41話:引っ越してきたお隣さん
「夜分遅くにすみません。この度お隣に引っ越してきました、エリナ・フランシスです。よろしくお願いします。こちらは粗品になります」
「え、あ、はい。朝桐です。こちらこそよろしくお願いします」
とりあえず挨拶をした俺の後ろから、陽菜とアウラが顔を出す。
「お兄ちゃん、その方は? すっごい美人さんだけど……?」
「ああ。隣に引っ越してきたエレナ・フランシスさんだ」
「エレナ・フランシスです。勇夜さんとは同じ学校で、同じくクラスで、隣の席です」
「と、隣の席? もしかしてお兄ちゃんが言っていた転校生って……」
「フランシスさんのことだな。それよりも自己紹介くらいしろ。失礼だろ?」
俺に言われて陽菜とアウラは自己紹介をする。
「妹の朝桐陽菜です。フランシスさん、よろしくお願いします」
「私はアウローラ・グラナティス。陽菜とは同じ学校で、留学生よ」
「陽菜さん、アウローラさん。よろしくお願いします。ところでご両親は?」
エレナの質問に、俺は「数年前に事故で亡くなっている」と返した。
聞かない方が良かったと思ったのか、エレナは頭を下げて謝罪した。
「すみません」
「気にしないでくれ。今日はもう遅い。また学校で」
「はい。それでは、おやすみなさい」
「おやすみ」
エレナは隣の家へと帰って行った。
リビングに戻った俺たちは、お茶を飲む。
「いや~、まさかお隣だとは思わなかった」
「お兄ちゃん、本当に何も知らなかったの?」
陽菜が俺に疑いの眼差しを向けるが、こればかりは本当に何も知らないし、聞いてもいない。
というか、一人ではないだろう。
その証拠に、エレナの他に、それなりに魔力を有している存在が二人確認できる。
「何も聞いてないよ。俺だって驚いているんだから」
「ふ~ん」
アウラが俺に視線を向けている。
魔力を感じたのだろう。その説明をしろということか。
俺が頷くと、アウラはお茶を一口飲み、パンッと手を叩いた。
「陽菜、そろそろお風呂に入るわよ」
「そうだね~」
「俺は少し外に出てくるよ」
「ん? どこか行くの?」
「いや、コンビニでも行こうかなって」
「ならアイス買ってきて~」
「私の分も頼んだわよ?」
「はいよ」
俺は家を出て、彩華に近くのコンビへと向かいながら、ポケットからスマホを取り出して操作すると、徐に電話を掛けた。
数度のコールの後、相手が電話に出た。
『こんな夜に電話ですか?』
「悪いな。学校だと難しいと思って電話させてもらった」
俺が電話をかけた相手は安倍彩華であった。
『構いませんが、もしかして、エレナ・フランシスのことですか?』
「分かっていたか。そのことで話を――……」
彩華にこれまでのことを話す。
話し終えて数分の沈黙。
『なるほど。向こうも私を警戒しているのですか……にしても勇夜くんの家のお隣だとは思いもしませんでした』
「それに関しては俺もだ。迂闊に魔法も使えない」
『気を付けてくださいね?』
「それくらい心得ている。で、エレナ以外の二人だけど、心当たりはあるか?」
俺の質問に彩華は答えた。
『同じくエクソシストですね。ですが、役目は護衛も兼ねていると思いますよ?』
「だよな~、魔力も感じたし」
『勇夜くんから見て、三人の実力は?』
「そうだな……」
俺はエレナを思い出す。
あの内の魔力はまだ一部だろう。
聖女と呼ばれているなら、あの程度ではないはずだ。
他の二人も魔力と気配からして俺の敵ではない。
「エレナは今現在分からない」
『どうして?』
「護衛だろう二人は俺の敵じゃないが、エレナは聖女と呼ばれている以上、それ相応の力を持っているはずだ」
『聖女は『聖杖』と呼ばれる変幻自在の武器を使うと聞いています。彼女は戦闘もできるようですよ?』
「本当に聖女か疑うぞ……まあいい。何か他にも分かれば連絡するよ」
『お願いします。私も放課後に二人で話した時に問い詰めたらはぐらかされまして……情報を集めておきます』
「分かった。それじゃあ」
俺が電話を切ろうとすると、待ったをかけられた。
「どうした?」
『エレナさん、可愛いですか?』
「お前もか……」
『〝も〟とは?』
「アウラと妹からも問い詰められたぞ……人にはそれぞれの可愛らしさがあるのにな」
『私もですか?』
「ん? そりゃあそうだろ? 彩華は清楚で無口そうに見えて、実は表情豊かでお喋りさんなところとかな」
『~~~~っ⁉ 勇夜くんのバカッ!』
耳元で、しかも大きな声で罵倒されたことで、耳がキーンとする。
そしてブチッと電話が切られてしまった。
「なんで怒ったんだよ……」
俺は急に罵られたことに首を傾げるのだった。
魔王を倒したら娘をよろしくと頼まれたので一緒に帰還しました〜自重は異世界に捨ててきたので妖怪や悪魔やら相手に無双します!でもこれだけは言わせてほしい、魔王の娘が可愛いすぎて困る!〜 WING/空埼 裕 @WINGZERO39
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