母を救え
結騎 了
#365日ショートショート 034
私は発明に人生を捧げた。タイムマシン。時を移動する装置だ。無数の回路で繋がれた椅子に座り、目的地となる時代をコンピュータに設定すると、そこへ移動することができる。ついに、これを完成させた。思えば長かった。母を交通事故で失ったあの日から、私の人生はタイムマシンの発明へ一直線だった。過去に戻り、なんとしても母を救いたい。母の葬儀の翌日から、私は一心不乱に勉強し、時間移動の理論を学ぶために世界を飛び回った。やがて自分の腰が折れ曲がり、白髪まみれになり、あの日の母よりずっと歳を取ってしまったが……。しかし、ついに報われる時がきたのだ。難航した時間移動の理論について私が採用したのは、パラレルの概念であった。つまり、私が過去に移動しようとすると、私が二人に分岐するのだ。本来の私と、パラレルの私。もしかしたら、これは厳密には、時間移動ではないのかもしれない。しかし、前方向に進む時間を振り返らせるより、道を分岐させてしまう方がよっぽど簡単だった。この理論に間違いはないはずだ。私ではない私が、きっと成し遂げてくれる。さて、その前に。老人ホームにいる母にメールでもいれておくとしよう。今晩は冷え込むらしい。暖かくして寝てもらわないと。
母を救え 結騎 了 @slinky_dog_s11
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