零と王
ロッケンローシンヂケート
第1話
この世に在るモノの全ての定義
それは生か死
青き稲妻の雷鳴聞こえる時
乱世の救世主現る
一ノ巻 出会い
冬に近づく季節 山は紅に染まる
男が一人
弓を持ち矢筒を背負い、落ち葉を踏み締め息を殺しながら静かに歩いていた。
一羽の山鳥を見つけ矢を放つと空気を切り裂く音がしたと思った瞬間。
山鳥の身体を貫き矢は仕留めた。
男は山鳥の首を半分程切ると足を持ち血を落とした。
男はもう一羽と思ったのか山の奥へ踏み行った。
暫く歩くと空を烏が鳴きながら舞っている
その下まで辿り着くと何と巨体の虎が横たわっていた。
血だらけの虎は既に力果てていた、側に三匹の産まれたばかりの仔虎。
ん?!一匹はまだ生きている。
男は一匹を抱き上げ手縫いに包み懐に大切にしまった。
男は母虎の唇を上げて確認すると
なるほどと頷いた。
男は立ち上がり来た道と逆に歩きだした。
男の名前は百地三太夫
大和の国は2つの忍派があり
伊派、甲派に分かれる。
三太夫は伊派
頭目は服部半蔵政成
甲派頭目は猿飛佐助頼長
二派は対立している訳ではない。
お互が切磋琢磨し大和ノ国を護る
言わば、良きライバルであり仲間。
三太夫は暫く歩きやがて自宅へと帰って来た。自宅の戸を軽く三回そして強く二回叩くと中からハイと返事をする声。
戸が左にずれてもう一枚左にずれた
中からは歳の頃15歳程の少女が笑顔で迎えた。
お帰りなさいトト様
少女の名前は零レイ
黒い長髪のオカッパ、黒い瞳の
美しい少女である。
三太夫の懐が少し動く
それに反応して零が口を開く
トト様、何か居る!
おーそうだ、烏に襲われていた
母親と兄弟達は死んでいたがコイツだけは何とか生きていた。
三太夫が懐から出した虎に零は
うわあ可愛い!飼うの?
そうだな、大きくなるかどうか分からないが
なんとかしよう。
三太夫から仔を受け取る零
名前つけなきゃだ。
あ?!この仔右眼怪我してる。
零、山羊の
乳を絞って来てくれないか。飲ませてみよう。
ハイ!
零は仔をだいたまま家奥の山羊の小屋へ乳を絞りに行った。
三太夫は思った
虎が何故死んだのだろう
間違いなくあれは大和虎
明日、また見に行ってこようと呟いた。
トト様
お乳持って来た。
三太夫はそこに片膝を着き座ると
零も座った。
三太夫は零の腕の手縫いに包まった仔に小指で乳を掬うと仔に舐めさせた。
すると仔は薄く右眼を開けチュウチュウと吸い出した。
今度は私が挙げる
零はまるで我が子に乳を挙げる様に仔を微笑ましく眺めていた。
三太夫も昔零の母親が娘に乳を挙げる姿に思えて顔から笑みが溢れたのだった。
ニノ巻 曲者
朝食の準備をする零
足元の藁の中には虎の仔
部屋から起きてきた三太夫は仔虎に近づくと
ほー
元気になった様だな母上
と、零を揶揄う
トト様
昨日の山鳥を煮てみた
美味そうだ
朝飯にするか
零は仔に乳を挙げながら
皆んなで朝食を食べた。
零
少し気になるから昨日の仔虎の場所へ行ってみる。夕方まで帰らなかったら…
良いな?
零は三太夫の眼を見て小さく頷いた。
さて、それでわ行って来る。
あ!トト様
名前!王ワン!
家を出る三太夫は朝靄の霞んだ青空を仰ぎ
零を振り返り笑うと駆け足で山奥へ走り出し瞬きする速さで宙に舞うと、雉の鳴き声だけが響いてもう居なくなった。
山岡へ辿り着いた三太夫は楠木から降りようとしたその時。
変だなんだか胸騒ぎが…すると。
人らしき影が約五人程、母虎を監視する様に囲み遠くから見張って居た。
三太夫は一人の男を見据えた。
こやつ大和忍ではないな
三太夫は暫く見守ると
黒覆面の男が近いて来た。
すると遠目で控えていた男たちが全員立ち上がった。
男達は大和忍派の姿形、服装も全て同じ
こやつら
俺には騙されぬぞ
三太夫が眼を凝らしていたその時
後から来た男が喋り出した。
良いか
皆の者
大和虎の大牙は皆の国では大層高く取引されている。
大牙は金にするなら千両!
ん?
仔虎が一匹足らぬ
三匹だった筈
おい、報告と違うぞ!
すると一人の男は片言な大和口を喋りだした。
首領
我らが仕留め牙を抜き気を休めていると居なくなっておりました。
何
気を抜いただと
男は手下らしき人物に一太刀を浴びせる
右耳を掠めるとハラリと頭巾ごと右の耳が根から剥がれた。
お許しを…
男は咄嗟に耳を両手で押さえるも
指の間から鮮血が噴き出した。
良いか乳飲み児が勝手に歩くとは思えぬ
二人は虎を解体
後はしらみ潰しに探せ!
はっ!
男達は急ぎ散って行った。
三太夫はこれを見据え
身体を翻し豹の走る速さで木々を移り伊派頭目 服部半蔵政成の元へと急いだのだった。
三ノ巻 伊派服部半蔵政成
そこは岩から水が流れ落ち
水は川となり竹藪は風に吹かれ
大樹は家を護り数人の男達は掃除や野菜の手入れをしていた。
三太夫は男達の前に舞い降りた。
あ
三太夫殿
お久しゅうござります。
お
弥七
元気そうだな
頭目は?
はい
首を長くしてお待ちになっております。
俺が来る事を知っていたのか?
はい
なんでも私の風車が回り出したと
仰いましてね。
三太夫の風じゃと。
竹で編んだ門を潜り
玄関へすると一人の男が待ち構えていた。
服部半蔵政成 自信であった。
三太夫
茶でも飲むか
だいぶ走り回って来たな
前風が教えてくれる
只事ではないのか?
ま、こっちへ来なさい。
軋む廊下は手入れが行き届き黒光し
久しぶりの服部家は三太夫を喜して招いた。
三太夫
この茶は弥七の奥
心シンが届けてくれた
はー
美味い
喉が、渇いてたので美味しゅうございます。
三太夫の顔に笑みが溢れる
三太夫
零はどうした?
はい
実は…
三太夫は、昨日からさっき起きた事を全て半蔵に話した。
半蔵は茶を啜り
湯呑みを置くと
のぉ三太夫
曲者はそれだけじゃないだろ?
わしは大和ノ国を巻き混む事に少し疑問がある。
はい
私も少し疑問に有ります
片言の言葉を喋る男達は恐らく黄河砂の者
そしてその衆の頭目の様な者
コイツ何処かで見た様な覚えがあります。
半蔵は眼を瞑り
分かった
三太夫
うぬはもうこの陰謀を感じた者
零と仔虎は半蔵が預かる
うぬはこれより半蔵の代わりとなり甲派の佐助に伝令致せ。
承知いたしました。
おーっと待て待て!
この茶を佐助に手土産にしてくれ。
三太夫は茶の匂いのする袋を懐に玄関から出ると一陣の風となり甲派を目指した。
零と王 ロッケンローシンヂケート @takato1122
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