40
♦
「『死骸を抱いて歩くなら、手は冷たい方がいい』」
――アジト裏の、森の中にある小川で。
ラルフは諳んずるように言って、私にその言葉を教示した。
「戦場でよく聞く諺だよ。けれど言葉ばかりが一人歩きして、誰が生み出したのか、どんな意味が込められているのかは誰も知らない……なあ、ジュリエッタ。君ならどう解釈する?」
私は、少し考えてから、感じ取ったままの意味をラルフに伝えた。
――死んでしまった人にも温もりがあったことを感じ取れるように、冷たい方がいいということではないかしら。
――銃を撃って、熱くなった手のひらのままでは……そんな当たり前のことさえ、忘れてしまいそうだから。
私がそう答えると、ラルフは驚いたように目を丸くして、
「驚いたな……そういう解釈をしたのは、僕が知る限りでは君で二人目だ」
と、どこか嬉しそうに言う。
私には、そう考える以外にないと思ったから、驚かれたのは意外なことだった。
「果たして僕は、冷たいままでいられるのか……今回ばかりは自信がないな」
薄い火を灯した煙草を指に挟んだまま、ラルフは言った。
彼自身が願う世界のことを、――御伽噺でも語り聞かせるような、優しい声で。
「君たちのような子供が……世界中の子供たちが、冷たい手で死骸や銃を持つことなんてない――血の通った温かな手のひらで、大切な人たちと手を繋いで、美しい明日を見つめているような……。
そんな世界が来ることを、僕は心の底から願っているよ」
死骸を抱いて歩くなら、手は冷たい方がいい 界達かたる @Kataru_K
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます