第337話 「八代目 宮阪」宗長

! 今、言うちょりましたか!」


「あぁ、今、領都ラドに行ってるソーヤってのが考え出したんだけど、そいつがシチリーと一緒に考えた。

 シチリーは子供達が形を作って乾燥させているんだが、ソーヤがいないんで貯まる一方になっている。まぁ、焼き上げても街道が使えんから販売も出来んけどな。

 仮街道が出来たら、すぐにでも買いに来そうな商会があってな。」


「その窯! 見せちょくれ!」


「まぁ、その前にしっかり食っとけ。ジーン! そろそろアレをくれ!」


「今持っていきますよ!」


 ジーンが運んできたのは、おひつに入った白飯。調査団員のテーブルにも運ばれていく。

 ザックは木のお椀にしゃもじを使って取り分ける。


「このボーア肉炒めを、こいつに載せて食うのはたまらんな。」


 ザックは器用に箸を使って食べ始めた。

 ムナーカも箸を器用に使って食べ始める、最初は白米だけ。


「銀シャリっちゃ… 美味いっちゃ。」


 また頬を涙が伝う。そして一言呟いた。


「サーブロと一緒に食べた以来っちゃ…」


「「「「だってぇ!!」」」」


 ザック達は思わす大声を上げてしまった。


「ムナーガ! サーブロ氏とはいつ会った! 何年前だ!!」


 ムナーガはサーブロとの出会いを思い出していた。あれはおれっちが200歳にもならん若造の頃だった。


--------------

「炉を使わんでどうしろって言うんちゃ!

 魔力は所詮補助だっちゃ!

 手抜きの馬鹿のすることっちゃ!

 己の手で鉄を鍛えられん奴が、大きな顔をするっちゃねぇ!!

 木炭が無けりゃ、石炭見つければいいっちゃ!!」


 そう言って石炭を見つけて採掘したら、エルフとか言う奴らと戦争になりかけて… 気が付いたら、炉を取り上げられ、鉄にさえ触れることも許されずにひたすら坑道を掘り進めるだけの日々を過ごしていた頃だった。

 

--------------

 おれっちが転生したのは…

 確か前世では若手の刀鍛冶として、頭角を現したばかりだった。


 中学を卒業して親元を飛び出した15歳になったばかりのガキなんか、刀鍛冶になりたいなんて作刀工房を訪ねても基本的に門前払い。訪ねては断られるという繰り返し。

 そんなことを1年以上続けていた16歳の夏の記録的猛暑に見舞われたその日、大阪、堺とあるの刀匠の工房の前で直射日光を浴びながらひたすらに懇願。

 そのせいで、脱水症状を起こし師匠の目の前でぶっ倒れた。

 だが、そのおかげで熱意を認められて、弟子入りすることを認められた。


 そこから師匠の家にお世話になり、それこそ日が登る前から夜まで雑事をこなす。暇を見つけるたびに、鞘を作るための木工技術・鉄以外の金属の冶金の勉強も独学でこなしていく。

 そんなことを続けて8年、ようやく師匠の相槌を打つ事が許された。そして師匠が作刀をしない合間の指導の下、初めての刃物を打つ事が出来た。といっても非常に拙い和包丁であったが…

 さらにそこから3年、師匠の勧めで受けた国家試験でようやく文化庁とやら行う試験に合格。晴れて刀匠として公に「刀」を鍛える事が出来るようになった。

 しかし刀匠を名乗る事が許されても、私に来る実際の作刀はほとんどない。せいぜい鍛えるのは、たまに依頼がある「道場どうじょう三郎さぶろう」という料理人の和包丁ぐらい。

 とにかくいろんな仕事をしながら、なんとか糊口をしのいでいた。何しろ自前の工房さえないのだから。


 俺が30歳を迎えた頃、師匠がおもわぬ大病を患った。たとえ手術が成功しても… もう二度と作刀は出来ないだろうと主治医から言われたそうだ。

 気落ちした師匠はそれ以来急に元気がなくなっていく。


 やがて手術を受ける日、師匠は俺を呼出して言い放った。


「たとえ手術が成功しても、二度と刀を鍛えられんなら…あの作刀工房は潰す。

 退院後は娘の世話になる事にした。」


 俺はその言葉に絶望した。

 師匠を失うばかりか、仕事場でもある作刀工房まで失うのか……

 だが師匠は続けてこうも言った。


「お前がその気なら、作刀工房だけは譲ってやる。

 細かいことは娘と相談してくれ。」


 そうまるで… 今生の別れのように言うと、看護師と共に病院の奥に消えていってしまった。


 師匠の手術は成功した。

 だが、手術したからといっても… 余命は1年あるかどうからしい。


 おれは決意した。


「どんなことをしても、あの作刀工房を買い取って俺が鍛えた刀を師匠に見てもらう。」


 その日からあちこちに頭を下げて、金を借りた、借りまくった。

 ほぼ絶縁状態だった両親にも頭を下げて、金を借りた。

 そのお金でなんとか師匠の作刀工房を買い取る事が出来た。そのおかげでアパート代も払えない状態だから、住む場所もアパートを解約し工房の中で暮らした。


 そして、その当時俺が出来るすべての技術と時間と情熱を注ぎ込んだ渾身の一振りが出来上がった。もう師匠に残された時間はわずかだ!


 研師・鞘師に無理を言って仕上げてもらったそれを持って師匠の下に…


 師匠は俺の鍛えた一振りを見て一言だけ。


「いいものを鍛えたな… いいものを見せてもらった。

 わしは幸せ者じゃ…。」


 そう言って、眠るように息を引き取った。


 葬儀も終わった頃、師匠の娘さんからあるものをいただいた。

 それは娘さんからの感謝の手紙と、師匠から託されたという「宗長むねながへ」と書かれた手紙と和紙に包まれた…書状。


 筆で書かれた書状には。


「銘を継ぎ、『八代目 宮阪』を名乗ることを許す。」


 涙が止まらなかった。


 手紙を読む。

 病魔で師匠の手が震えていたのか、俺の目が涙で歪んだかわからないが… たしかに師匠の文字でこう書かれていた。


「品評会に出して。今の己の位置を知りなさい。

 願わくばさらなる精進をして

 『七代目 宮阪』

 を超えるものを世に送り出してほしい。」


 はじめてこんなに大声を出して泣いた。

 師匠の顔が浮かんで止まらなかった。

 涙がこんなに出るなんて知らなかった。

 それでも止めたくなかった。

 いまここで、この涙を止めたら。

 師匠と過ごした記憶が、消えてしまうと思った。


 気が付くと、師匠の手紙を握りしめたまま工房の中で朝を迎えていた。


 その後、品評会にその刀を『八代目 宮阪』の名前で出品した。


 師匠が認めてくれた『八代目 宮阪』の刀は「金賞 一席」を受けた。

 それ以降、仕事が次々に舞い込んできた。

 工房購入の借金の返済も終わり、師匠との思い出の詰まった母屋も買い取る事が出来た。 


「これからすべてが始まる!」


 そう思っていた。


 だが…あの日。


 俺は駆け出しの頃から付き合いがあった、料理人「道場どうじょう三郎さぶろう」が自分の店を持ったと人づてに聞き、『八代目 宮阪』の銘が入った和包丁のセットを祝いで届けた帰り道だった。

 駅から工房へ向かう人気のない細い路地に入った所で……


 ドン!


 という衝撃と共に体から力が抜けていく。

 やたらと熱く感じた胸元に目を降ろすと、俺の身体から刀身が生えていた。


 そのまま崩れ落ちる時に見たその人影は……「金賞 二席」の作品を鍛えた男に見えた。

 確かめることなくそのまま意識を失った。まだまだやりたいことが山のようにあったのに… 悔しぃなぁ……



 気が付くと、白い空間に居た。

 そこで出会ったのは、創造神を名乗る男と鍛冶の神を名乗る男だった。

 その二人に願った。


「とにかく、モノづくりに関する力を全てくれ!」


--------------

 文末での御挨拶、失礼いたします。

 あけましておめでとうございます。

 本年もよろしくお願いいたします。

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