第二章 中級魔術師編

第36話 終わりと始まり。



 初級魔術師としての最後の授業。


「はい、それでは皆さん全員無事合格できたということで、これからも頑張りましょう!」


「「「はーい!」」」


 一年前を思い出させるような、元気な挨拶。今だけかもしれないが、それでも元気なことには変わりない。


「あ、それと、中級魔術師になったら教室も変わるのでそこは注意していてくださいねー!」


「「「はーい」」」


「あ、それと担任も私なので覚悟しておいてくださいねー」


「「「……は、はーい」」」


「それでは授業を終わります。起立」


 礼を済ませ、最後の授業が終わった。それと、授業中、やけにグリア先生がこっちを見ていた気がするが……気のせいだと思っておこう。





 太陽は己の姿を隠し、地上に夜をもたらす。


 そしてその闇夜の元に、俺たち三人は寒さに凍えながら立っていた。


「え、えぇぇぇと………第4棟は……」


 初級魔術師を卒業したことで、初級魔術師たちが住まう第三寮群を追い出され、代わりに第二寮群、中級魔術師になった者たちが住まう場所にお引越しをしているのだ。


「あ、あれだ。あそこ」


 俺が指をさすと、その通りだったようでミディアとジャスミンはその建物に向かって走りだす。それに続いて俺も走り出した。




「ふぅ」


 暖かい。暖房も効いていて、外とは異なる世界なのではないかと疑ってしまうほどだった。しかし。


「なんで自分の部屋みたいにくつろいでるの? 二人とも」


「え、別に。体感暖房の効きこっちのがいいし」


「あぁ、私は……自分の部屋は少し遠くなってしまいましたし、せっかく皆さんで集まっているので」


「暖房の効きもくそもないだろ。それに遠くなったって言っても、俺の隣のミディアの部屋の隣になっただけじゃないですか。徒歩二秒ですよ?」


「その二秒すら惜しいです……えぇ」


「ジャスミンさん、なんかミディアに影響されましたね……この一年で……」


「?」


「え? ミディアがなにー?」


 ひょこんと首をかしげるジャスミンと、ぼーっとしていたところに名前を呼ばれて意識を取り戻したミディア。


 いつも夜には三人集まるんだから、数少ない一人の時間も欲しいです……。


 そう思いながらも、どこかこの三人の空間が心地よく感じる俺だった。





 朝、新しい教室。新しいクラスメイト……でなく大体が初級魔術師の教室にいた時の面子だ。少し知らない顔もあったけど、きっと高級魔術師に上がれなかった人たちなのだろう。


 朝のホームルームまで、残り数分に迫っていた時。


「ごはぁっ……教室間違えそうになった……あぶないあぶない」


 と、勢いよく扉を開けるキモデ……ふくよかな男性。中級魔術師は基本、俺たちの年齢くらいの人たちや、年長でも12~15歳ほどなのだが。


 明らかに成人を超えているだろうその姿。こんな人もいるのか……高級魔術師に上がれなかった人の末路なのだろうか。


 こうはなりたくないな、なんて思いながら目を逸らす。


 目を逸らした先のミディアとジャスミンはそれぞれ教科書と睨めっこしており、ミディアも吐き気を催すことなくしっかりと向き合っている。


 すごい成長だよなぁ。なんて思いながら俺も形式上だけ教科書を開いて読む。相変わらず何を書いているのか全くわからない。


 なんとなく勘で俺は魔法を使えるけど、この本を理解できないことと関係あるのだろうか……。それとも単純に俺の理解力がミディア以下なのか。いや、ないない。


 なんてことを考えているとグリア先生が教室に入ってきた。それと同時に先ほどのふくよかな男が二つ前の席に座っているのが見えた。だから何だという話なのだが。


「はい、じゃあ今日も頑張っていきましょう……と言う前に、先生のことを知らない人もいるかもしれないので改めて自己紹介をしておきます。私の名前はグリア・ボルキィ。前年度は初級魔術の講師をしていました。大半が私のことを知っているでしょうが、高級魔術師に昇格できなかった方々も、今年は昇格できるように頑張りましょう」


「「「はい」」」


 やはり中級魔術師、どこか落ち着いた気が、というか、初級魔術師から中級魔術師に上がった面子が元から中級魔術師だった人たちの圧というか、これが習わしなんだ的な雰囲気出されて挨拶されたらこうなるのも仕方がないよね。


「はい、早速授業に入りたいところなんですけど、その前にまずは今年の行事などについて簡単に説明します。初級魔術師の時にはあまり行事などはなかったですが、中級魔術師に上がると圧倒的に行事が増えます。中級魔術師からは対人戦や、『魔窟の森』にもぐって、魔獣を倒す実戦授業があったりと、様々な場面で実践的に魔法を使うことになります。なので、常日頃自分の体調をしっかりと管理すること! いいですかー?」


「「「はい」」」


 やはり幼児らしい返事は姿を消し、単調な挨拶になっていた。



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