第13話:時渡、結局頻繁に聖鍵を使う。その上暴走する。
時渡と豪馬の試合第2回戦、アイゼルンの掛け声でその火蓋が斬られた。
豪馬が二人に襲いかかる。
「マスター!」
「あぁ!」
シェリアの胸の鍵穴から魔法陣が出現する。
時渡は聖鍵を差し込む。
バフォッッ
コート全体に風が舞い上がる。
「うおおお!!」
エレクのライトニング・ギガ・ボルトと格が違う強風が吹き荒れる。
「なんだこの魔力量!?」
「この属性…何なの!?」
観戦者たちは今まで感じたことがない属性の魔力に戸惑い、圧倒されている。
「こ…これは…!?」
検事が聖鍵をスキャニングする。
この魔力量ならかなりの時間はかかるだろうと検事は思ったが、すぐに答えは出た。
「…どういう事だ…!?有り得ない!」
モニターに表示されたのは誰もが1回は見た事があるであろうあの言葉。
404Not Found
それだけだった。
時渡は聖鍵を回す。
カコンッッ
「「聖鍵解錠!!」」
聖鍵を引き抜いた。
抜刀された聖鍵の先の鍵が刀身へと変化し、聖鍵が聖剣に変わる。
それと同時にシェリアの体が光の粉となっていく。
「あれが…聖鍵…!」
イグニス、サファイア、検事の3人もちゃんと目にするのは初めてだ。
常磐色の刀身が輝いている。
「フンッ!」
豪馬は爪を振るう。
ヴォッ
「何!?」
時渡が消えた。
「ど…どこに…!?」
豪馬はキョロキョロしている。
「あ!上!」
イグニスが叫んだ。
そこにはフワッと空中で滞空している時渡がいた。
「シェリア、あの…なんちゃらチェンジお願い!」
『了解しました。パーソルチェンジを使用します』
「そうそれ!」
時渡は急降下して豪馬のライオン顔に踵落としをした。
「グワ!」
豪馬はクラクラしている。
「シェリア、パーソルチェンジってすごく使えるね」
『え?まだ作動してませんよ?』
「アレ!?そうなの?」
『はい。まだモードを決めていないので…』
「あ、モードなんてあるんだ。じゃあ攻撃特化型はある?」
『はい。モードアグレッシブを起動します』
「お願…い!?」
ガクンッ
時渡は立ったまま気を失ったかのように全身の力が抜ける。
「ん?どうした!?」
イグニスは異変に気がつく。
「まさか…気を失ったのか!?」
サファイアは心配する。
「二人とも、狼狽えるな。時渡の生体値は安定している。様子を見よう」
検事は冷静に二人を落ち着かせる。
スッ
時渡は顔を上げる。
「お!大丈夫っぽい!」
「良かった…」
二人は安堵する。
「お゛い、西尾」
「「「!?」」」
ドスが効いた声を発した時渡に3人は驚く。
「ウ…ウウ…」
「なんだよ言うほど大したことねーじゃねぇかよ。もっと期待してたんだけどなァ」
ツカツカと豪馬に歩み寄る時渡。
ザンッ
目前で聖剣を突き立てた。
「さっさと立てよ」
その姿を見た観戦者たちは息を飲んだ。
「あれ…本当に時渡なのか!?」
イグニスは目を疑う。
完全に自分の知っている時渡じゃない。
時渡と同じ顔、同じ姿をした別人だ。
「グウゥ…」
豪馬は立ち上がる。
「ガオオオオオオッッッ!!!!」
そしてコートに響き渡る雄叫びを上げた。
「そうだ!そうこなくっちゃ面白くねぇなぁ!」
不気味な笑みを浮かべる時渡。
「グロアアアア!!!」
豪馬はムキになって乱暴に爪で時渡を切り裂こうとする。
ガガガガガガガンッッ
ゴトッゴトゴトゴト
「その程度で周りの奴らボコしてきたのかよ。イキリも大概にしろよ」
「グ…グア!?」
豪馬はもう喋れない段階まできている。
しかし、まだ人間らしい反応は出来るようだ。
その爪を全て斬られたのを見たリアクションは、子供の見るアニメに出てくるビックリしたライオンそのものだった。
「もうおしまいにしよう」
時渡は聖剣を構える。
「待った、時渡…豪馬を殺すつもりだぞ!?」
イグニスが立ち上がった。
「…時空斬」
なんとアサルトモードになった時渡はシェリアの承認無しに時空斬が使えるようになっていた。
巨大なエネルギー体の大剣が聖剣から伸びる。
観戦場は大騒ぎになる。
「ヤバい…止めないと…!」
イグニスが立ち上がる。
「危険過ぎる…と、言いたいところだがボクも行こう」
「うん。僕も」
3人はコートに行く。
時渡は今にも聖剣を振り下ろそうとしている。
「トドメだ」
そう言って振り下ろし…
「「「止まれえええぇぇぇ!!!」」」
「あ゛?」
イグニス、サファイア、検事の3人が時渡に斬りかかる。
「誰だお前ら?」
ギンッッ
3人の剣を時渡は当然のように受け止めた。
「やはりか!時渡!…いや、キミは別人格だね!?」
「起きろ時渡!」
「戻って!早くしないと取り返しのつかない事になる!」
「…何いってんだ…?お前ら?」
明らかに時渡の目つきじゃない。
あの優しい時渡ではなく、赤の他人を迷惑そうに見る目をしていた。
「誰だか知らねぇが邪魔しないでくんないか?目障りだ」
3人を振り払う。
「うお!」
「うわ!」
「ぐわ!」
3人は三者三様の反応をする。
「とりあえず俺に先に喧嘩を売ってきたのはコイツだ。一回トラウマ植え付けとかねぇとな」
悪魔のような思考をしている時渡(?)。
「生かしておいてはやるが…歩けないくらいが丁度いいだろ」
豪馬に剣を振り上げる。
「…いや、気が変わった」
時渡は剣をチクリと豪馬に刺した。
「…魔力吸収」
聖剣が豪馬の魔力をどんどん吸っていく。
すると獣の姿から徐々に人間へと変わっていく。
そしてイグニスが遭遇した姿へと変わった。
…しかし、更に時渡は魔力を吸い続けた。
「や…やめろ…!」
豪馬は抵抗する力も残っていない。
「あっ!」
豪馬の姿が更に変わる。
なんと小学生くらいの子供になってしまったのだ。
「…フッなるほどな。同年代と比べて身長が低くてガキっぽいからコンプレックスで魔法を使って大男になってたっつーワケか」
「う…ううう…」
そう。これが豪馬の本来の姿。
高校生になっても身長が150センチにも満たないのがコンプレックスだった彼は自分の得意魔法である変身魔法を使い、大男に変身して自分の身長のことをバカにした人たちを片っ端からボコボコにしていたのが真実だった。
襟の裏を掴み、時渡は豪馬を晒し上げる。
「ハハハッどうだ?晒し者にされる気分は!?」
「うっ…うう…ううう…」
豪馬は恥ずかしくて、情けなくて、ただただ泣くことしか出来なかった。
「そこまでにしてくんねぇか?」
「あ?っっっぐぁ!」
時渡が振り向いた瞬間、顔面に鉄拳が飛んできた。
その鉄拳の持ち主はイグニス…ではなかった。
「ぐっ…痛…誰だテメェ!?」
観戦場がザワザワする。
「西尾さんだ…」
「西尾!?マジで!?」
そんな声が聞こえる。
「な…なぁ…あれ…誰だ?」
イグニスが検事に聞く。
「驚いた…彼は生徒会の人間だよ」
「生徒会!?」
「四神生徒会、西の獣、西尾 白虎!」
彼の名前は西尾 白虎。サファイアと同じ虎系獣人であり、豪馬の兄である。
白虎はワイシャツを脱ぐ。
「…白虎招来!!!!!」
白虎の体から白い毛が生え、顔から虎のような模様が浮き出て、腕が虎のように変化する。
「暴れるぜ!」
今の時渡の10倍は好戦的に見える白虎は目にも留まらぬ速さで一気に時渡との距離を詰める。
ジャギンッッッッ
「…ん?」
何かを切り裂く音がしたが、時渡に変化はない。
「テメェ何やりやがっっっ!!」
全身から血が吹き出る。
「な゛っっ……!?」
時渡は倒れる。
「時渡!?」
「時渡!!」
「時渡君!」
3人は駆け寄る。
「安心しろ。体細胞まで斬っていないからすぐに治る。貧血にした程度だ」
時渡は豪馬をつまみ上げる。
「…こんな恥ずかしい弟、助けたくないが会長が言ったから来た。会長に感謝するんだなぁ豪馬。…今日は家族会議だ」
「や、やだぁ!アレだけは!アレだけはやだよぉ!」
「お前が引き起こした事だ。覚悟しとけ」
白虎は帰ろうとする。
「あ、アイゼルン先生。弟がご迷惑おかけしました。俺が斬った子を医務室に連れて行ってやって下さい」
「あ…あぁ。分かった」
時渡は目が覚めることはなく、そのまま担架で医務室に運ばれていった。
「う!?あ…いてて…」
時渡は体を押さえると全身が包帯グルグル巻きになっていることに気づいた。
「あれ!?ここ…どこ!?」
自分が今自分のものではないベッドの上に寝ているのは分かったが、それ以上は分からない。
「あ、シェリア…」
シェリアは時渡の右で寝ていた。
「あの後どうなったのかな…?」
時渡はモード:アグレッシブ使用以降の記憶がごっそり無くなっていた。
そして左には…
「うわ!?誰!?」
全く知らない女の人が寝ていた。
「ん…?あ、起きた?」
「え…あ…はい…」
「私はリリス。いわゆる保健室の先生ってやつ。サキュバス。よろしくね」
「…あ、はい」
時渡は状況が理解出来ない。
「きみ、暴走して生徒会の子に止められたんだよ」
「暴走!?」
「まぁ、システムの異常とかじゃなくって最初から暴走すること決まってたって感じの暴走」
「あ…あぁ…あ!豪馬は…?」
「あー…あの子なら退学になったわよ」
「退学…え!?なんで!?」
「彼がきみに本来の姿に戻された後、いろんな生徒が今までは彼のことを怖がっていたけど本当の姿を見て色々なことを訴えてきたの。どうやら強面の姿に化けてカツアゲとかしていたらしくてね、その他にも校則違反とかが発覚したから退学に…って感じ」
「なるほど………なんか…悪い子としちゃったな…」
「いいのよ。きみはいろんな子に勇気を与えるチャンスをあげたんだから。これを機に彼には悪いことをしたら罰は必ず下るってことを学んで欲しいわね…」
リリスは気の毒そうな顔をする。
「それにきみ、完全に気を失ってたから夢の中へ行けなかったわ。おいしい夢が食べられると思ったのに〜」
リリスは口を膨らませる。
「ぼ、僕の夢は味気ないと思いますよ…」
時渡は適当に受け流した。
時計を見ると7時を回っている。
「どうする?帰る?それともこのまま寝ちゃう?」
「あー、うーん、帰ります」
「分かった。服、生徒会の子に切られちゃったから新しいのを用意したわ。はいこれ」
「あ、ありがとうございます」
時渡は包帯を取ってもらい服を着る。
「うん。傷も塞がってるし大丈夫そうね」
「そうですか?ありがとうございます」
「いいのよ〜仕事なんだから〜。あ、ちょっと待ってて。その子起こされたら私今日の夕飯無くなっちゃう」
「ん?え?」
リリスはシェリアに触れる。
「はい。ごちそうさまでした」
「ん…う…?」
シェリアが起きた。
「シェリア、帰ろう」
「あ、はいぃ。ますたぁ」
眠そうに目をこするシェリアの手を引っ張りながら時渡は帰っていった。
「…あの子の夢、おいしかったな〜。時渡くんとピクニックか〜…幸せそうな夢ってやっぱり絶品ね」
二人は手をつなぎながら帰る。
災難な目に遭った時渡、明日もイベントがあるから頑張ろう。
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