第9話 戦争8

我が軍の兵士たちが敵陣営になだれ込んでいくのをケーベルスは後ろから眺めていた。

「なぁ、将棋って知ってるか?」

ケーベルスが隣に居る騎士に質問する。

「存じております」

返答を聞くと、ケーベルスは何かを思い出すような仕草をしてから言う。

「一瞬だけど将棋で見たことあるような感じになってたんだよな」

「と、言いますと?」

「真ん中でさ、歩兵やら銀やらが鍔迫り合いをしてるんだよ。でもその均衡を壊すように隣とか敵陣地自陣地奥から出てくる角やら飛車がやってくるんだ。

それを思い出した。そう思うと戦争も将棋のようなのかなってちょっと思っただけ」

「でも陛下、戦争というのは将棋のようにはいきません。

倒した相手の兵はこちらの兵にはなりませんしね」

こんな会話をしている間にもこちらの兵は相手軍をぐんぐんを押していっている。

騎馬兵を将棋の駒に例えるなら飛車か角か香車だろうか。

歩兵一人で飛車を取るのは難しいし、実際取れない。

だがその歩兵が金になったとき、飛車に勝つ可能性はあがる。

我が軍が相手軍を押していて、川からも上がり草原の上に我が軍のほとんどがいた。

この調子で行けば余裕で勝利できる。そう思っていたがそうは問屋が卸さなかった。

「陛下!左側から敵軍の騎馬兵が」

隣の騎士に言われ、ケーベルスが左を向くと約100の騎馬兵たちがこちらに向かってきていた。そしてそれに続いて約400の歩兵たちがこちらに向かっているのも分かる。

「愚策だな」

ケーベルスは他にも聞こえないぐらいの小さな声でそう呟く。

川岸をこちらが渡り切った今、こちらの兵力は約900人ほど、そして相手の兵力は増援合わせて700ほど、たとえ今増援をよこしたところで勝てる見込みは低いのだ。

やるならもっと多くの増援をよこすか、今攻め込まれている敵兵たちを撤退させるべきだった。

そしてこちら側の軍がこちらの増援に来た軍の増援に向かう前にその軍との決着をつけ、こちらとの戦いに備えるべきだった。でもここで兵力を分散した今、その見込みも薄い。

そしてケーベルスの予想通り、ここでの戦いはケーベルス側、アルトリア王国軍の勝利で終わった。


その一方でヒューロスが指揮を任された左側の軍は劣勢に立たされていた。

一応急いで柵を張ったり堀を掘ったことにより一応防衛はできているがいつその防衛網が破られてもおかしくなかった。

「早く来てくれ...ケーベルス」

ヒューロスはそう小さく呟く。その額には一粒の汗が流れていた。

そのヒューロスの元に一人の兵士が駆け寄ってくる。そして急いでヒューロスにあることを告げた。

「将軍!今、こちら側に援軍が向かってくるのが確認できました」


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