「じゃあ帰ろうか!地主はずっとここに住んできたけど全然詳しくないんだよ。だからクソ野郎に色々教えてもらいながら帰るのも楽しみなんだ!」
若地主はクソ野郎には届かなかった言葉をもう一度言った。クソ野郎の視線はまださっきまで若地主がいた後方に向けられていた。
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