自キャラの強化ってどんなゲームでも楽しくなるでしょ?
ダンジョンの初入場者が現れてから5日後。ダンジョンのシステムは今日まで特にこれと言ってエラーは吐いていない。自動蘇生がされなかったとかも起きていないし、強力な魔物が明らかに別の階層に現れるなども起こっていない。順調である。
それと、この前メイド達に渡したあのダンジョン内部の様子を遠隔で確認できるスマホみたいなやつ。宮殿外部の人にも是非欲しいと3日前に訪問された人に言われたので、ならばと自動生産設備を宮殿裏のアトラクションが無い場所に設置しておいたんだよ。
中で溜まった遠隔視聴機材、正式名称『遠隔視聴スマートモニター』、略して"スマモ"を回収するだけで国民に行き渡るだろう。製造機に画面サイズを指定すれば掌くらいのサイズから映画館スクリーンくらいのサイズまで画面の大きさが自在なので、上手く使ってほしい。
宮殿内のメイド達もダンジョン探索の様子を見るのにそこそこハマっているらしく、休憩時間などに見ている姿をちらほらと見かける。中には私と一緒に見ようとしてくるのもいて、更に私としても断る理由がないので、メイドと一緒に見るというのもある。まぁそうなると必然的に私も私もとメイドが全員集まってきて結局全員一緒に見る事になるんだが。
ちなみにその場合の1人目、つまり最初に一緒に見ましょうと話しかけてくるのはほぼイレーナである。イレーナは基本的に私付きのメイドだからか、女神モードの私にもそこそこ仲良く接してくれるんだよな。個人的にはもっと話しかけて来てくれても構わないんだが、女神モードの時はそういうの畏れ多くて難しいらしい。悪魔の権能を一時封印してる最中なら普通に行けるらしいんだが。やっぱりこういう些細な部分から権能の凄さって実感するねぇ。
「やっぱり本能で分かるものなのかしら………?」
あぁそうそう。これは本当にダンジョンとは全く関係無いんだけど、実は最近新しい未来観測方法を考案してさ。既に実際に利用もしてるんだよ。これまでとは違う画期的な方法だから多方面に使い勝手が良いかは分からないけど、とりあえず使い道はあるんだよね。
まず先に言っておくと………これまでの私が出来る未来の観測で見える光景は、必ず写真のような一場面のみだった。しかも、観測した光景が今からどれくらい先の光景なのかが完全ランダムである。観測した光景は今から1秒先かもしれないし、100年先かもしれない。
フィクションで良くある凄い予知能力者みたいな事は出来ないが、これはこれで一場面さえ見えれば良い、例えば株取引のチャートなどを閲覧するとかなら充分に使えるモノなので、とても重宝している。まぁ時と場合によっては未来が変わる事も相応にあるので、絶対とはいかないが。
それが、観測の方法を変える事で、更に精度の高い未来の観測が出来るようになったのだ。具体的な方法としては、未来を観測する前に過去を観測するという手法だ。理屈としては単純。どんなものであれ、未来は過去が作るものなのだ。過去現在未来という三つの概念は全て同じ流れの一部を切り取ったモノだからな。
川で例えたら分かりやすいだろう。川の上流が過去。川の下流が未来。今居る場所が現在。私はこれまで、未来を見るために下流ばかりを見ていた。ずーっと下流の方を見つめて、上流から何が流れて来ても疑問には思わなかった。けれど、考えてみれば当たり前の話なのだが、下流に流れる物は全て上流から流れてくる物だ。そりゃあ下流の外から物が入る事だってあるだろうが、言いたいのはそうじゃあない。
この世の全ては過去から作られる。どんなに荒唐無稽な事であろうと、そこに辿り着く為の過程がある。なら、結果ばかりを見据えていては未来なんて正しく見える訳がない。必要なのは過去という経験の情報。過去を知るから今を知り、未来をも知ることが出来る。
人間とは過去の積み重ねによって繁栄した種族だ。言語という過去の痕跡を未来へ残す事が出来る手法があったから、今日まで文明が続いている。深く考えなくても当然の事だ。だからそれを未来の観測を行う際の理屈として組み込めば、当然のように未来視の精度は跳ね上がった。過去も含めてしっかり見る分、遠い未来は見えなくなったが。
結果として、私は未来視が出来るようになった。これまでのような写真ではなく、非常に鮮明な映像として。けれど、見えるのは精々今から5秒先くらいまで。しかし、それだけ見えれば正直何も困らなかった。
主に活躍したのは戦闘だ。何せ、戦闘中の5秒というのは金にも等しい。未来視で見える光景を右目に、今を見据える光景を左目にして行った戦闘は、何と言っても効率が段違いだった。何せ常に5秒も先が見えている。相手がどんな風に攻撃し防御するのか、そもそも戦闘を行うのかそれとも逃げるのか………ありとあらゆる全てが5秒も早く確認出来る。徐々に上昇している身体能力と組み合わせれば、どんな場面が見えようとも対応は容易だった。
正直、私が権能の使い手でなければ情報過多で使いこなせもしなかったと思う。だって、常に未来の光景と今の光景がダブって見えるんだぜ?普通に考えて上手く目の前が見えるとは思えない。けれど、私は権能の使い手。常日頃から世界一つ分の情報量が頭の中を駆け巡っている私にとって、たかが目の前ほんの少しの光景の未来が見えるからと言われてもねぇ。マジで余裕過ぎ。権能使いなら誰でも出来るだろこんなん。
まぁ戦闘以外だと視界が二つあるのは普通に煩わしいので、未来視は普段オフにしている。やろうと思えば右目でも左目でも自由に未来視が使えるが、基本的には右目で未来視を使いがちだ。理由は特にない。強いて言うなら右目の方が利き目だからかな?
どうしてこんなの唐突に思い付いたの?とか言われたら、多分小説読んでたからだと思うな。ちょうど作中人物が未来視使ってたからさ、もしかしたら私も出来ないかなーって。まぁこれ自作の演算ラインだから本当に正しのかは知らないけれど。ちなみに途中で使った時間と川の例えも物語由来の考え方だ。初めて見た時確かにって思ったんだよね。
「未来視………ふふ、こういうのってなんかチート能力者みたいで楽しいですわね………」
何故かちょっと楽しくなってきた私は、唐突に右目で未来視を発動する。まぁ未来視と言っても実際に眼球をそうして改造した訳ではなく、実際はうちの子達が行った観測結果を右目の虹彩の内部に映しているだけだ。だから右目でも左目でも好きな方で未来視が使えるのである。
なので、やろうと思えば他人に未来視の能力を与える事も可能だ。まぁ、そこら辺の一般人に与えた所で二つに重なった視界とかそう簡単に処理し切れる訳ないから、与える意味はあんまり無いけど。強いてやるなら先に情報処理速度をうちの子経由で底上げしてとかじゃないとダメかもね。
魔法とかで思考能力を底上げしてもいいけど、多分本格的にやるってなったら、うちのラプラス(精神だけ)を相手の脳内にぶちこんで補助脳みたいな事すればいけそう。ラプラスは元が数式だからか演算処理とか得意だし、未来視で情報を受け取った後で行う情報の取捨選択をラプラスに半自動化させれば上手い感じになりそうでは?
「ふふ………こういうのって考えるだけで楽しいですわよねぇ………」
時間で思い出したが、イロ型世界には時間停止が可能な時間属性の魔法がある。多分今の私なら時間属性が扱えそうな気がするので、今度時間停止を試してみてもいいかもしれない。どうせなら世界全域の時間を停止するのも面白そうだ。
一応、時間停止を川で例えるなら………そうだなぁ、流れる川を強制的に凍らせるようなものだろう。川の中に居る存在は川の凍結と共に身動きが取れなくなり、過去も今も未来も等しく凍りつく。一応川が凍っても上流は上流だし下流は下流なので未来視は普通に使えるけど、そもそも時間停止中に動ける奴があんまり居ないって言うね。とりあえず私は自由に動ける。というか権能使いならみんな動けると思う。多分。
まぁ、私達権能使いに時間停止が効かない理屈は一応あるっちゃある、と思う。言葉として表現するのは難しいが………そうだなぁ。簡単に言うと、私達には常に自分の世界がある。今居る世界の時間が止まっても、私達の世界の時間は止まらない。私達の世界の時間の流れは私が決める。だから、誰かに勝手に止められる事は決してない。
例えるなら、時間の流れという川の中に私達は初めから居ないんだろう。居るのは多分川の上だ。常に水の上に立っているから、川が凍っても自由に動ける。直接凍っている訳ではないから、川の様子に左右されない。けれど川の流れに沿って自分達も動くので、周囲の時間に置いてけぼりにもされない。権能使いというのは多かれ少なかれそういうもんなのである。
まぁそもそも時間停止してくる相手なんてほぼ皆無なのでだからなんだって話ではあるんだが、してくる相手はしてくる。例えば魔法少女タイムキーパーとか。まぁ魔力消費削減能力に特化し過ぎているタイムキーパーでも時間停止の魔力消費はそこそこ重いのであまり連発されたりはしないし、時間停止し続ける時間も数分程度が限度らしいが、そうだとしても超広範囲時間停止は相当無法だ。
模擬戦でも割と使用されて困る。いや私は普通に動けるから問題ないのだが、私以外のうちの子は大抵時間停止に対して耐性を持たない。だって、うちの子は権能による産物であって権能使いじゃないからな。冥府神の悪魔やら修羅の悪魔辺りは時間停止中でも動けるだろうが、そうじゃない子達に時間停止を防ぐ手段はない。
なので、模擬戦中にうちの子達の動きを完全に停止する目的でタイムキーパーはよく時間停止を行なってくる。タイムキーパーとの個人戦闘中ならそれもあまり気にならないのだが、超人部隊の5人を相手にしている最中だと普通に不利になる。だってタイムキーパー、味方とそれに付随する装備などの時間は止めずに時間停止してくるからな。こっちがうちの子達の数の暴力で連携を崩そうとしてるってのに、それをガン無視して連携力を押し付けてくるからなぁ。それだけでシンプルに強い。
うちの子達もずーっと連携能力を鍛えているから、連携能力で劣ってる訳じゃないんだけどねぇ。でも残念ながら、うちの子達の連携は基本的に100とか200とかの数での連携ばっかり鍛えてるんだよね。そりゃうちの子達は独自のネットワークで繋がってるから普通の大規模連携よりも連携速度は桁違いだけれども、それでも極まった少人数の連携相手だと基本的な行動速度で負けてるんだよねぇ。
何十回もやってるから、少数且つ連携が非常に上手い相手の練度は段々上がってるけどね。いつか絶対うちの子達だけでも勝ってみせる。まぁ普段うちの子達を封じられたら普通に私が出てって戦って勝つから負けた事は無いんだけど。
「女神様、飲み物は必要ですか?」
「紅茶………いえ、コップだけくださる?自分で入れますわ」
「了解致しました」
そういやこの前気になって調べた時に知ったのだが、"了解致しました"って日本語だと目下の人に使うやつらしいね。いやまぁ、自動翻訳は基本的に私が聞きやすい感じに変換してくれてるからこんな風になってるだけで、翻訳切ってちゃんとこっちの言語で聞けばめっちゃ敬ってる感じみたいだけど。
まぁ意味的にはそんなに違いとかないし。それに私も気にしてない。だって私が聞きやすいように翻訳してるの私だしね。嫌なら自分で翻訳内容くらい変えてるよ。してないって事は気にもしてないって事だ。だって言葉以上にこの子達は態度で私を心底敬愛し信仰しているのが分かるんだもの。翻訳後の言葉くらい気にする必要など無い。
というか、自分から服を脱いで家具に成り切ろうとするこの子達の狂信具合を見て私は信仰されてないなぁ〜とか思う訳なくない?もし信仰されてもないのにそんな事されたらそれは普通にドン引きするよ。まぁ信仰されてようがなかろうが普通に怖いけど。
「女神様、こちらコップで御座います」
「えぇ、ありがとうイレーナ」
私はイレーナから受け取ったガラス製の繊細な模様の刻まれたコップを手に取り、
………牛乳に関連してる事なら大体何でも出来る牛乳魔法って、半ば権能の領域だよね。まぁ権能みたいに世界の掌握とかそういうのは出来ないけれど、最終的な性能としては牛乳に関する事ならほぼ全能に近いし。牛乳は作れるし乳製品も作れる。牛乳に関する逸話や噂を元に呪いなら何やらを使う事も出来るし………うーん、改めて見ても権能っぽい感じがする。
でも別に権能じゃないんだよな。ただ単に私が牛乳好きなだけ。私に刻まれた性質はどうあれ『悪魔』と『器用』の二つなんだもの。いやまぁ権能として扱える概念ってその人物の中で最も高いモノだから、もしかしたら2番目辺りに『牛乳』の性質があるのかもしれないけど………自分の性質を詳細に確認する術は今の所ないんだよなぁ。まぁ可能性としてはあるかな?ってくらいか。
だからまぁ、やろうと思えば権能みたいに使う事も出来なくはなさそうではある。というか『牛乳』が権能として使えるなら、多分私簡単に不死になれるんですけど………?
「………いや、試してみる価値はありますわね………」
そう、そうだ。己の扱える権能の概念を増やすという行為は、試してみる価値がある。考えてみれば、大抵、神は複数の権能を持つのが割と多数だった。日本の神はそうでもないが、日本以外の一神教ではない神は大抵複数の概念を司っている。うちの子で言うなら冥府神の悪魔などが該当するだろう。
私は、神が複数の概念を司っているのは当たり前だと思っていた。神なのだから、人間とは違うのだから、それは当たり前なのだと。しかしそれが違うとしたら?初めにあった概念とはまた別の概念があるのだとしたら?
方法は幾つかあるだろう。というか、私が信仰エネルギーを使って無からダンジョンを作れたりしているのは、今思えば明らかに後付けの権能にも等しい行為だ。だって私、多分やろうと思えばどんな迷宮でも作れるんだぜ?超小型のダンジョンだって普通に内装変えられるし、もう既に何度も変えてるし………なんかそれって、かなり権能に近くない?
でも権能かって言われたら、多分権能じゃない。迷宮作れるし改造できるし破壊もできるけど、出来ない事もちゃんとある。権能って言うのは限られた範囲の全知全能なのだから、出来ない事があるのは権能とは呼べないだろう?でも結果として、権能にも等しい力は扱えている。だからそうだな………まぁ、名称としては『準権能』とかになるだろうな。
準権能………うん、かなりしっくり来た。やはり言語化は大事だな。するとしないとで理屈の理解度が違う。別にサブ権能とかでも良いけど、こういうのは私がしっくり来る事が大事だ。サブ権能とかだとじゃあ普通の権能の方をメイン権能って呼ばないと分からないしーとかになる。まぁこの辺りは割とニュアンスとかの感性頼りだ。特に気にする事は無い。ふむ………となると、後は私の準権能には何があるのか、だろうか。
『牛乳』は準権能だろう。今でもかなり権能に近い運用が出来ているのだから、むしろ枠の中に入れない方がおかしい。何より、準であっても"権能"なら、私の望む不死も普通に解決しそうなんだよね。あれだ、これまで私は『牛乳』って概念は"固有魔法"って認識だった。そうなると無理かなーって思うんだけど、それが今"権能に準ずるモノ"って認識になった。そうなると、まぁ出来そうだなーって思えてくる。
「………
話を戻すが、この魔法によって生成された液体は、飲むだけで完璧な不死性を獲得する事が出来る。肉体、精神、魂魄、存在、概念………何を抹消されようと、何を無かったことにされようと、必ず蘇生するのである。再生能力ではないので完璧に蘇生するには一度死なねばならないが、逆に蘇生できれば完璧に元通りになる。
ただし、通常獲得するのは不死だけであり、不老は獲得出来ない。これは機能を不死のみに限定する事で性能を向上させる狙いがあるだけで、コストをガン無視すれば不老不死の霊薬にも出来るが、それをすると魔力の消費が非常に激しい所ではなく、多分人類では一生かけて貯めても足りない程の魔力を消費するので、ちょっと………魔法にするにはねぇ。使えないにも程がある。不老の方は自力でなんとかしてくれ。
この魔法の元になった逸話はアムリタやソーマなどの、世界各地に存在している不死や不老に至る薬や液体である。アムリタは乳海攪拌で乳と使われているし、ソーマは材料に牛乳を使用するという眉唾がある。引用元が少々曖昧だが、別にこのくらいのこじつけならネームド悪魔の創造時に良くやっているので問題は無い。人によってはかなりの拡大解釈かもしれないけれど、権能なんて元からそんなもんだ。私が出来ると思えば出来るし、出来ないと思えば出来ないのである。
「ん………甘っ、甘過ぎですわねこれ………」
生成した
「もっと味を改良した方が良いかしら………?」
でもなぁ。今私しれっと不死になったけど、別にこれって味を改良する必要とか無いよね?だってこれもう飲まないもん。いやまぁ他の人に飲ませる機会はあるかもしれないけど、その時も甘さ我慢して貰うだけでいいじゃんね。つーか私が甘さ我慢して不死になったのに私以降の奴はみーんな味が改良されたのを飲むのが許せん。くそ、マジで甘いな………牛乳牛乳………
「んく、んー………まぁ良いですわ。他は………」
この日の私は、寝るまでずーっと自分の準権能が何かを探していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます