40話:お隣さんのようです

 昼食となり、俺と彩華はいつもの屋上へとお弁当片手にやってきていた。

 お弁当を広げ食べ始めると、彩華が言ってきた。


「放課後、彼女がここ日本に来た理由を聞くわ」

「俺は行かないけど?」

「え?」


 どうして俺が行くことになっているんだ。

 そもそも、今回の件に俺は関係ない。

 祖父母のところに行ったときにあったことは、報告はしている。


「いやいや。エレナにも俺の正体言ってないんだろ?」

「そうですが。どうしてですか?」

「関係ないからな。少しは俺の日常を返してくれ……最近疲れているんだよ」

「茨木童子を倒したと聞きました」

「ああ。あいつ、魔物を大量に放ちやがって、倒すの面倒くさかったんだからな……」

「そ、そうですか……」


 若干引き攣っていたようが、気にしない。

 俺は話を戻す。


「まあ、少しはゆっくりしたんだ」

「分かりました。エレナには勇夜くんの正体は隠しておきます」

「そうしてくれると助かるよ」


 晴れた空の下、談笑しながら食べる。

 そこで、俺は気になったことがあったので彩華に聞いてみた。

 それはヴァチカンのエクソシストが使う術についてだ。


「妖術とは似ていますが、向こうはこのような札は使いません」

「使わないということは、詠唱みたいなものか?」

「ちょっと違いますね。詠唱ではなく、祈るのです」

「祈る。そうか。神に祈って力を行使するということか」

「はい。悪魔を滅する力がある聖なる術。ヴァチカンはこれを『神聖術』と呼んでいます」

「神聖術か……」


 神聖魔法と似ている。だが、神聖術は祈るが、神聖魔法は祈らず、詠唱が必要だ。

 スキルで『詠唱破棄』も存在する。俺はこれを使うので詠唱は必要としない。


「何か唱えたりするのか?」

「祈りながら唱えるそうです」

「ほうほう。少し興味深いな」


 だが詠唱破棄ができない時点で、この世界の術は異世界の魔法の下位でしかないだろう。

 それが俺の出した答えだ。


「では――」

「関わらないからな⁉」

「あっ、はい」


 お昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り響いた。

 俺と彩華は教室に戻る。エレナは席についており、席に着いた俺を見て聞いてきた。


「安倍さんとお昼ですか?」

「そうだよ」

「へぇ~、仲がいいのですね」


 エレナは俺と彩華の関係が知りたいのだろう。


「彩華はいい友人だよ」

「そうですか。名前で呼んでいるのですか。でも、あまり彼女に関わらない方がいいと思いますよ?」


 そこで俺は探りを入れることにする。


「それはどうしてだ? 俺がどんな人と交友しようが勝手だと思うけどね。それともなんだ。関わったらマズいことでも? 例えばそうだな……妖怪退治とか、ね」

「――ッ⁉」


 俺の言葉に、エレナの表情が強張ったのが見て取れた。

 だがそこはあえて追求せず、気付かないフリをする。


「まあ、冗談だけどな」

「……へ?」

「彩華の家が今も陰陽師をしているのは知っているよ。彩華の父から聞いているからな。妖怪とかは昔の伝承だしな。神主と変わらないことをしているだけだろ。彼女とはちょっと縁があって仲良くなっただけだよ」

「そう、ですか」


 それから放課後まで、エレナが俺に話しかけることはなかった。


「それでは勇夜さん。また明日」

「おう。また」


 エレナに挨拶をした俺は、早めの帰路へと着いた。

 家に帰り、夕食の支度を済ませる。


「お兄ちゃん、ただいま~!」

「勇夜、帰ったわよ」

「二人ともお帰り。今日はカレーだぞ」

「本当⁉ 部活で疲れてお腹空いちゃったよ~」

「私もお腹空いたわ」

「早く手を洗ってこい。準備しておくから」

「は~い」

「うむ!」


 アウラと陽菜が戻ってくるまでに、食べられるように準備を済ませる。

 少しして二人が戻ってきたので、夕食を食べ始めた。

 陽菜とアウラから学校であった話などを聞きながら、俺も転校生が来た話をする。


「転校生?」

「そうそう。イタリアからだってよ」

「へぇ~。でもどうして日本に?」

「さぁ? 仕事の都合とかじゃないか? よくあることだろ」

「それもそっかー。それで、どんな人?」

「そうだな……金髪碧眼の美少女だったな」


 アウラと陽菜の目がスッと細められた。

 アウラが尋ねてくる。


「可愛かったのか?」

「え? あ、うん。さ、さすがイタリアだよな」

「勇夜。私とどっちが可愛い?」

「そうだよお兄ちゃん。私とアウラちゃんより可愛かったの⁉」


 陽菜は可愛い。それは家族として、兄としてそう思う。

 アウラも可愛い。それに、子供らしいところもあって、さらに可愛い。


「二人とも可愛いだろ? それに他人と比べるなんて失礼だ。二人にはそれぞれの河合がある」

「「………………」」


 俺がそう言うと、耳まで赤くさせて顔を俯かせてしまうのだった。

 夕食も済んでくつろいでいると、自宅のチャイムが鳴らされた。


「こんな時間に誰だ?」

「さあ? でも昨日からお隣さんに新しい人が引っ越してたから、新しいお隣さんじゃない?」

「そういえば、急いで引っ越ししてたな。もう新しい人が来たのか」


 俺は玄関に向かい、扉を開けると、そこに立っていたのは、今日転校してきたエレナであった。

 どうやら席だけではなく、家もお隣のようだった。

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