第336話 あんたが原因か!!

 ムナーガは呼吸を整えて、ゆっくりと事の経緯を話し始めた。


 そもそも事の発端は、ドワーフの国での食糧難が原因だった。

 貯蔵庫に備蓄してあった食料が急に腐り始め、腐敗臭と共に瘴気をまき散らし始めた。ドワーフたちは被害が広がる前に、その貯蔵庫として使っていた坑道を慌てて封鎖し埋め戻した。

 だが、それでも対応は一歩遅れてしまっていた。すでにその坑道の周辺には瘴気が漏れ出し、海岸へ出る主要交易路になっていた坑道にもその被害は及んでいた。


 瘴気という言葉を聞いて、ザックの脳裏にあることがよぎった。

 7年前のあの一件… 


「食糧が腐る前に、何か変わったことは無かったか?」


「……変わった事……

 …そういえば、北の海岸線で船が壊れたと言って助けを求めてやってきた商人がいたっちゃ。

 何人か修理に向かったっちゃ。でも、3日目にはもう戻ってきたっちゃ。

 手早く治してくれたお礼ちゃいって、代金の他にいくつか食品の入った箱を持って帰ってきたっちゃ。

 鮮度がおちて売り物にならなくなったと言ってたっちゃ。」


 商人! そして箱! あいつらの手口に似た匂いを感じる。


「でも、鮮度は落ちてなかったちゃ。

 食べきれなかったのは、貯蔵庫に入れたっちゃ。」


「「「たぶん奴らだ!」」」


 ザックとビラル、ロイズはお互いに頷き合い、心の中でそう思った。


「それで、交易交渉団の他の人はどこにいる?

 そもそも、あんただけなんであんなところにいたんだ?」


「…もともとおれっちは、交易交渉団のメンバーには入っちょらんかった。

 交易交渉団も二つに分かれちょった。王族のドワルン様の交易交渉団は、元の海岸へ出る坑道を掘っていたっちゃ。

 おれっちが入った交易交渉団は、鍛冶神アメノマ様のお告げの方向に掘り進んでおったっちゃ。」


「一緒に居た、交易交渉団は?」


「おれっち達が掘っちょった坑道が、にぶち当たってしまったっちゃ。

 っちゅうのは、細かい岩ばかりで水が噴き出してくる場所のことっちゃ。

 おれっちがスキルで周囲を固めている間に、後ろにいた交渉団は慌てて元の坑道に逃げたっちゃ。でも、おれっちだけ逃げ遅れたっちゃ。繋がっちょった坑道が崩れて戻れなくなったっちゃ。」


 新しいトンネルの掘削中の事故に巻き込まれたようだ。


「という事は、今こっちに来ているドワーフはあんた一人って事か?」


「そうっちゃ。生きているだけでも運が良かったっちゃ。

 勘を頼りに、一人だけでもなんとか堀進んだっちゃ。3日間飲まず食わずで頑張ったっちゃ。

 堀っちょった音が変わって、そろそろ外に出れるっちゃと思ちょったけど… そん時にまた水が噴出したっちゃ。

 必死で掘ったっちゃ。だけど水の勢いの方が強かったっちゃ。溺れてしまったっちゃ。」


「溺れたのに、今生きてるってことは…その後は?」


「掘っちょった岩盤が水で崩れたっちゃ。そのまんま水と一緒に夜の森に…外に放り出されたっちゃ。

 転落する途中で見えた川を目指ちょったけど、何日も食っとらんちゃ、空腹で…」


 ビラルが問いかけた。


「それって何日ぐらい前じゃ?」


「気を失っちょった日にちは判らんちゃけど。たぶん10日ぐらいだと思うっちゃ…」


 「「「おまえが! 原因か―!!!」」」


 ザック達は話を聞いて水害の原因が、この件だと気が付いた。

 確かに雪解け水にしては今まで聞いた事もない異常な水量。そして山の中腹に開いていた人工的に見えた穴。

 こいつがトンネル掘ったせいで出た大量の水が、下流に押し寄せて被害が及んだと推測した。

 今日調査してきた上流部の被害状況と照らし合わせると、間違いない。


「はぁぁぁ~~~~、そういう事だったのか…

 こりゃぁ、ドワーフの国の件もひっくるめて、大至急、辺境伯様にすぐに連絡しないといかんな。

 おい! ジーン! ファルコは戻ってきているか?」


 厨房の奥からジーンが姿を現した。


「団長達の到着を知らせて、今日の夕方に戻ってきてますけど?」


「明日飛ばせるか?」


「本音を言えば、明日は休ませたいですけど。

 そんな状況じゃなさそうですね。午後まで休ませてからなら…

 だけどその後はクワルで数日休ませることになりますね。その間は連絡が付かなくなりますけど。」


「緊急だから仕方ねぇな。

 ロイズ、何人か伝令で走ってもらうかもしれん。」


「団長、それならアイバー達に任せませんか? おそらく彼らの方が早いです。」


「それもそうか。あとは今後を考えたら仮街道より、仮設橋の方に人員を割いた方が良さそうだな。


 さて、ムナーガ…

 簡単に説明させてもらうと、あんたの掘ったトンネルに出た水で、山が崩落して下流にも大きな被害が出ている。

 本来なら即刻領都ラドに送って、牢屋に入ってもらうことになるが… その被害のおかげでおめぇさんを護送することも出来ん。しばらく開拓団ラドサに居てもらうことになる。監視も付くからそのつもりでな。」


「おれっちの堀った坑道が… そんなことになっちょるなんて…」


「まぁ、飯は出してやる。その代わりここにいる間は、あんたが出来る仕事をやって貰うぞ。

 ビラル爺、寝るところはあるか?」


「そうじゃのう… 監視も含めると、ダルベの家が良さそうじゃが…あとはソーヤが使っていた部屋か…」


「仮設街道が出来上がり次第、ソーヤ達にも帰ってきてもらうつもりだからなぁ。

 かといって、ダルベの家はまだ半分しかできていねぇし。さすがに…」


「お嬢はしばらく戻ってこないんですよね。それなら俺の所が空いてますけど。

 そもそも1部屋余ってますし。」


「そうか。すまんな、ジーン。

 さて、飯にするか! ロイズ、昨日と同じだ。調査隊員達を呼んできてくれ。」


 昨日と同じように、食堂の壁が取り払われ調査隊員達は庭先にテーブルを並べ始めた。


 食事が始まるとムナーガは大きく目を見開いて驚いていた。部屋の片隅にあるジョッキクーラーとエールのサーバー。

 冷えたエールジョッキを震える手で持ち上げて… 一口…


 ムナーガの目から涙がこぼれた。


「おれっち…のせいで… 迷惑かけちょったのに。」

 

「街道や橋なんかは作り直せばいい。ここにいる間はこき使ってやるから覚悟しな。

 それよりあのトンネルを使えば、ドワーフの国と交易が出来るかも知れん。

 そうなれば、辺境領ももっと賑わう。物は考えようってやつだ。

 まぁ、招かざる客も増えそうだがな。」


「その件で相談があるっちゃ。

 わしらドワーフはモノづくりなら一通り何でもできるっちゃ。

 さっき言っちょったけど、半分しか出来ていない家を仕上げさせてもらえんちゃか?」


「ダルベの家か… それもいいが、まず何が出来るか教えてくれないか?

 それによって何の仕事をしてもらうか決める。」


「穴掘りや鍛冶仕事はもちろんできるっちゃ。あとは、木工や石工、焼き物も出来るっちゃ。あ…でも窯がないから焼き物は無理っちゃ…」


「窯? 窯かぁ… ビラル爺、ベルデ。あの件、話してもいいか?」


「問題無かろう。」


「そうですね。練炭も領都ラドで生産が始まってますから。もういいでしょう。」


--------------

 年内最終更新となります。

 今年はかなり執筆ペースが落ちてしまい申し訳ありません。


 ついでに御報告。

 新作始めました。

『転生した傀儡師(ゴーレムマスター)でも、動かせたのは小さなものだけでした。』

https://kakuyomu.jp/works/16817330655368042298


 それより「たわし」を書け! とお叱りの声もあるでしょうが

 もしよろしければ、こちらもお読み頂けたら幸いです。

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