第10話 戦争9

ヒューロスはその報告を聞いた瞬間思わず笑みを浮かべた。あちら側から援軍が向かってくるということはつまりあちら側の軍は勝利を収めたことを物語っていた。

たとえあちら側の軍がこちらへの援護に来たとしても状況的には厳しいことには変わりはないが、それでも援軍が来る。こちらとは違う自国軍が敵軍に勝利した。その情報は吉報以外の何物でもなかった。

しかもあちら側からの援軍が来るということは敵軍を挟み、その敵軍の真ん中の兵を実質無力化することにも成功する。たとえ兵力差があったとしても戦える光が見えてきた。

「ところで、その援軍はあと何分ぐらいで着きそうなんだ?」

「後十五分ほどでつくと思われます」

後十五分耐えればいいだけ、ヒューロスはそう考えたが現実はそう甘くなかった。さっき兵士とはまた別の兵士がヒューロスのもとに駆け寄ってきて、そして告げる。

「前線の防衛網がもう持ちません!」


「はぁ...はぁ...」

山の中で、ある一人の将が身に着けている鎧や兜を落ち葉や泥だらけにしながら必死に下山していた。

「ごめんよ...皆」

そして目尻には涙を浮かべていた。

そう何度も呟きながらその将は下山する。

そして土から出ている木の根に一度つまずき、だがすぐに立ち上がってまた下山するために走り始めていく。

「皆の命、思いを無駄にするわけにはいかないんだ」

その将の目は涙を浮かべていようと、奥底では燃えるような意思があると思えた。

そしてその将の願いが通じてか、木々途絶えた。そしてその将カルケスは強い日光の光を浴びて、そして開けた少し先では、激戦が繰り広げられていた。

柵を登って超えようとする敵兵を頑張って叩き落す自兵、柵を打ち破られ、敵兵に突破されそうなところをなんとか敵兵を跳ね返し敵兵を堀に落としていく自兵。

カルケスは真っ先にその堀や策の中にある一番大きなテントに走っていく。

そして中に入ると二人の兵士と、見慣れた老人ヒューロスが居た。

「カルケス...戻ってきたのか」

ヒューロスは目を見開き、カルケスに向けて言葉を放つ。

でもその表情は浮かない。

「状況は...状況は今どうなっていますか!?」

「カルケスが見た通りとしか言えん。決していい状況ではない。それどころかあと数分持つかすら分からない状況じゃ」

「解決策は?」

「今援軍が来ている。十五分ほどで来るそうじゃ、それまで耐えるしかない」

カルケスは自らの愚策を恨んだ。自分が勝手に兵を率いて砦の加勢に行こうとして、そしてそれに失敗して自分以外の兵全員を失った。自らの決断を恨んだ。

「くそ...俺があんなことしなければ」

「カルケス、もう過ぎたことを恨んでいても仕方がない。お前も一緒に防衛に参加してくれ」

ヒューロスにそう言われ、カルケスは自分の腰に携えている剣を見つめた。そして前を向くと急いで前線へと向かっていった。

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 ある王国の軌跡 @kekumie

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