第338話 ドワーフ転生

 願いを言うと、鍛冶の伸とか言ってた男が俺に触れる。


 そうして気が付いたら、ドワーフに転生してドワーフの住む洞窟のそばにいた。


 教えられたとおりに「ステータス!」と叫んだら…

 名前は「ムナーガ・ミャーサカ」となっていた。

 ミャーサカ… 宮阪か… 悪くないな。

 

 一人でニヤニヤしていたムナーガだったが、それはすぐに中断されることになった。


「おめぇは、どこの氏族のもんっちゃ?」


 一人のドワーフが槍を突き付けながら質問してきた。


「氏族??」


「答えられんっちゃぁ、怪しい奴だっちゃ! 大人しくするっちゃ!」


 突き付けられた槍に身動きできずにいると、あっという間に縛り上げられた。


「取り調べるっちゃ。大人しく歩くっちゃ!

 暴れちょったら、こいつでブスリといくっちゃ!」


 ムナーガはお尻を槍で突かれながら歩いた。しばらく洞窟内を歩いて、やがて岩壁を掘って広げられた部屋に連れていかれた。


「ここで、大人しく待っているっちゃ!」


 そのまま穴倉に転がされた。

 周囲の岩壁を眺めているとふいに何かが頭の中に入り込んでくる。見ていた岩壁の成分か? 鉄に銅にニッケル、それにミスリル? なんじゃそりゃ?


 しばらくそのままあちこちを眺める。

 へぇ~… 含まれている成分の量もわかるのか。こいつはすげぇ能力だな。


 しばらく待っていると、立派な髭を蓄えた大男と、ひげのない一回り小さな男がやってきた。


「わしがこの氏族をまとめちょる、ドワルク・ドランゴっちゃ。」


「おれは、ドワルン・ドランゴっちゃ。お前の名はなんていうっちゃ!」


「ムナーガ・ミャーサカ」


「ミャーサカなんて氏族聞いたことないっちゃ。年はいくつっちゃ。

 どう見てもまだ子供っちゃ。」


 ドワルン・ドランゴと名乗った男がそう言う。確かに刀匠としては駆け出しも良いところだが、だからといって子ども扱いは… ムカついてきた。


「子供じゃねぇっちゃ、32だっちゃ!」


「32? やっぱ子供じゃねぇか! おらっちよより年下っちゃ!」


 あれ、おれの言葉遣いが勝手に… 頭の中じゃ日本語なんだけどな。


「鑑定の水晶を持ってくるっちゃ! これからお前を調べるっちゃ。

 縄を解くけど暴れちょったら、そいつがブスリとやることになるっちゃ。」


 俺は黙って頷く。

 やがて俺の目の前に、四角い台座に乗った水晶玉が置かれた。


「水晶の上に手を置くっちゃ。」


 水晶が光るとかそんなことは無く、もういいと言われたのでそっと水晶から手を離した。

 立派な髭を撫でながら、ドワルク・ドランゴが台に刺さっていた何かを引き抜いた。

 そしてそれに目を落とすと、少し驚いたような顔をして衛兵たちを退出させ3人だけになる。

 

「ムナーガ…おまえ転生者っちゃね。なんでこの世界に来たっちゃ? 言える範囲で構わんちゃ。」


 どうやら転生してすぐに殺されることはなさそうだ。俺は前世で刀鍛冶をしていたこと、これからという時に殺されたこと、神?にあった事をかいつまんで話した。


「なるほど、わかったっちゃ。

 このドワルク・ドランゴが責任をもってムナーガ・ミャーサカを氏族に迎え入れるっちゃ。

 出来る事なら息子のドワルン・ドランゴのよき友となってくれれば、うれしいっちゃ。」


「こちらこそよろしくっちゃ。

 一つ質問していいっっちゃ? ミスリルってどんな金属っちゃ?」


「ミスリル… ミスリルっていうっちゃは、魔導金属の一種っちゃ。昔は此処でも大量に採掘できたっちゃ。今は掘り尽くしてもうないっちゃ。」


 掘り尽くした? 目の前にあるんだが?

 先程縛られながら見ていた岩壁を指さし、俺は言った。


「その岩壁にミスリルはあるっちゃ。かなり奥まで鉱脈があったっちゃ。」


「それは本当だっちゃか!!」


 その日からドランゴ氏族は総出で採掘を行った。埋蔵量もかなりのもので、おおよそ100年分は軽くあると言っていた。


 俺はドワルンと友になり、ドワルンからドワーフやこの世界についていろいろと教えてもらった。


 80年程して、俺もやっと自分の炉と工房を持てるようになり、他国に輸出する剣や日用品の刃物を打つ事が出来るようになった。そんなある日…


「ムナーガ! 大変っちゃ!!

 エルフ共が錬成陣の値段を倍に引き上げるって言ってきたっちゃ!!」


「なんでいきなりそんなことになるっちゃ!」


 錬成陣は炉の燃料に使う木炭を作るのに必須。それをいきなり倍の値段? そんなことは各ドワーフの氏族は絶対に認めないぞ。何考えているんだ一体?


「ドワーフが木を切りすぎるっちゃから、森が無くなるって言ってるっちゃ。」


 何だか、前世の自然保護団体みたいなことを言いだしたな。

 結局、各ドワーフの氏族は使っていた炉の半分の火を落とし、魔力鍛錬で刃物を造ることを余儀なくされた。


「あ~!! もうやってられんちゃ!

 炉を使わんでどうしろって言うんちゃ!

 魔力は所詮補助だっちゃ! 手抜きの馬鹿のすることっちゃ!

 そうっちゃ! 木炭が無けりゃ、石炭見つければいいっちゃ!!」


 おれはドワルンと共に氏族の住む洞窟を出て、鉱物の鑑定をしながら山々を歩き回る。

「さっきの山は鉄の鉱脈があったっちゃ。この山は、金鉱脈があるっちゃ。」

 そして見つけた。氏族の住む洞窟から三日ほどの場所。早速試掘をする。


「このやっけぇ黒い石が燃えるっちゃ?」


「さっそく試すっちゃ。」


 燃え盛る焚火の中に採掘したばかりの石炭を砕いてくべる。

 やがて、石炭は焚火の中で燃え始めた。


「げほっ!げほっ! 臭いっちゃ!」


 真っ黒い煙が立ち昇る、確かにひどい匂いだ。

 …そうだ、一度蒸し焼きにするんだった。


 おれとドワルンは、採掘場所から少し離れた場所に蒸し焼き用の石窯を作った。

 採掘した石炭を詰め込み、石窯の入り口側でがんがん焚火をする。

 そして出来上がった石炭(無煙炭)と副産物のタール。両方とも氏族の住む洞窟に持ち帰る。


 持ち替えると早速ドワルクの目の前で炉に入れて鉄を打ち始めた。


「どうですっちゃ! これならもうエルフ共のバカ高い錬成陣を買わなくてよくなるっちゃ! それにこの黒いネバネバ、タールって言うっちゃ。船に塗れば腐らず長持ちするっちゃ!」


 そしてドワルゴ氏族はまた一族総出で石炭を採掘し加工していった。各ドワーフ氏族の間での発言力も強くなった。


 だが、2年もすると錬成陣が売れなくなったエルフ共と、戦争の一歩手前まで関係が悪化してしまった。


 いろんな国が関与して、なんとか戦争にならずに済んだ。だが、元々エルフ共がいきなり錬成陣の値段を上げたことが原因と思っていたのだが、実はその間に入った聖公国の商人が意図的に値段を上げてドワーフに売りつけていたことが解った。


 だが、戦争を起こしかけたことの責任は、誰かが取らなければならなかった。

 俺は自分の炉を取り上げられてしまった。

 それからは、ひたすら坑道を掘る毎日が続いた。たとえ鉄を採掘しても、それを加工することは許されなかった。

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2025年1月11日 13:00

【50万PV 感謝!!】 授かった能力が『たわし』だった。  えっ? それって、なんでしょうか? 舞後乃酒乱 @kakuQsertRp

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