第37話 こんなの聞いていない。
「あ、そういえば!」
と、グリア先生は思い出す様に再び口を開いた。
「中級魔術師になったら、行事も増えますが、『魔法』に加えて『体術』『剣術』が加わります。これは魔法だけではなく、体術や剣術を魔法に交えることでさらなる飛躍を目刺すためです。この体術、剣術が加わることによって中級魔法しか使えない貴方たちでも対人戦や魔獣に対抗することが出来ます」
体術、剣術。
その二つの単語に異常に反応したものが一人。
「にへ」
前に向いていた顔を、満面の笑みでこちらに向けるミディア。
「ねぇ、聞いた? 体術だって? 剣術だって? 楽しみだねぇ?」
ひたすらニコニコしながらこちらに顔を寄せてくる。これは荒れなのか。俺が初級魔術師の時に魔法の授業の時に何もしなかったくせに、自分には勉強しろと言った俺への復讐なのか!?
思うところがありすぎるっ!!
「……その時は……お手柔らかにお願いします……ミディアさん」
「ふふ」
前から配られる体術・剣術の本を後ろに回すためにミディアは前を向いたが、その表情の笑みが消えることはなかった。
※
ばちぃぃぃぃぃぃんっっ!!! 張り裂けるような打音が辺りに轟く。まさに一年分の怨念が入りまくった一撃。
「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「何よそのくらいで。別にそこそこくらいしか力入れてないよ?」
「いや、倒れてる奴に容赦なく打ち込むなよ!? てか、自分のそこそこくらい理解しとけよ!? ミディアは他の人よりも力が強すぎるんだから!!」
「え? なに? レディに向かって力が強いとか。え? もしかして、もう一回行っときたい?」
「い、いえ、俺が悪かったです」
「それでよし」
ふふんっ、と鼻を鳴らしさぞかし満足そうなミディア。少し離れた場所に体操座りをしているジャスミンにヘルプの意味も込めて目線を送るが……しれっと目を逸らされた。
「ほら! 男ならもう立ち上がって! まだやるよ!!」
「いや普通に無理なんだけどぉぉぉ!?」
と、叫んだ時に通りかかった剣術の先生。もう助けてくれる人はあなたしかいません。
「せっ、先生!!! 僕を助けてください!!」
少し年を食って、無精ひげを生やしたおじさん。この人は国でも有名な剣士さんらしい。
「……俺は力が均等になるくらいで組めと言った。こうなったのはお前の責任だ」
つめてぇ。で、でもこれならっ!
「じゃ、じゃあ! 魔法を使ってもいいですか!? 結局は魔法と一緒に使うじゃないですか!!」
「ちょ、ちょっと! それはずるいじゃないっ!!」
「いいわけないだろう。これは『剣術』の授業だ。魔法は魔法の授業でやれ」
「なっ……」
「へっへっへぇ! なーに魔法を使おうとしてたのかな? エーイードー???」
「ひぃっ」
鬼神めいた圧すら感じさせながらこちらに一歩、また一歩と近づいてくるミディア。これはもうだめだ。と、そう思った時。
「だが、お嬢ちゃん。えーと、名前は、ミディア・ルイフェンか。嬢ちゃんは筋がいい。将来は良い魔剣士になる」
「え?」
その鬼神の歩みを止めたのは、非道なおじさんかと思っていた先生だった。
「俺と少し打ち合ってみるか?」
「え……いいん、ですか」
「おう。こい」
無精ひげのおじさんは腰に携えていた叩かれてもあまり痛くない(ハズ)の模擬刀を取り出す。
「…………はい」
すぅ、とこちらに聞こえるほどの深呼吸をするミディア。目を見開いたその深緑の瞳は、いつになくキラついていた。
※
「……大丈夫か? ミディア」
「いたた……」
それは一瞬の出来事だった。
ミディアが一息吸った後、倒れるように身を落とし、地面をけり上げた。そして、一瞬の隙もない刺突が無精ひげのおじさんを狙う。
そして喉元に突き刺さる寸前。その一瞬、おじさんの模擬刀が切っ先を弾き、そのまま半円を描いてミディアの腹部を弾いた。
たった一瞬。されど、互いの技術が凝り詰まっている一瞬でもあった。少なくとも俺にはそう見えた。
「やるじゃないか。君は……ミディアの嬢ちゃんはもっとすごくなるさ」
「……でも、負けた」
「はっ、当たり前だろ。なんてったって俺は曲がりなりにもこの国に使える魔法騎士。今は教師をやってるが、いざとなれば戦地へすぐに赴くさ」
「…………」
「まぁ、良かったと思うぞ。一瞬であの判断が出来るその直感力。そして、それを寸分の狂い無く行動できるその恵まれた体。頑張ればいつか俺にも勝てる日が来るかもなっ」
そう言い残して去ってゆくおじさん。褒められたんだ、少しは暗い顔もマシになっているのかと思い、ミディアの顔を覗くと、先ほどよりも険しい表情。
色々な感情が混じり混ざって、なんとも言えない、とても強い感情を生み出していた。
神の使いは目立たず平穏な学園生活を送りたい。~神に最強を約束されているハズなのに、変人たちに囲まれるせいで理想の学園生活を送れないんですが?~ 和橋 @WabashiAsei
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