第15話:ドラゴンの卵を持って来るには。
「「「「「ドラゴンの卵ぉ!?」」」」」
全員聞き返した。
ドラゴンの卵という衝撃的な単語が出てきたらそりゃそのリアクションにもなるだろう。
「そ〜だよぉ〜ドラゴンの卵持ってきて欲しいのぉ〜」
「いやいやいやいや!!!」
みんな無理無理と口々に言う。
「養竜場って近づいちゃいけないって言われてるじゃないですか!」
「大丈夫ぅ〜ちゃんと校長先生から許可貰ったよぉ〜」
カロヴァは許可証を見せる。
「何やってんだ校長!」
みんな抗議しているしているが、その後ろで時渡たちはどうせ何言ってもやることには変わりないと思って雑談をしていた。
「うぃ〜〜〜」
イグニスがフラフラと歩きながら医務室から戻ってきた。
「あ、イグニス、おかえり」
「ただいま〜」
そのおぼつかない足取りからまだ具合が悪いのがうかがえる。
「畜生…まだ耳がキーキーいってやがる…」
頭をコンコンと叩くイグニス。
「で、何やるんだ?」
「ドラゴンの卵取りに行くんだって。皆嫌がってるけど」
「あ〜なるほどな〜」
ギャーギャー喚く普通科一同にカロヴァは眉毛をハの字にしながら言った。
「いいのぉ〜?魔法農学の成績2になっちゃうけどぉ〜?」
「やります」
全員、成績には愚直だった。
養竜場はドーム型の施設で、大きさは東京ドームとほぼ変わらない。
その中ではドラゴンが放し飼いになっている。
「うわぁ…でけぇ…」
今回卵を取ってくるヴレイヴ・ドラゴンは飛龍の一種。
紅の一枚一枚が強固な鱗で覆われており、口から火を吐く。
羽がないのに飛べるのは、飛行石(ラピュタじゃない)を食べて体の中に飛ぶエネルギーを蓄えているからだ。
「マジで言ってんの?」
時渡はため息をつく。
「マスター、ドラゴンを倒すのは…」
「出来ない。卵をもって来るだけで、ドラゴン自体は傷つけるなってカロヴァ先生が言ってた」
「ではどうすれば…」
「僕がシェリアの力を使って時間を止める。その間に皆に卵を取ってきてもらう」
「大丈夫なのかい?」
サファイアが心配そうな顔をする。
「うん。それに今回は新しいモノを持ってきた」
「新しいモノ?」
「ま、見てからのお楽しみってことで」
時渡は聖鍵を取り出す。
「じゃ、シェリア、行こう」
「はい!」
シェリアは胸の鍵穴から魔法陣を展開する。
時渡は魔法陣に聖鍵を差し込む。
「「聖鍵解錠!!」」
時渡は聖鍵を引き抜いた。
「よし!えー、皆さん!僕がこの空間の時間止めてるんでその間にお願いします!」
検事が聞く。
「大丈夫なのか?聖鍵を使って?」
「…うん。シェリアと話し合って決めたんだ。聖鍵を使える器はきっと使わないとなれないから、少しずつ技を学びながら戦おうって」
「…ある意味、一つの正解だな」
検事は微笑んだ。
「…では、止めまーす!」
普通科一同は頷く。
「シェリア!時間停止!」
『了解しました!』
時渡は目を閉じて聖剣のトリガーを引いた。
カチン………
「…どう?」
イグニスが上を向く。
「…ドラゴン動いてるけど?」
「あれ?」
時渡は首を傾げる。
『あの…マスター、先程分かったことがあるのですが…』
「まさか魔法が使えない空間だとか言わないよね?」
「あ、いえ、それよりタチが悪いです」
「へ?」
「この空間、時間という概念が存在しません」
「…どういう事?」
「つまり、おそらくここで飼育されている竜を老いさせないために時間という概念が排除されているということになります。このような芸当が出来るのは校長先生だけかと」
「…マジか」
時渡はクラスの皆を見る。
「…ごめん」
半泣きだった。
イグニスが言った。
「大丈夫だ。その代わり、お前も戦え!」
「…うん」
時渡は聖剣を構えた。
「シェリア、スキル:フルアシストを起動。モードは”アサルト”」
『了解しました。スキル:フルアシストより、モード・アサルトを起動します』
聖剣の刀身にルーン文字でモード・アサルトと表示される。
「なんだそれ!?」
イグニスが聞くが、それをスルーして時渡は飛び上がった。
トンッ
軽くジャンプしただけなのに、天高く飛び上がる。
「なるほど、モード・アサルトはどうやら単純な身体能力が強化されるようだ」
検事は調べ上げながら言った。
「魔法に増強魔法という物があるが、聖鍵には標準装備されているようだな」
「すげー」
イグニスは感心していた。
「でも、俺も負けられねぇ!」
イグニスは靴を脱ぐ。
「何をしているんだ?」
「へっへー、いいもの見せてやんよ」
イグニスは靴底に魔法陣が書かれたステッカーを貼り付ける。
そして靴を履き直す。
「イグニッション!」
ボンッ!
靴底が爆発してイグニスは飛ぶ。
「なに見てんだケンティー!早く行くぞー!」
イグニスはそう言って時渡を追いかける。
「まるで鉄腕ア◯ムだな…」
検事は走り出した。
Q.なぜ1年にはまだ倒すのが困難なドラゴンの卵を持ち帰らせるのですか?他の学校では危険なのでそのようなことはさせていないと聞きます。
A.この授業を受けているうちに生徒の中ではドラゴンに対する恐怖心が無意識のうちに段々と解消されていきます。アルカディア学園が目指しているのは生徒が学園を卒業する時には一人前の冒険者にさせることです。そのために、生徒に中に眠る才能を最大限に開花させ、一つでも恐怖に打ち勝つ精神を育むのが一番重要なのです。
「クソ!防御が固すぎる!」
時渡は卵を取ろうと何度も隙きを突こうとするが、ドラゴンは反応が早く、時渡が何か行動を起こそうとする度に次なる手を打ってくる。
勿論取ってくるのは無精卵なのだが、それにも関わらずドラゴンは我が子のように守り続けている。
「あーもう!どうすれば…
「時渡ォーーーー!!!!」
「ん?」
イグニスがすっ飛んできた。
「どわぁ!?どうしたのそれ!?」
「新技じゃい!こないだ火を吹くの散々地味って言われたからド派手にしたぜ!」
「…うん。めっちゃかっこいい…」
「だろ!?」
時渡は火で空を飛ぶイグニスを見てロボットアニメのような飛行法に思わず見とれてしまう。
「っておい!時渡後ろ!!」
「へ?」
ドラゴンが真後ろで火を吐こうとしていた。
「ぎゃ〜〜〜〜!!!」
時渡は震え上がって足がすくんで座り込んでしまう。
ドラゴンが火を吐いた。
時渡は恐怖で目を瞑る。
「う…ん…?」
熱くない。
「…え?」
「ううう〜〜〜!!!」
目の前に自分が盾になって守ってくれている生徒がいた。
「!?」
時渡は混乱する。炎が逆光となって誰かわからない。
「大丈夫ですか!?」
振り向いて顔が見えた。ようやく誰か分かった。
「えっと…盾石さん!?」
盾石 結月。”盾の聖剣”を持つ、いわゆる眼鏡っ娘。
運動も苦手だし臆病な彼女が、時渡のことを身を挺して守ってくれたのだ。
盾の聖剣は鉄壁の守りを創り出す聖剣で、その防御力はドラゴンの炎程度なら当然防ぐ事が可能だ。
「あ、ありがとう!」
「う…うん!」
二人きりの世界が作られ…
「おい時渡!なにいいムードになってんだよ!」
イグニスにツッコまれた。
「あ!ごめん!」
ドラゴンが炎を吐くのをやめる。
時渡は立ち上がる。
「盾石さん、ありがとう!!」
「うん!」
時渡はドラゴンに向かってダッシュする。
「シェリア!モード・ファンタジスタ!」
『了解しました!』
モード・ファンタジスタは機動力に特化したモードであり、このモードを使っている間は浮遊能力が付与される。
「どう?イグニス?」
「なんかお前の飛び方ピーターパンみたいだな」
「例え方よ」
そんな事を話している2人の頬に、ドラゴンの尻尾がブチ当たった。
「「ぐほぁ!?」」
ふっ飛ばされた二人は養竜場の壁に激突する。
二人はバタンQ状態になってしまった。
「何をやっとるのだアイツらは」
検事はお得意のゴミを見るような目で二人を見た。
「じゃあ今度は僕が!」
サファイアが駆け出す。
ゴォ!
ドラゴンが火を吐く。
「グレイシアス!」
サファイアは氷魔法で氷の壁を生成する。
「アイス・エリア!」
そしてそれと同時に地面を氷で張った。
「ぎゃ!」
検事は滑る。
「ごめん!検事君!」
サファイアは靴底に氷でブレードを作り、スケートのように滑っている。
「全く…ボクはスケートが出来ないんだ」
検事は四つん這いになってヨタヨタと氷が張っていないところまで移動し始めた。
「さて…どう動きを止めようか…」
サファイアは考える。
ドスドスドスドスドスドスドスドス
「ん?」
サファイアが張った氷を割りながら走る一人の生徒。
鬼怒川 久玲奈、赤鬼族の女子で豪快な性格をしている。身長は180センチ。
「アタシもいいとこ見せなきゃねぇ!」
久玲奈は自身の持つ”金棒の聖剣”でドラゴンの顔を横からぶん殴った。
先生がドラゴンを傷つけるなといっていたのにも関わらず豪快な攻撃をする久玲奈にみんな圧倒された。
「おい!サファイアだっけ!?手ぇ貸してやるよ!」
「それはどういう…」
久玲奈はサファイアの背中を思いっきり押した。
「うわわ!!!」
シャーッ
サファイアは
滑りながらドラゴンの後ろに回り込む。
ドラゴンの背中はガラ空きだ。
サファイアが自身の左足を氷漬けにして体を固定する。
「ゲリダ・コンジェラティオ!」
サファイアは聖剣から猛吹雪を一点集中で噴射した。
パキパキパキパキパキパキ……!
ドラゴンの体が凍っていく。
「ほら皆!卵を今のうちに!」
「あ…あぁ!」
男子たちが卵を運んでいく。
「「は!」」
バタンキューから目覚めた二人。
サファイアがドラゴンを凍らせていく姿を見た。
「…あー、イグニスさんこれって…」
「完全にオイシイところ全部持ってかれましたね」
二人はガックリとした。
「はぁ〜いおつかれぇ〜」
1つ机大の大きさがある卵を軽々と受け取るカロヴァ。
ヒーロー扱いされてチヤホヤされているサファイア。
何もいいところがなかった男共3人組は虚空を見つめながらボンヤリしていた。
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