第16話:とにかく活躍したい男とポンコツと聖剣と眼鏡

「畜生!畜生!」

 男子寮の中庭でイグニスは畜生と連呼しながら聖剣を振るっていた。

 検事はベンチに座って腕組をしながら縦に首を振る。

「ボクはスケートが出来ない。時渡はあの場が時という概念自体存在しなかったんだから能力が使えない。イグニスは…うん。仕方ない」

「おいさっきの間なんだよ?!」

「気にしだしたら負けだ」

「あーあーはいそうですか!」

 イグニスは棒読みでそう吐き捨ててまた剣を振り始める。

 イグニスは決して聖剣を適当に振っているわけではない。実に相手を効率的に追い詰められるスピーディーかつパワフルな太刀筋をしている。

 イグニスは火を崇める家系の総本家にいるだけあって、剣さばきの実力は1年の中でもトップクラスと言っていい。

 そうなると何故魔法科で火の魔法を学ばなかったり剣の実力を磨くために武器科に入らなかったかというと理由がある。

 実は普通科には別名が存在する。

 通称、総合科。

 全ての技術を広く、浅く学ぶことであらゆる状況に対応できる冒険者のプロフェッショナルを育成するための学科でもあるのだ。

 そうなると時渡が何故この学科に在籍しているのかという疑問が生じてくるかもしれないが、彼が適当に受験して偶然合格してしまったのだから仕方ない。

「イグニス〜少し休んだら?ほら、コーラ買ってきたよ」

 時渡が中庭にやってきた。

「お、サンキュー」

 イグニスは聖剣を鞘に納刀して時渡からコーラを受け取ってその場で開栓して飲んだ。

 時渡は検事の隣に座る。

「シェリアたんは?」

「まだ寝てるよ。今日は休日だからいつもより長く寝たいんだって」

「ほー。シェリアちゃんは聖鍵だろ?やっぱり体内の魔力消費量デカそうだよな」

「うん。僕もシェリアと寝ている時体の周りからすごく強い魔力感じるよ」

「…そいやー思ったんだけどお前良くあんな可愛い女の子と寝て正気保っていられるよな」

 時渡はポカーンとしている。

「…え?どういう事?」

「あ、あぁ、下劣な話になっちまうけどさ、変な話、あんな可愛い子が側にいたら性欲爆発するぞ」

 時渡は5秒位頭に?を浮かべていたが、イグニスの言葉を理解すると段々と顔が赤くなっていく。

「…え?つまり、シェリアと僕がその、あ、あれ、セ…」

「やめろ時渡、これは皆が安心して見られる小説にしているんだぞ」

 検事が眼鏡のブリッジに中指を当てて眼鏡を正位置に戻しながらそう言う。

「いや今までだいぶアウトなシーンあるし急なメタ発言やめなよ検事…」

 時渡は苦笑いをする。

「なぁ時渡、俺たちこのままだとマジで冷ややかな目で見られながら学園生活送ることになるけどどうする?」

「え?冷ややかな目って…?」

「え、だって、ほら、俺たちかなり強い聖剣持ってるじゃん?だからそれと同時にクラスの皆からの信頼や期待もあるってことじゃん?だから何か役に立たないと俺たちは役立たずとして見られちまうって話よ」

「あ〜そういう事?」

「俺は嫌だぜ?このままサファイアに人気奪われっぱなしってのは」

「う〜ん…」

 時渡は顎に拳を当てて考えた。

「別にいいんじゃないんかなぁ?」

 イグニスは頷く。

「うんうんそうだろ?そう思うだろ………ってハァ?!?!」

 イグニスはすっかり共感してもらえるものだと思っていたようだが、全く真逆の反応をした時渡に驚いた。

「え?!なんで?!」

「え、僕前にも言ったけど別に冒険者になる気は毛頭ないし、戦って活躍することだけが全てじゃないと思ってるから」

 イグニスは時渡の意見を聞いて反論しようとしたが、どうも上手い反論ができそうになく、それでいてどうにも納得できないようだ。

「じゃ〜どうしろってんだよ〜」

 イグニスはその場でうずくまってしまった。

「えぇ〜…そんなに何か活躍したいの?」

「…獅子堂っつったら理解してもらえるか?」

 イグニスが物凄い形相で時渡の目を見た。

 時渡はその発言を理解した。

「あー…そうだった…」

 説明したいのは山々だが、話すとものすごく長くなるのでここではその[獅子堂]については割愛してまたの機会にさせてもらう。

「検事、今ギルドで受けられるクエストは調べられる?」

 検事は聖剣を起動させる。

「ボクの聖剣ならリアルタイムで見ることが出来る」

「やっぱりすごいなその聖剣…」

 時渡がモニターを覗く。

「えーと…オーク退治…ゴブリン退治…アルラウネの畑の雑草取り…アラクネの糸の製糸工場で簡単な作業…」

「なんかどれもパッとしないな」

 イグニスはため息をついた。

「なんか珍しいね。イグニスが落ち込むって」

「俺だって人間だからそりゃ落ち込む時だってあるよ…。あ〜…どうしよっかな〜…」

 イグニスはうずくまっていた状態からその場に寝転んでしまった。

「僕だったらこういう時は何も考えないようにして何か食べに行くけどな〜」

 時渡はそう呟いた。

 ムクッ

 イグニスは起き上がり、時渡を見つめる。

「ん?」

 時渡はキョトンとする。

「考えてもキリがねーしそーすっか!」

 イグニスは立ち上がった。

「じゃあボクは着替えてくるかな」

 検事は外用の服に着替えようと自室に戻る。

「じゃあ僕もシェリア起こしてくるか〜」

 時渡はコーラをキュッと飲んで自室に向かう。

「何食おっかな〜」

 イグニスも自室に向かった。


「おーい、シェリア、起きて」

「うにゅう…はい…?ますたぁ?」

「朝食食べにいくよ」

 シェリアは目をこすりながら魔法で服をテレポートさせて着替える。位置を固定しないで(立ったままじっとしているなど。転移術の練習にはよく使われる)テレポートさせるのはプロの魔法使いでも至難の業だがそれを当然のようにやってのけるシェリアはやはり本当に人間ではないのだと時渡は感じた。


「よーし、全員集まったな」

 時渡はいつも着ている制服のワイシャツとズボンに、ブレザーではなくベストを着たお手軽オシャレスタイル。

 シェリアはシンプルなドレス。ドレスだがこの世界観なら相変わらず普通の服として受け入れられるのが作者も我ながら変な世界にしたなぁとつくづく感じる。

 イグニスは黒地に赤のラインが入ったジャージ。

 検事は制服姿だった。

「お前制服以外に服持ってねーの?」

「制服以外にフォーマルな格好が出来るようなものが無いんだよ」

「あー(察し)」

「察するな」

「まぁそれはいいんだけどなに食べに行くの?」

「マ◯ク」

「あ、やっぱり?アプリ入れたんだけど未だに使い方が分からない」

「教えてやんよ。いくぞ〜」


〜マッ◯店内にて〜

 イグニスはサ◯ライマ◯クにかじりつきながら言った。

「え〜シェリアたん、時渡の役に立ちたいとは思わないかね?」

「はい!思います思います!」

 カリカリとポテトを食べながらコクコクとシェリアは頷く。

「おぉい時渡っ!シェリアたんもそう言っているんだしここは彼女の意向を汲んで聖鍵の力を使ってやるというのが男として当然のことじゃないのか?」

 イグニスは指をさしながら言った。

「えぇ〜…」

 時渡はあまり乗り気じゃないようだ。

「おい!男ならこんな健気な女の子の願いの一つや二つ聞いてやれ!」

「でもぉ〜〜〜〜〜」

 時渡はいつもどおりの優柔不断さを無駄かつ存分に発揮している。

「時渡!これ食い終わったらギルド行って新しいクエスト見るぞ!きっと検事の聖剣でも出てこない情報が出てくるかもしれないぞ!」

「いや、それはありえない」

 検事はスパンと否定した。

「お前は黙っとれ!」

 イグニスは検事の意見を聞く気は全く無いようだ。

「時渡、俺は”ヤツ”に勝ちたいんだ。お前なら友達を助けてくれるよな?」

「うっ…」

 時渡はお人好しだ。こんなことを言われたら判断が揺れ動くのは当然のことだ。昔から友達であるイグニスなら時渡の思考回路は良く知っている。ある意味一種のマインドコントロールをしようとイグニスは企んでいるのだろう。

「…分かった。ただ、シェリアの力を使うのは極力制限するからね」

「お〜助かる〜やっぱ時渡は頼りになるなぁ〜」

「私利私欲が出まくっているがな」

「検事、もう一度いうがお前は黙ってろ」

「先が思いやられるな…」

 検事はため息をついた。


 ギルドに行くといつもどおりの騒ぎ様になっている。

 下手したら平日より騒がしいかもしれない。

「行くぞお前ら!」

 イグニスはクエストボードに向かってダッシュする。

「元気がいいね〜イグニスは〜」

 時渡はぼんやりとした目でそう言った。

「あれだけ元気があればボクももっと若々しくなれるかもしれないな…」

 検事は呆れを通り越して感心していた。

 イグニスはクエストボードを見回していたが、気にいるようなものがなかったのか、受付に行く。

「すみません!S級のクエストを受けさせて下さい!!」

「はい。S級ですね。ギルドカードをここにスキャンして下さい」

「はいっ!」

 イグニスは財布からギルドカードを取り出してスキャンした。

「えーと…あの、申し訳ありませんが、現在ギルドランクがEなのでまだ受けることが出来ないようです」

「えっ?はい?ギルドランク?」

 イグニスは混乱している。

「はい。S級クエスト発注には必ず必要な資格とランクが存在するんです。まだそれに達していないよなので、発注することは出来ません」

「そ、それをなんとか〜」

 イグニスは受付嬢に泣きつく。

「イグニス!見ているこっちまで恥ずかしいよ!もうやめなよ!」

 時渡がイグニスを引っ張ると受付のカウンターにイグニスはしがみつく。

「イヤじゃ〜!」

 イグニスはどうしても諦めきれないようだ。

「じゃ、じゃあどうすればS級になれるんですかぁ?!」

「それは数こなすしか方法はないですね…」

「そんなぁ〜!」

 イグニスは崩れ落ちる。

「数こなすって…E級だから無理だろ…スライムの殻外し何回すりゃいいんだ…?」

 イグニスの目が死んでいる。

「失礼」

「え?」

 時渡とイグニスの前に身長195センチはあるのではないのかと思うくらい背の高い男が現れた。

 男は封筒とA4の紙が入ったクリアファイルを受付嬢に渡す。

「S級、バハムートの討伐を依頼されている金剛寺 輝です。発注を頼みます」

 受付嬢はぽかんとしている。

「あ、あぁ、はい、バハムートの討伐ですね」

 受付嬢はクエストカードは発行する。

「こちらになります」

「ありがとうございます」

 金剛寺 輝と名乗った男の後ろには、ただでさえ身長が高い輝を超えた身長がある2メートルは越した身長があり、ガタイのいい体格に巨大な大剣を持つ男がいる。そしてその男と話しているのは抜群のスタイルをしたいかにも仕事と勉強ができそうな、赤い孔雀の羽が飾られた装備にイグニスの聖剣以上に赤みが強い刀を持った女がいる。そしてその二人を見ようともせず、漫画を読むのに熱中している中華風の装備に身を包み青龍刀を背負った男がいた。

「あ、あの漫画読んでる人、龍人だ…」

 漫画を読んでいる男は頬に鱗が生えており、髪の毛が綺麗な水色をしている。

「でっかあの男…それにあの女…一体なに食ったらあんなスタイルになるんだよ…」

 イグニスは5人が無自覚に発している気迫をモロに感じて怯えにも近い感情を抱いていた。

「ほ、ほら、通行の邪魔になるから、イグニス、早く立って」

「あ、あぁ…」

 イグニスはヨロヨロと立った。

「は、早く帰るよ」

「お、おう…」

 3人はそそくさと帰ろうとする。

「君たち」

 ギクッッ

 時渡とイグニスは輝に呼び止められ脚がすくんだ。

「な…何でしょうか…?」

「先程S級のクエストを受けようとしていたな。1年生なのにすごいじゃないか」

 時渡達の制服は青、2年の制服は赤、3年の制服は緑なので、1年であることはすぐに分かる。

 しかし今3人は私服だ。何故分かったのか時渡たちには分からなかったが、明らかに判別の仕方が人間のそれではないのは本能的に理解できた。

「ただ、E級だから出来ないのは当然のことだ。しかし、君は火の聖剣を持っていて、もうひとりは…Ⅻ聖鍵持ちか…」

 輝はシェリアを見た。

「彼女が封監者か」

 どうやら輝はなんでもお見通しなようだ。

「少し待ってろ。君たちに見合ったクエストを発注しよう」

 輝はクエストボードを見て、クエストが書かれた紙をピッと取った。

「これを彼らに発注してあげてくれ」

 受付嬢に渡す。

「あ、あぁ、はい」

 輝はクエストカードを時渡に渡した。

「このクエストをクリアして、”金の人に貰った”と言え。飛び級して本来D級に上がるところをC級にして貰える。検討を祈る」

「え、あ…ありがとう…ございます…」

 イグニスがクエストカードを大事に握りしめると輝は笑ってバハムート討伐に向かった。

「あの人…一体誰なんだ…?」

「知らないのか?彼はこの学校の生徒会長、金剛寺 輝会長だよ」

 検事は淡々と答える。

「彼はこの学校の窮地をいくつも救ってきて、下手したらこの学校の教師総出でかかっても敵わないくらい強いらしい」

「そりゃバハムート倒せちゃうわけだわ…」

 イグニスは驚いて圧倒されていた。

「い、イグニス、会長さんはどんなクエストを受注したの?」

 時渡が二人に割って入る。

「あ、見てなかった。えっと…」

[リビングアーマー討伐]

「「「リビングアーマー⁈⁈」」」

 3人は声を合わせてそう叫んだ。

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Ⅻ聖剣〜異世界と現代が融合して30年が経ちました。〜 @kuruttakyouiku

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