結婚競争曲
inoranai
第1話 離婚
「離婚しよう。やっぱり無理だと思う。」
ニトリの白いソファーに座り、前を向いたまま、夫は私の顔も見ずにそう言い放った。
この1週間は本当に地獄だった。
新宿のauショップで携帯を修理に出しに行ったときのことだ。
お店を出てすぐ、道のど真ん中で急に離婚を突きつけられたのだ。
まさかの展開で、一瞬血の気が引いたのを感じた。
悪いところは直すから!と、なんとか1週間だけ猶予をもらい、お試し期間をハラハラしながら過ごしていた。
もしかしたら、前みたいな生活に戻れるんじゃないか?
なんて淡い期待をしながら、いつも以上に家事を頑張った。パンツにまでアイロンをかけた。マンションの内覧にも2人で出掛けた。もうすぐ一緒に新築タワマンに引っ越すのだ。高級家具やカーテン、ラグだって何度も打ち合わせて決めた私のお気に入りのもの。絶対に大丈夫だ。自分に何度も何度も言い聞かせ、奮い立たせるが、すぐに不安になる。一緒に歩いているはずなのに、彼の数歩後を1人ポツンと歩いているような、そんな寂しい気持ちを感じるから。
一体私の何が悪かったのか。ぐるぐると考えを巡らすが、どうしたってここ最近の自分の悪い言動しか思い浮かばない。そりゃそうだ、だからこんなことになっている。あの日だって、大喧嘩してて、クソジジイって秋葉原の駅前で叫んだじゃないか!
彼はもう決めているのだ。
「よしくんが決めたことだから、もう何も言わないよ。わかった。今までありがとう。」
言いたいことはいっぱいあった。でも、何を言っても届かないのなら、ウザいとか思われるなら、飲み込んでしまった方が、物分かりの良い女風に見えるんだろうなぁと思ってしまう。
こんな状況でも最後までカッコつけようとするなんて、やっぱり私はアホなのか?
「私たち‥幸せになりたかっただけじゃない?」
ここで最後の悪あがき。泣くの我慢して上目遣いで彼を見つめてみる。
まだやるんかい!でも、この言葉だけは私の本心だった。
いつ出ていくか等簡単に話し合い、夫は離婚できるとわかると安堵の表情を浮かべて、1人ベッドルームに向かった。
「先に寝てる。」
この状況でダブルベッドですやすや一緒に寝れるわけがないじゃないか。先にじゃねぇよ!
母に泣きながら電話で離婚を伝え、その日は一睡もできずに朝までずっとソファーでうずくまっていた。
暗い天井を見ながら考える。
あぁ、、なにもかも最初から間違えていたのだろう。バチがあたったのだ。
だって私は3年前のあの日から何も成長していないじゃないか。
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