祈りによって復活する神って光景は良いんだけど、やってるのが悪魔だから邪教みたいに見えるかもしれん


私が不死の甘露アムリタ・ソーマによってなんかぬるっと不死に至った日から10日後。そしてこのト型世界にやって来てから245日目。私はこの日、元の世界に帰る事にした。


理由は単純。既に信仰エネルギーの扱いに最低限成熟したからだ。毎日毎日超小型のダンジョンを生成しては破壊したり、信仰エネルギーを爆発的に生成させるような生配信を何度かしたりしていたからな。最低でもト型世界に無理矢理引き寄せられる事を防ぐくらいなら出来る。


ただ、私が無断でこの世界から居なくなると絶対に面倒事になるのが目に見えていたので、生放送を通じて国民全員に帰る事は伝えておいた。まぁめっちゃ行かないでってコメントされたし信仰エネルギーに込められた願いも帰らないでって訴えてきたけど、これでも私は女神としての振る舞いにちょっと慣れてきたのだ。この程度簡単………には行かなかったけど、とりあえずなんとかした。


具体的には、私が死んだら割れるようにした水晶玉を私の宮殿に置いておくから、それが割れたら私の復活を祈れって言っておいた。それだけ?って思われるかもしれないけど、これは私がもう既に不死の甘露アムリタ・ソーマで不死になっているから取れる方法だ。


簡単な工程としては、まず私が死ぬ、すると連動して水晶玉が割れ、その後に信者達が祈る。それにより私が復活する………ように見せる。実際は不死の甘露アムリタ・ソーマによる不死だとしても、信者達はそんなモノを知らない。ただ信者達が、自分達の祈りが女神を復活させたのだと、本気でそう見えれば良い。


え?それで信者達が納得したのかって?いや全然?だから、この仕組みが必要な理由だけ話したよ。私は元々異世界を巡るのが趣味だから辞めないし止めても無駄だよ、けどそれだけだと心配するのも分かるからいざって時は君らに任せるからねって、まぁそれだけ。でもそれだけでうちの子達は任せてくれって意気込んじゃう子達だからねぇ。これくらいの扇動はやりやすかったぜ。


ちなみに言っておくと、信者達が私の復活を祈ったらマジで復活するからね?そりゃ信仰エネルギーが私の復活に必要な分に到達するまで祈り続ける必要はあるけれど、逆に必要な分に到達するまで祈り続けてさえくれれば、不死の甘露アムリタ・ソーマなんか無くても普通に復活するんだよ。何なら私が不死を得る為に本来やろうとしてたのこっちだからね?不死の甘露アムリタ・ソーマは完全にぽっと出だよ。


まぁ既にもうなってるし別にわざわざ不死になる必要は無いけど、やらない理由も無いので、折角だから企みだけは残しておく事にしたのである。いざって時の準備にもなるし。


「女神様、本当に帰宅なされるのですね………」


「そうよイレーナ。元々わたくしは異世界人。むしろこの世界に居る方がおかしいんですのよ」


「いえ………はい。私達は常にこの宮殿を維持し続けております」


「ふふ、良い子良い子」


凄く悲しそうな顔のイレーナの頭を撫でる。一応、何かあったらスマモで連絡する機能を付けておいたから、私に来客があったら教えてくれるようにはしてあるけど………まぁ、この子が納得できる訳もないよね。多分、イレーナとはこの世界で1番仲良くなった気がするもの。心境的には仲良くなった友達と引っ越しで離れ離れになる感じなんだろう。そりゃこんなに寂しそうな顔をする訳だ。


「………安心して、イレーナ。貴女が何処に居ようと、わたくしは常に貴女を見守ってるわ」


「女神様………いえ、プロテア様………!私は………貴女と知り合い、こうして………仲良くなれて、とても………とても、嬉しかったです」


わたくしも、貴女が友達になってくれて………えぇ、とっても嬉しかったわ」


イレーナも私も、別に泣いてる訳じゃない。けれど、少しばかり悲しい気持ち。新しく出来た友人と離れるというのは、ちょっと………うん、ちょっと悲しいかも。いつでも会えるって言ったってね。


………でもまぁ、最後に特大の爆弾を落としていこうかな。


「ねぇ、イレーナ?」


「………何でしょうか」


「実は、貴女達の死後だけはわたくしが勝手に決めさせて貰っているの。許してね」


「それは………どういう?」


さっきまでシリアスみたいだった雰囲気がちょっと弛緩した。ふふ、急に言われるとびっくりするよね。分かる。イレーナがすっごい固まってるのがちょっと面白い。


「メイド隊の全員には、その死後もわたくしに仕えて貰うんですの。『奉仕の悪魔』っていう名前付きの悪魔にするんですのよ?光栄でしょう?貴女達は死後もわたくしに仕えるメイドなの。嫌なら言ってね」


「すみません、情報が多過ぎて混乱してるので少し待ってください」


「良いわ、待ってあげる」


私がそう言うと、イレーナはうーんうーんと唸り出した。まぁ唐突に言われたらあんなんになるよね。もう既にメイド達何人かにやったので、もう慣れた。


「………色々と聞きたい事はあるんですが………つまり、私達の将来は確定していると………?」


「一応、承諾した人だけにするつもりよ?」


まぁ今の所誰も拒否してこなかったけど。


「………そんなの、承諾するに決まってるじゃないですか。私は貴女の、女神様の忠実なメイドなのですから」


「ふふ。それじゃあ、いつか沢山働いて貰うわよ?」


私は200日以上をメイド達と共に過ごして、このまま手放すのが惜しいくらいには仲良くなった。権能を封印した状態で何度も遊んだり、アスレチッククリアのお願いで色々としたり、とても楽しい日々だったのだ。だから、私は君らを特別だと思った。特別だと思ったから、ネームドの悪魔候補として確保しておくのである。ちなみに分類としては逸話悪魔だ。まぁ、『女神に仕えたメイドの集団』っていう逸話を元に存在を構築するのでね。


「でも、死ぬまではちゃんと生きること。それだけは約束して欲しいんですの。今すぐ死にますとかやめてくださいましね?」


実際1人目がそんな感じだった。そうじゃないんだよそうじゃ。


「いえ、それくらいは分かってます。多分それ言ったのあの子ですよね………」


はい、メイド隊の中で1番おっちょこちょいで思い込みも激しめな、メイド隊の中で1番新人のあの子です。いやまぁ仕事は出来るんだけどね?


「………ちなみに、具体的にはいつ帰宅なさるのですか?」


「明日の朝にしようと思っているわ。帰って無事を伝えて、色々やってから………まぁ、多分早めに戻ってくると思うわ」


実際、この世界での生活はとても居心地が良かった。私に対するお世話が過剰だったりもしなかったから、そこそこ安心出来たし。ちなみに100%安心出来なかったのはメイド達の奇行が理由である。あれ普通に怖いんだよ。いかにも自分常識人ですよって顔を目の前でしてるイレーナもやるから。多少は慣れたけど、怖い事に変わりないんだよね。


「明日、ですか………早いですね」


「まぁ、今日はまだ居ますわ。そんな寂しそうな顔をする前に、存分に話しましょう?」


「………はい。そうですね、プロテア様」


この日は夜遅くまでイレーナとだけでなく、メイド達全員と色んな話をした。主な議題は私の元の世界の話だったのだが、どっかから話が逸れて私がこれまで訪れたことのある異世界の話になったりしたが、まぁ楽しかったのでOKだな!






次の日の朝。私は宮殿に居るメイド達全員に見送られ、元の世界へ帰宅した。メイドの中でも感情が表に出やすい子達は私が居なくなるまで泣くのを我慢しようとしていたのだが、私がまたねって言った瞬間にポロポロと泣き始めてしまい、それに釣られてそれ以外のメイド達もみーんな泣いてしまって、宥めるのにそこそこ時間を要したが、兎に角私は元の世界へ帰宅した。ついでとばかりにメイド全員の頭を撫でたので個人的には楽しかったが。


さーて、世界間の時差はちゃんと機能して他のかな、っと………あぁ、ちゃんと時差は出来てたみたいだ。ト型世界の1年が1秒って設定になってたみたいで、今は私がアリスに緊急連絡したすぐ後みたいだな。一応転移時に時差が元に戻るようにしておいたからト型世界の時間も同期し始めたと思うけど………うんうん、まだ泣き顔っぽいメイド達が観測出来るね。とりあえず時間関係は大丈夫そうだ。


異界アナザーワールド魔線・マジックライン。アリス、何とかなりましたわー」


『おわ、再連絡が早すぎます。もしや………新しい異世界に行ってましたね?』


お前は鋭過ぎ。何で分かるの??


「そうですわ。わたくしその世界で女神様として扱われましたの」


『何ですかそれ詳しく!!』


「あぁはいはい。後で落ち着いたら幾らでも話してやりますわよ」


『今すぐお願いします!!』


「いや、通話越しじゃなくて直に話した方が良いでしょう?」


『じゃあ今すぐ来てください!』


「はいはい。分かりましたから、そっち行きますから………」


この日は結局、アリスにト型世界の事を根掘り葉掘りと聞かれまくった。こういう時のアリスはマジで強引なんだよな。






元の世界に帰宅した日から3日後。私はこの日、ソフィアの自宅でソフィアと一緒にFPSゲームをしていた。


「ほう、つまりお主は異世界で女神になったという事か」


「まぁそうですわね」


「良いのぉ。妾も吸血鬼ばっかりの世界に行ったら同じ事出来るのかのぉ………」


「さぁ………難しいのではなくて?貴女は吸血鬼の権能ではなく血液の権能ですし………どちらかと言えば吸血鬼には食べられる側では?」


「そうなんじゃよなぁ。妾も歴とした吸血鬼ではあるんじゃが、歴とした吸血鬼だからこそ吸血鬼にとって最高の食糧になってしまうんじゃよなぁ………」


そうだよね。血液の権能持ちの血液とか吸血鬼にとっちゃ最高の食糧だよね。


「そもそも、吸血鬼ばかりの世界って何処にあるのかしら………?」


「悪魔ばっかりの世界があるんじゃから、多分どっかにはあるじゃろ。多分」


希望的観測過ぎるな。いやまぁどっちかと言えばありそうだけどさ。種族的にもそのくらいのポテンシャルありそうだし。


「あ、今狙撃されましたわ。北の方角、距離200mくらいですわね」


「む、あれか」


「敵影は………今の所1人しか見えませんわね。チームが壊滅でもしたのかしら?」


「しかし、居る可能性もゼロではないからのぉ。いやまぁ本来ならば全員ここから倒せば良いだけなんじゃが………」


「今は素手縛りバトロワですものねぇ」


今私がソフィアと一緒にやっているのは、銃持って戦うタイプのゲームでバトルロワイヤルをするやつの、素手縛り優勝である。初めはノーキル縛りにするとか言ってたんだが、実際にやってみてかなり運の要素が強いのでやめ、であればと素手のみで優勝を目指す事にしたのだ。


素手のみなのでゲームのメインとなる銃や投擲物などは決して持たず、何なら近接武器すら持たない。本当に素手だけだ。まぁ敵にダメージを与えない投擲物は相手に接近する為に使うが。


この縛りで重要なのは移動手段だ。何せこちらは近接攻撃しかない。遠距離から撃たれた時に反撃したいってなった場合、こちらは相手に接近しなければ攻撃する事すら不可能なのである。なので、私もソフィアも兎にも角にも車を確保する事を優先している。車がないと相手に接近出来ないからな。でも、車だと相手を轢いてしまう時があるので、運転中はずっと油断出来ない。油断すると草むらに隠れてる敵を轢くからな………


「まぁ良い。さっさと近づいて殴り殺すのじゃ」


「そうですわねぇ」


ちなみに、素手縛りだろうが何だろうが私達はほぼ負けない。接近するのが難しいだけで、接近してしまえばこちらが幾らでも戦場を支配出来るのだからな………こちとら普段から素手格闘で無双してる悪魔さんと、普段から短剣を使って無双してる吸血鬼さんだぞ?格闘戦で負けるわけがねぇ。ちなみにソフィアが普段使ってる短剣の銘はちなっちゃん。前にソフィアの脳天に突き刺さっていた短剣だ。


「む、敵影がもう一つあるみたいなじゃの。漁夫か?」


「多分漁夫ですわね。銃声に釣られたのでしょう」


「まぁよい。どちらも等しく壊滅するだけじゃ」


こういうバトルロワイヤル形式のゲームでよく居る漁夫だが、ぶっちゃけ私達はそんなに困った事がない。混戦になればなる程、私達は動きやすくなるからだ。どのようなモノであれ、注意しなければいけない物事が増える度に隙は生まれるからな。そこに付け入るだけだ。


「よし、殲滅終了じゃ。物資を漁ってさっさとずらかるとしようかの」


「こいつら支援物資を漁った帰りですわね。つよつよ武器持ってやがりますわ」


「なぬ、であれば武器を隠して捨てるしかないの」


私達は強い武器を持てないので、強い武器があった場合は死体から奪って適当な場所に捨てて隠すのが常套手段だ。相手の戦力を遠回しに低下させる訳だな。こちとら素手なんだからこのくらい許してほしい。別に武器持っちゃいけない縛りじゃないしね。私達がしてるのは素手格闘のみで敵を倒す縛りだ。


「順調じゃし、このまま優勝するのじゃ」


「あら、油断してると狙撃された死にますわよ?」


「そう簡単に死なんわい」


………ちなみに、素手縛りバトロワの最終戦歴は13勝5敗にだった。5回の敗北は身を焼くほどに悔しいが、ぶっちゃけ最終的に勝利回数が大きければ良いやって感じだったのでそこまででもなかった。まる。

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ちょっぴり不幸な私の生活 飛鳥文化アタッカー @asukabunka0927K

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