第7話 願う者達
先の攻防に気付かなかったのか、気付いていたのに無視したのか。
事が落ち着いてからシルティ・ゾネが向かった扉を確認するものの、そこにはもう彼女の姿はなく。
ガチャリ。
扉の閉まるその音が合図となる。
床を蹴り扉を蹴り、一回転。
例えるのなら、鉄棒の逆上がりの練習で使われるあの補助板を使うような。
脚力そして体幹がよければ真似ができるのだろうか。
およそ体重を感じさせないその動き。
何かしてくるかもしれない。そう思っていたリーベでさえ予想できなかった挙動に手を離してしまったのも仕方がなかった。
頭上から蹴り落とされた踵をもろに受け、今度はリーベが地に伏すことになる。
形勢逆転。絶体絶命。
少女の靴の裏から刃が飛び出す。
手が使えない状況を想定した武器であるらしい。
「死ねや変態がっ」
先の踵落としの要領で振り下ろされる足。
躊躇いもないその行動に隙など一切なく、未だ衝撃に震える頭ではどうすることもできない。
狙いは心臓。鎧でも着ていれば違った未来があったのかもしれないが、刃を防ぐような装甲を持つ衣服など着ておらず。
――自動防衛、展開
再び。二度目の失敗。刃を防ぐのは炎の
『ホントなんなんだよそれっ!?』
そう心の中で叫んでしまうくらいには。
多少、特異な力を扱える者がいるのは事実ではある。が、にしてもこれはないだろうと。
そんな不満を持ってしまうくらいには“出鱈目な力”に阻まれて。
逃げる。
であれば、逃げる。
撤退ができる内にさっさと逃げる。
そら行け今ださぁ逃げろ。
「――っ!?」
熱籠もる。
掴まれ足に痣想う。
つい、抵抗する癖のままに靴の裏に仕掛けた刃を向けるものの。
今度は炎の
「逃がさないっての」
「はなっ、離せって……の!」
何度、何度試してみても防がれる。
喰らったダメージの影響も消え、リーベも体勢が悪いこと以外はいつも通りに。
実力としては明らかにリーベが上であり、焦る心は自身の敗北を理解したくないからこそ。
「きゃっ!?」
「可愛い声も出せるじゃない」
リーベが勢い良く足を引いたせいで体勢を崩し、つい。
咄嗟に出てしまう悲鳴こそが本来の彼女なのだろう。
彼女も、強いられたからこそ今の状況に身を置いているらしい。
そんな、自身の命を狙った者ですら。
リーベとしては対象となるのだ。
熱く、どこまでも高鳴るこの感覚。
そう。リーベはこの状況でも興奮をしていた。
戦意が昂っていたとも言えるが、どこか。少し違っているような気がしなくもない。
「ふんっ。今度こそ大人しくしてもらおうか」
「拘束具あるじゃん! なんで使うの渋ったのよ!?」
「いや、そういう趣味はなかっただけだ。まぁ、やってみてこれも良いかもしれないと気付いてしまったが」
「新しい扉を開くきっかけが私なのちょっと嬉しいかも……」
「ん?」
「あっ、いや……違っ……!」
似た者同士、ということであるのか。
類は友を呼ぶ、とはよく言ったものだ。
拘束完了。
手足を縛り付ける拘束具は、先程までリーベが付けられていたもの。
その存在を忘れてしまっていたのはヒミツ。口八丁言葉巧みに言葉を並べることも大切な処世術であるのだ。
結果的に“彼女らしさ”という、普段見せないのであろう姿が見れたのだから良し。
「…………こんなことされても僕は何も話さないけどね」
「シルティ・ゾネを助けたい、って言ってもか?」
「何それ聞いてない早く話なさいよ」
「判断が早くて助かる」
くるりと回転する立場。
敵から一旦は中立へ。それで十分であり、話ができれば何でもいいのだ。
「はぁ、今回はやべぇのが来たから早く始末したかったけど、別の意味でやべぇ奴だったんだ」
「……やべぇ、の意味を聞いても?」
「そりゃ男より女の方がエグイことするだろ? ほら、なまじあいつが美人だから顔とか関係無しに思いっきりやるんだよ、今までの奴らはさ」
「……偏見じゃないか?」
「事実を言ってんだよ。少なくともここに来た女は皆そうだった」
自身が女だったから襲撃が早かったのだと説明する少女。
なるほど確かに、と。異性よりも同性であるからこその嬲りの違いがあるのかもしれない。
そう思うのと反面、自分には理解できないなと切り捨てるリーベであった。
「変わってんだな」
「君に言われたくはないかもな」
「……はぁ。リズ・ヴルキヤだ。好きに呼べよ」
「じゃあ、リズちゃん聞いてもいいかな?」
「ちゃん、ってつけるなやっぱ殺すぞ!」
「ん~~! 可愛いねぇ!」
身動きが取れないリズの威嚇を見て、愛嬌を感じたらしいリーベ。
そんな態度に益々機嫌を悪くするリズであるのだが、まぁ。それは逆効果になるわけで。
「このクソ女! 触るなっての!」
「リーベって呼んでもいいんだよ? あ、まだ恥ずかしいのかな?」
「触るな吸うな近づくなっ!」
「それは私に勝てるようになってから言ってね?」
「うっざ」
話はまだ。
お互いにどんな思いを隠しているのか、内に秘めたまま。
しかしそれを明かし合うのも時間の問題であった。
何故なら、二人共に“シルティ・ゾネを救いたいと願う者”であるから。
傍に寄り添う者のため。隣を歩く友のため。
愛する姫の傍で、一生をかけて世話をするため。姫を誑かさんとする悪女から姫を守るため。
触れる手は誰のモノ? ずっと近くにいた君はどうして?
私は、誰のために……?
植え付けられた罪はどこまでも深く。
これは愛した者のため、もとい愛という己の欲望のために生きた者達が紡いだ物語。
果たして、彼女らが導いた未来の姿は――
※不評のため打ち切りとなります。最後まで読んでくれてありがとうございました※
死ぬだけの簡単なお仕事 あいえる @ild_aiel
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