第12話:イグニス、飛ぶ。

「カチコミじゃ〜!カチコミカチコミ〜!!!」

 イグニスはハイテンションにコートに出てきた。

「イグニス!このまま勝っちまえ!」

「そうだ!一撃必殺使っちまえ!」

「アレは使わねーよ!俺まで食らうだろ!」

 元々いじめられっ子だったが反逆を起こして中心人物にまで登りつめた男だ。

 中学仲間が多い普通科はクラスで中心人物だったイグニスを支持する者は多い。

 まぁ今この話は関係ないので割愛する。

 さて、対戦相手はというと。

「あーお前か〜キツいな〜っ」

 中学の頃同じクラスだった速水 瞬だ。

「イグニス、流石に手加減してくれよ。火傷したくないから」

「あいよ」

 互いに握手をして剣を構える。

「始め!」

 すかさずイグニスは手から魔法陣を出す。

「エスト・フラーマ!」

 ヴォゥッ!

 魔法陣から炎が放たれる。

 瞬は逃げる。

「あちゃちゃちゃっ!イグニスお前手加減してくれって言ったろ!」

「これくらい避けろ!」

「横暴過ぎる!」

 瞬はここで初めて聖剣の力を発動する。

「エンジン起動!」

 パヒュッッッ

 なんと消えた。

「うお!?なんだ!?」

 イグニスは驚く。

 ヒュンッ

 瞬時にイグニスの背中に回り込んだ瞬。

「俺の剣は瞬速の聖剣!脚の運動能力を飛躍的に向上してくれる剣だ!」

「解説ありがとさん」

 イグニスは瞬が自分の背中に回り込むのを予想していた。

 それを見越して足元に魔法陣を書いた紙を置いていた。

「デトネーター!」

 ボガァン!!!

 イグニスお手製の火属性地雷魔法が火を吹いた。

「あっぶな!」

 瞬は間一髪避けた。

「チッ躱されたか…」

 ヒュンッ

 そして瞬はまたイグニスの視界から消える。

「イグニス!」

「お!?なんだケンティー!?」

「瞬が背中に回り込む癖があるのは良い読みだ!」

 聖剣にデータを表示させる。

「しかしそれだけじゃない!」

 イグニスはそのデータを見て頷いた。

「サンキュケンティー!」

 イグニスは剣をバットのように構える。

「フンッ!」

 そして振った。

 ゴスッ

「グホァ!?」

 いなかったはずの瞬がイグニスが振った剣にブチ当たった。しかも顔だ。

「アレ!?」

「瞬!?」

 時渡は指をさす。

「な、なんで!?」

 検事が聖剣のモニターを見せる。

「これを見てくれ」

「ん?」

「瞬は移動する時イグニスを撹乱させたいのか、一週フィールドを回る癖がある。それを応用して360°攻撃すれば自ずと当たる」

「なるほど!」

 顔に剣が当たった瞬は鼻を押さえて痛みに耐えている。

「いってえぇ〜!」

 イグニスはニヤリと笑い、剣を担ぐ。

「瞬、運良いな〜お前!」

「は?」

「俺の新技食らわせてやる」

 瞬は顔を真っ青にする。

「あ、あ、あ、あ、あ…!」

 ユラユラと近づいてくるイグニス。

「イグニスの新技!?」

「なんだ!?」

「絶対強いやつ!」

 そして手を筒のようにして口に当てた。

「ふぁいやー!」

 息を吹くと筒状にした手の先から火が出た。

「うわあちちちちち!」

 瞬は手で顔を覆い火を防ぐ。

「はぁ〜これやっぱ肺使うわ〜」

 イグニスは一発でゼーゼーしている。

「…え?それだけ?」

 瞬はもっと何か凄まじい事が起こると思っていたが、そんなことはなかったので安心と期待外れの両方の感情が出てきて複雑な気分になる。

「それだけってなんだよ!?ドラゴンが火を吹くみたいでかっこいいじゃねぇか!」

 シーン…

 会場が冷めた静寂に包まれた。

 イグニスは天を仰ぐ。

「…あー、マジか、俺がかっこいいと思っていただけか」

 虚空を見つめる。

 ビーッ

「時間切れ!」

 先生が叫んだ。


 意気消沈としたイグニスが観戦場に戻ってきた。

「こんなのないやろ…」

 真っ白に燃え尽きている。

「ど…ドンマイ…」

 時渡はイグニスの肩を叩いて慰めるしかなかった。

 そして最後の番が来た。

「あ、僕か」

 時渡は更衣室に行こうとする。

「待て!時渡!」

 イグニスはあることに気がついた。

「…検事、サファイア、あと一人、まだ魔法科で戦っていないヤツ、分かるか?」

 検事が調べ上げる。

「西尾 豪馬だ」

「うわあああああああああ!?!?!マジで!?マジで言ってるの!?」

「ん?彼がどうかしたのかい?」

 事情を知らないサファイアと検事はキョトンとしている。

「…簡単に説明するぞ」

 イグニスは軽く説明する。

「…なるほど…かなりまずい状況だね…」

 サファイアは口元に手を当てて考える。

「時渡、これ、耳につけておけ」

 検事は時渡に変わった造形をしたイヤホンを渡す。

「これは?」

「通信機だ。豪馬の事をスキャニングして弱点やアドバイスをこちらから行う。サファイア、キミはその動体視力を使って豪馬の状態を伺って欲しい」

「分かった」

 サファイアは通信機を装着する。

「シェリア」

「はい」

「…更衣室で待ってて。僕に作戦がある」

「…?分かりました」


 魔法科の観戦場にて

「いよいよ最後か〜」

「豪馬40番変わって欲しいって言ったからくじ交換したんだよね」

「そう言えば普通科で出てないのって誰だっけ?」

「ほら、あの、凄い聖剣持ってるヤツだよ」

「あ、常磐ってやつだっけ?」

「そうそう。そいつ」

「どうなるんかね?豪馬強いし常磐もデュラハン倒したらしいし…」


 二人がコートに出てくる。

「時渡…!頑張れよ…!」

「神様…どうか…!」

 クラスの皆は悪名高い豪馬と戦う羽目になってしまった時渡の身を案ずる。

 時渡は剣を抜くが、反応しない。剣が疑似聖鍵にはなれないということが証明されてしまった。

「…マジかよ…!」

 時渡は試合が始まる前に大ピンチになってしまった。

「…待った早速ヤバくないか?」

「時渡…本当に大丈夫なのか?」

「なぁ先生に相談してこの試合やめさせようよ」

 口々にクラスメートたちが言っているが、もう遅い。

 先生がコートの真ん中に立つ。

「両者、向き合って!」

 二人は握手を…しなかった。

「構えて!」

「…」

「…」

「始め!」

 豪馬は呪文を唱える。

「センタムヴィスタ・アニマ・アディピシ」

 ゴキャッモ゛ギッ

 豪馬の体が段々と獣の姿へと化していく。

 頭がライオン、腕は虎、脚がチーターの怪物になった。

「うわー明らかに強そう…」

「何メートルあるんだ…?!」

 口々にクラスメートの皆が言う。

 そしてこの化け物と戦わなければいけない時渡はその姿を見上げながら叫んだ。

「仮面ライダーオーズのラトラーターコンボじゃん!!!!!」

「ガオオオオオオ!!!!!」

 雄叫びが時渡の耳を劈く。

 トロッ

「え?」

 右耳からなにか生暖かいものを感じた時渡は耳を押さえる。

 ヌルッとした何かが手に付着した感覚がした。

 手を見てみる。

 …手が真っ赤だった。

「は!?」

 先程の咆哮で耳から血が出たのだ。

「ちょ…ちょっと…それはないって…」

 右耳が聞こえなくなった。

 やむを得ず左耳に通信機をつける。

「グオオ!」

 豪馬は時渡に襲いかかる。

「時渡君!彼の左脇に隙ができてるからそこから逃げて!」

 サファイアが言う。

「分かった!」

 時渡は走ってそのままスライディングして豪馬の爪攻撃を回避する。

「うおー!怖い!」

 時渡は心臓がドキドキする。

「見てるこっちも怖いよ」

 検事はスキャニングしたデータを解析しながら答える。

[ロード完了]と聖剣のモニターに表示される。

「よし」

 検事はシェリアに貸した私物のノートパソコンにデータを送る。

「シェリアくん、パソコンに豪馬の戦闘データを送った。リアルタイムで更新されるから出番が来るまでよく見ておけ」

「分かりました」

 シェリアはパソコンを見ながら時渡と豪馬の戦闘を見る。

「どりゃ!」

 豪馬の攻撃が速くて時渡は防ぐのがやっとだ。

 ガンッ!ギンッ!ゴンッ!

「ぐっ!う!うぅ!」

 豪馬の爪と時渡が持った試合用の剣がぶつかり合い、鈍い音が響く。

 ワンサイドゲームに持ち込まれている。

「時渡君!宙返り出来るならそこの柱からジャンプして攻撃を回避すれば、彼の上に乗って攻撃できる!」

 サファイアがアドバイスする。

「分かった!ありがとう!」

 時渡はコートの柱まで追い込まれると柱に向かってダッシュしてそのまま柱に駆け上がり宙返りする。

 …しかし。

 バチンッ

 豪馬の背中に乗ろうとしたら極太の尻尾に叩き落された。

「グワ!」

 時渡は地面を転がる。

「キャ!」

 誰かが叫んだ。

「嘘…!ごめん!時渡君!」

 そう動くように促してしまった事をサファイアは酷く後悔する。

「いてて…大丈夫。気にしないで」

 時渡は起き上がる。

「ここまでやられんだ…こっちもやってやる!」

 ダッ!

 時渡は豪馬に飛びかかる。

「ハッ!」

 豪馬が繰り出してきた爪攻撃を全て防ぐ。

「え!?あんな剣さばきできるの!?」

 サファイアは目を疑った。

「いや、サファイア、キミはなにか勘違いしているようだが…」

 検事は淡々と答える。

「一度スイッチが入った時渡の剣術はイグニスを超えるくらい強い」

「何だって!?」

 サファイアは耳を疑った。

「アイツ普段全く本気出さないからあんな気が抜けたようなキャラなだけで、本気出すと俺ぶちのめされちまうんだよ」

「そうなのかい!?」

 そう。時渡は実は本気を出すと強い。

 剣道部として活動してきただけでなく、動画配信サイトや本で独学で剣術を学んできたため、我流の剣術で戦える。

 故にどの流派とも違う完全オリジナルなため彼の動きを読むのは非常に困難と言える。

 そこら辺のいきなりチート能力を手に入れたなろう系主人公とは違う。

 ここまでしっかりと努力してきたのである。

「まだまだぁ!」

 時渡の剣さばきは豪馬の獣の如く動きをとっくに凌駕にしている。

 ガンッ!ギンッ!ガンッ!ガンッ!

 豪馬の攻撃を防ぐだけでなく、それと同時に攻撃までしている。

 しかし豪馬も負けていない。

 例え時渡がどれだけ素早さで勝っていたとしても、筋肉量が魔力と獣化で増強された豪馬にはパワーでは流石に勝つことは出来ない。

「ドリャア!」

 豪馬は虎の爪ではなく肉球で平手打ちした。

「グッ…!」

 時渡の全身が肉球で埋まる。

 肉球の弾力と反発力で時渡はふっ飛ばされる。

 ドゴオォン!!

 地面に叩きつけられる。

「痛って」

 地面にめり込んだが、痛みもあまり気にせず起き上がった。

「おイ、常磐 時渡、おマえ、聖鍵使っテナいだろ?」

 豪馬は獣化が進んで喋りがカタコトになっている。

「あーそうだけど?」

「使エ。聖鍵を使っテ俺ト勝負しロ!」

 周りがザワつく。

「あー、お望み通りそうしてやるよ。待ってろ」

 更衣室に戻る時渡。

「シェリア」

 名前を呼ばれてシェリアはハッとする。

「はい!マスター!」

「豪馬の行動パターンは読めた?」

「はい。完璧にインプットしました」

「よしきた。じゃあどうやら豪馬もシェリアと戦いたいそうだし、全力でやってやろうよ!」

「おイ!マダかァ!」

 しびれを切らした豪馬の叫びが聞こえる。

「あ、やべ、怒ってる。んじゃ行こっか」

「はい!」


 時渡とシェリアがコートに出てきた。

「シェリアたぁ〜ん!頑張って〜!」

 イグニスが応援する。

「はい!見てて下さい!」

 シェリアはにぱっと笑う。

「尊い…守りたい…この笑顔…」

 イグニスは倒れた。

「何をやっているんだこのバカは?」

 検事はゴミを見るような目をしながら言った。


「先生!延長戦ヲ頼ミまス!」

 豪馬はアイゼルンに頼む。

「あ…あぁ…分かった。許可しよう」

 内心、アイゼルンは断ったら殺されると思っていた。

 コートに向かい合う化け物と少年と聖鍵。

 そしてその間にアイゼルンが入る。

「こ、これより、西尾 豪馬対常磐 時渡の第2回戦を開始する!」

 豪馬は首を鳴らす。

 時渡は聖鍵を構える。

「始め!」

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