第14話:マンドラゴラ収穫
「おはよ〜」
教室に入ると皆がじっと見てくる。
「…まぁ…そうなるよね…」
豪馬の件があり昨日で今日だ。クラスで浮くのも仕方ない。
「時渡君!大丈夫だった!?」
サファイアが心配そうな顔をして話しかけてきた。
「あ、うん。大丈夫」
「おい時渡!?本当に大丈夫なのか!?」
イグニスも眉間にシワを寄せている。
「なんか…医務室の先生に僕が暴走したって聞いたんだけど…」
「そうだよ。俺たちお前が豪馬殺すんじゃないかって思って止めに行ったんだぜ?」
「そんなにヤバかったの!?ごめんね…迷惑かけて…」
時渡はシュンとする。
「いいってことよ!マジで平気なら良かったわ!」
トントン
時渡は誰かに肩を叩かれた感覚を感じた。
検事だった。
「時渡、覚悟があるなら昨日の現場見るか?撮影しておいたんだが」
「え…」
一瞬迷う。
「…うん。ちゃんと見ておく」
時渡は頷いた。
〜ビデオ視聴中〜
「…これ本当に僕?」
時渡は信じられないのか、顔を真っ青にして聞く。
「そうだよ。お前だよ。…いや、お前って言っていいのか分からないけど、とりあえず体はお前のもんだよ」
イグニスはそう言って腕組みをする。
「シェリアくん、パーソルチェンジってどういうプロセスなんだ?」
検事がシェリアに聞く。
「パーソルチェンジは相手に効果的だと考えられる人格を一時的に植え付けるシステムです。いくつか種類はあるのですが、豪馬さんの場合はあの人格が適正だったのでしょう…」
「…時渡、きみは一体どのモードを選んだんだ?」
「えっと…あれ?シェリア、何ッシブだっけ?」
「アグレッシブです」
「…だそうです」
「馬鹿野郎」
検事が少し怒りながら言った。
「時渡、きみはアグレッシブが日本語訳するとどういう意味か分かっているのかね?」
「え、全然知らない。習ってないし」
「馬鹿だなぁ。攻撃的といういみで使われるんだ」
「えぇ…バカって…」
「違う。きみが意味を知らないことじゃない。知らないのに使おうとしたことを馬鹿って言っているんだ。なぜ先にシェリアくんに聞こうとしなかった?」
「え、だってシェリアならいい感じなやつ選んでくれるかなーって」
「シェリアくんはまだきみと出会って1週間も経っていない。一般的に言えばまだまだ世間知らずなんだ。ちゃんとどういうものなのかしっかりと聞いて、調べてから使いなさい」
「ご…ごめん…」
時渡は何も反論できなかった。自分はまだシェリアの力を使える器ではないと言いながら、何かある度にその力を使おうとしていた。その上どういう力なのか知らずに使ってしまった。最悪人殺しをしていたかもしれない。
シェリアの頼られたいという感情を汲んだつもりだったが、それはいい面もあれば悪い面もある。
それにシェリアの力を使える器になるには勿論どのような機能やスキルがあるのか学んでおく必要がある。
しかし自分がそれを怠ったのは紛れもない事実。
時渡は情けなさと不甲斐なさに押しつぶされそうになった。
「僕に謝るな。シェリアくんにちゃんと機能の内容を聞け」
検事は未使用のノートの表紙に[聖鍵使用ガイド]と書いて渡す。
「これに書いて読め。僕の勉強法と同じだ。自分で書いた文字を自分で読むのが人間、一番頭の中に入る」
「ありがとう。ケンティー」
検事は何も言わずに頷いた。
「期待しているよ。次何か戦闘系の授業がある時にシェリアくんの力を使いこなせているきみの姿を見るのをね」
「うん。頑張ってみる」
ガラガラガラガラ
「はい席に座ってーって言いたいところだけど時渡くん大丈夫だった!?」
ユーノは心配しながら時渡を見る。
「あ、なんとか」
「そっか、良かったー…もー超焦ったんだからね!?」
「ご心配おかけしました…」
時渡は頭を下げる。
「ふふっいいのよ!生徒のことを心配するのも先生の仕事なんだから!はい!じゃあ席に座って!」
「はい」
時渡は席に座る。
ユーノは教卓に手をつく。
「昨日のことがあったからみんな戸惑ってるかもしれないけど、時渡くんは入試の時も印象良かったし検事くんに映像見せて貰ったけどあれは何かの間違いだから、いつもどおりに絡んであげて」
こうして今日のHRは終わった。
「ユーノ先生、あんなこと言ったら逆に皆が意識しちゃうとか思わないのかなぁ?」
イグニスは難しい顔をする。
「いや、これでいいよ」
時渡は安心したかのようにそう答えた。
「そうかぁ?」
「うん。少し避けられているくらいが、僕には丁度いい」
「は、時渡が良いならならいいんだけどさ」
イグニスは苦笑いをした。
「あれ、1時間目ってなんだっけ?」
「えっと…そうだ、魔法学だ」
「魔法学か」
時渡とイグニスは廊下にある自分用のロッカーを開ける。
ガラガラガラガラガラガラガラ
「うわ!」
沢山のペットボトルと缶がロッカーからこぼれ落ちた。
「な、なんでしょうか…これ…?」
シェリアが拾い上げるとみんな回復アイテムだ。
見てみるとペットボトルと缶だけではない。手紙のようなものまで入っている。
「ん…?」
[豪馬に仕返しするチャンスくれてありがとう]
名前は書いてないが、そう書かれた小さな紙があった。
「あ〜、じゃあこれみんな豪馬にカツアゲ喰らった奴らのお礼ってワケだ」
「これ全部!?飲みきれないよ…」
「良いんじゃねーの?ダンジョン行くとき持ってく回復アイテムになるし」
「それもそっか…イグニス、貰い物だからアレかもしれないけど、あげよっか?」
「お、助かる」
「これ僕だけじゃ飲みきれないからね。勿体ないことするよりはいいよね」
ピンポンパンポーン…
校内アナウンスが入る。
「普通科1年は校舎左の農場管理室に集まって下さい。繰り返します。普通科1年は校舎左の農場管理室に集まって下さい」
ピンポンパンポーン…
時渡、シェリア、イグニスの三人は顔を見合わせる。
「「「農場管理室???」」」
「僕知ってるよ。ついていて」
サファイアが言った。
「あ、そうなの?」
二人はサファイアについていく。
「ここ」
随分古臭い、昭和感が漂う施設だ。
「おぉ〜いこっちこっちぃ〜」
「ん?」
自分たちに手を振っている女性のミノタウロスの先生が居た。その喋り方とは裏腹に体が凄まじくマッシブだ。
「えっと…ここで合ってますか?」
時渡が聞く。
「あってるよぉ〜。1年の普通科だよねぇ?」
随分落ち着いたのんびりした話し方をする先生だ。
「はい」
「じゃあ〜こっちに4列になって並んでぇ〜」
普通科1年全員は4列になって並ぶ。
「こんにちわぁ〜。見ての通りミノタウロスのカロヴァって言いますぅ〜。農学担当ですぅ〜。よろしくねぇ〜」
カロヴァは時渡たちの後ろを指差す。
「そこの更衣室に作業着があるから着替えてきてぇ〜」
全員作業着に着替える。
「すげ〜、知らなかったけどこれ胸のところに自分の名前書いてあんじゃん…」
イグニスは書いてあると発言したが、正確には明朝体の刺繍が施されている。
全員作業着に着替えて再度整列する。
「全員集まったねぇ〜。今日はマンドラゴラの収穫をするよぉ〜」
「マンドラゴラぁ!?」
イグニスが小さく叫んだ。
「どうしたの?」
「時渡、お前マンドラゴラ知らねぇのか?」
「いや知ってるよ。根菜類の野菜でしょ?」
「じゃあマンドラゴラは収穫するとどうなるか分かるか?」
「叫ぶ。聞いたことないけど」
イグニスの目から光が失われる。
「あれな…ヤバいぞ」
「うん?」
「あの叫びを聞いたあと俺3日間吐いた」
「ええ…」
「おやぁ〜?イグニス君は聞いたことあるのかなぁ〜?」
カロヴァはイグニスの顔を覗き込む。
「えっあっ、はい。中1の頃に」
「それは大変だったねぇ〜。大丈夫だよぉ〜今日は耳栓してイヤ〜マフも使うからぁ〜」
「良かった…っつっても意味あんのかな…あんな叫び声に…」
「うふふ〜じゃ〜行ってみよ〜か〜」
カロヴァに普通科はついていく。
道中に[ここから先マンドラゴラ注意]と書かれた看板があった。
「ここだよぉ〜」
マンドラゴラの畑は7列あり、畝1列に15個埋まっている。
「はいじゃあこれ〜」
カロヴァは耳栓とイヤーマフを渡す。
カロヴァも装着する。
ジェスチャーで、マンドラゴラを引き抜く動作をする。
生徒たちは頷く。
「よいしょ〜」
ズボッ
「ピ゛ギ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
頭がおかしくなりそうな轟音でマンドラゴラが叫び始めた。
「う〜ん」
生徒が3人ぶっ倒れた。
「せんせー!イグニスと盾石と森村が倒れましたー!!!」
先生は落ち着いてマンドラゴラの頭に生えている葉をブチィッと引きちぎった。
「フェ…フエエェェェン!!!」
するとなんとマンドラゴラが小さく泣くようになった。
「は〜い、こんな感じにマンドラゴラは頭の葉を取られると大声で泣かなくなるから〜真似してやってみてね〜。じゃ〜この3人医務室に連れてくから〜」
先生は3人をその屈強な体で担いで行った。
勿論、聞こえてるわけないのだが、生徒たちはなんとなくどうすれば良いのか分かったので収穫を始めた。
ズボッ
「ピ゛ギ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ズボッ
「ピ゛ギ゛ャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
けたたましい鳴き声が鳴り響く。
そして頭の葉をブチブチと取っていく。
すると急に大人しくなるのでかごの中に入れていく。
「なんだか農家になった気分だなぁ」
時渡も鼻歌を歌いながらマンドラゴラを収穫する。
この光景を見たらマンドラゴラが死屍累々としたサマに見えるかもしれないが、葉を取られるのは人間に例えれば爪切り程度のことなので、言い方を変えれば爪切りをされてかごに入れられているだけである。
しかし、マンドラゴラにはもう一つ収穫するのに難点がある。
暴れるのだ。
手足のように見える根をジタバタさせて葉を取るのを妨害しようとする。
こちらからしたら迷惑くらいにしか思わないかもしれないが、あちらからしたら死ぬまいと必死に抵抗しているのだから仕方ない。
「うわ!あ!おい!暴れるな!ぐえ!ペッ!ペッ!」
マンドラゴラが暴れるせいで口に砂が入った検事はイライラしていた。
「コイツら…聞き分けのない子供の千倍タチが悪い!」
怒りの沸点を越えかけている検事は顔が真っ赤になっている。
「コイツら片っ端から葉を斬ってやる!」
検事は遂に聖剣を出してマンドラゴラの葉を切り始めた。
「ケンティー!?」
「どらああああ!」
検事は大声を出しながらマンドラゴラの葉を一つずつ丁寧に切っている。
声と動きがあっていない。
「ハーッハーッハーッハーッ」
全部切った検事は息が上がっている。
ポンッ
「は?」
ポポポポンッ
マンドラゴラの葉が復活した。
「はぁ!?」
検事は目を疑う。
カロヴァが葉をちぎっていた理由は簡単。
マンドラゴラは葉を切るとすぐに復活するのだ。
「巫山戯るなあああ〜〜〜!!!!」
検事は倒れた。
「ケンティー!!!」
時渡は検事に駆け寄る。
「世の中クソだ」
そう言って検事は白目をむいてガクリと気絶した。
「ケンティ〜〜〜!!!」
時渡は検事を抱えて叫んだ。
作者も自分が書いている文章が馬鹿らしくなってくるほどカオスな展開にサファイアとシェリアはその様子を見て困惑していた。
シェリアは送心術(テレパシーみたいな魔術)を使ってサファイアに話しかける。
「あの…サファイアさん。お二人は一体…?」
「放っておこう」
サファイアにしては珍しく冷たい対応を取った。
「ホッ、終わり!」
マンドラゴラは全て収穫されてかごに中に入れられた。
「お疲れ様ぁ〜」
カロヴァが戻ってきた。
「おや〜?ダウンしちゃった子がいるね〜」
倒れた検事を見てそう言った。
「マンドラゴラの花粉を吸うと頭がおかしくなっちゃうからね〜」
カロヴァは検事を担ぐ。
「じゃ〜2時間目は続きをするよぉ〜」
「続きって…またマンドラゴラですか?」
「いや〜、養竜場で卵を取りにいくよ〜」
「はい!?」
普通科一同は耳を疑った。
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