第10話 安里翔
気が付くと俺は破廉恥なコスプレ女と上半身裸のモヒカンのおっさんと一緒に見知らぬ村の入り口に立っていた。
「あんたいつまで私の手を握ってんのよ!」
破廉恥なコスプレ女は俺の手を振り解いた。
「おいおい今度は一体何なんだよ?見知らぬ城の中に居たかと思ったら今度は見知らぬ村かよ!お前達こんな所に俺を連れて来て何を企んでるんだ?」
「はぁ?あんた、何言ってんの、勝手に付い来ておいて!こっちは迷惑してんのよ!それよりも、あんた誰なの?セシルを何処に隠したの?」
破廉恥なコスプレ女が一息に捲し立てる様にしてペラペラ喋った。
「セシルって誰だよ!第一、俺だっていつの間にか訳の分からない所に居て困ってんだよ!お前達の方こそ責任持ってタクシーで俺を元いた学校までちゃんと送り届けろよ!」
「まぁまぁ二人共落ち着け。今は下らない言い争いをしている場合じゃないぞ。」
俺はこのおっさんの一言が気に食わなかった。
上半身裸の露出狂の癖に大人の顔をして小さな子供を窘める様な言い方が物凄く癇に障った。
「露出狂のおっさんは黙ってろ!」
「何だと!この若造が!今すぐ叩き斬ってやる!」
「もぉー!二人共止めて!兎に角、冷静になって話をしましょう。私はアリシア、そんでこっちがイワン。」
「俺は安里翔。普通の高校生だ。」
俺は二人に陽菜の事と、学校の教室に居た筈なのに気が付いたら城の中だった事を話した。
二人はセシルと言う勇者の事、魔王軍との最終決戦の最中であった事を話してくれた。
アリシアは、俺達が城から脱出出来たのは、魔法という不思議な力を使ったからだと話した。
何から何まで俺の住んでいる世界と違い肩から力が抜けた。
魔物やモンスターが蔓延る様な、そんな物騒な世界で生きて行く自信はこれっぽっちも無かった。
「分かったわ翔。あなたがセシルを消した訳じゃないのね。私達はこれからセシルを探しに行くから、ここでお別れね。」
二人はそう言って村の中に向かって歩き始めた。
こんな所で独り取り残されて、モンスターに遭遇でもしたら一瞬で殺されてしまう。
自分がムシャムシャとモンスターに食われる姿が頭に浮かび、どうしようも無く怖くなった。
「待ってくれ!こんな所に置いて行かないでくれ!荷物運びでも何でもするから一緒に連れて行ってくれ!」
二人は立ち止まり暫く話し合ってそれから数秒後、イワンがこちらを振り返りながら言った。
「いいだろう。その代わり一つ約束しろ。自分の身は自分で守る事だ。」
「あぁ・・・何でも約束する。ありがとうイワン、アリシア。本当にありがとう。」
俺はいつの間にか自分でも気付かない内に泣いてしまっていた。
さっきまで陽菜に長年の想いを伝えて幸せの絶頂に居たのに、今では見知らぬ世界でホームシックになりすすり泣きしている。
何だか自分が情けなくて惨めで世界一不幸に思えた・・・
ANOTHER WORLD STORIES 佳樹 @DiCaprio
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