仮想世界-妖結集譚-

@foxface

第壱譚

「すごい!本当に来た」

薄青い光に向かい2人の少女が駆ける

「夏澄(カスミ)ちゃん!早く!急がないと見れなくなるよ!」

夏澄「まってよ、それにココでは私はミレイだってば!」

夏澄と呼ばれた少女が前を走る少女に息を切らしながら

返事をする。


少女たちが光の元に到達し、息を整えながら興奮する

「すごい…これが」

前方には異形の姿をした者たちの行列

薄青い光は人魂と思える炎から発する光のようであった

そして夏澄がその名を口にする


夏澄「妖衆(あやかししゅう)、VR百鬼夜行…」


少女たちは瞳を輝かせながらその煌びやかな

妖怪たちの宴に息を吞むのであった。



仮想世界-妖結集譚-


彩佳「夏澄ちゃん!私妖衆に入りたい!」

夏澄「・・・。」


昼休み、友人はお弁当を広げるより先、

興奮気味に私の机を叩き叫んだ


夏澄「はぁ~…出たよ彩佳の影響癖」


私はやれやれと友人、彩佳の過去を思い出す

保育園来の付き合いである彼女はとにかく影響を受けやすい

アニメの主人公に憧れ必殺技の練習からはじまり

野球観戦に行こうものなら次の日にはバットを振り回した

(ただし即筋肉痛となり断念)

そんな彩佳は今度は昨晩一緒にみたVR百鬼夜行に

影響されたようだ


(まぁ確かにアレは凄かったけどね…)


VR百鬼夜行、妖衆。

アレは現実(こちら)の出来事ではない

今では日常となったもう一つの世界

VR空間で行われているパフォーマンスだ


VRパフォーマンス自体はさして珍しいものではない

歌を歌う者、ダンスをするもの

パーティクルと言う技術を使い演出を披露する者

数多くのパフォーマーがVR空間に存在している


VR百鬼夜行は…いわば「行進パフォーマンス」と

分類されるものになるだろうか。

VR空間で妖怪の【アバター】になり音楽やパーティクル

等の演出をしながら空間を練り歩くのだ。


(ただ…)

夏澄「無理だと思うわよ」

私は友人に告げる


彩佳「無理!?」

彩佳は露骨にショックの顔を浮かべる

この子は本当に表情がコロコロ変わって飽きない


実は、パフォーマーになること自体は全く難しくない

VR空間にはあらゆる可能性が認められており

パフォーマーとしてデビューするに制約のようなものは

ないのだ。自らが名乗れば今日にでもパフォーマーの

仲間入りなのだ。


ただしそれは個人の話、当然パフォーマー集団に入るには

それなりの審査なりが存在する。


そして昨日私たちが目撃した妖衆はその中でも更に特殊な

パフォーマー集団とされている。



妖衆が最初に世に出たのは2022年、VRが世の中に出回り

始めたかなり初期の事だという。

衆のメンバーはそれぞれが現実世界で語り継がれる妖怪の

名前をプレイヤーネームにすることを徹底しており

アバターもその妖怪の物に統一されている。

当たり前のように聞こえるかもしれないが、姿かたちを

自由に変えられるVR空間では、アカウントを変えず

プレイヤーネームそのままで源氏名のような形で別名

を使いアバターを変えパフォーマンスする事は珍しくなく

寧ろ妖衆のように徹底していることの方が珍しい。


またフレンド申請は一切受け取らず、基本的に

パフォーマンス中は無言、メンバーの数名のみが紹介口上を

述べる程度であるがその音声もボイスチェンジャーで

音声を変えている。告知用のアカウントも設定せず

メンバーの本アカウントが誰なのかも一切知られていない


和風のVRワールド限定でゲリラ的に出没し

百鬼夜行のパフォーマンスを披露するのだ


出始め当初は急にワールドに現れ、演出の為に描画処理を

重たくしてしまういわゆるテロ扱いされていたが。その演出

や秘匿性から噂を生み、処理技術が当時より格段に進歩した

今では妖衆に関する情報サイトやファンサイトがいくつも

存在するほどの人気パフォーマンス集団の扱いを受けている。


かく言う私も大の付くファンで、昨晩は様々な情報をまとめ

出没ワールドに目星を付け彩佳といくつかのワールドで

待ち伏せていたわけなのだ。


以上の情報をショックで口をポカーン( ゚д゚)とあけている

友人に伝え続けて話す。


夏澄「妖衆がメンバー募集をした事なんてないし、そもそも

連絡先すらわからない。妖怪アバターを着て勝手に行列に

入りパフォーマンスをした人は何人か居るらしいけど、

結局正規メンバーにはなれなかったらしいし、何なら

もれなくファンから猛烈な批判を受けたらしいわよ。」


パフォーマンスはもちろんの事、秘匿性、カリスマ性

含め妖衆の魅力なのだ。今まで彩佳のように妖衆のメンバー

になりたがった人は星の数ほどいるだろうが、それは

叶わぬ願いなのだ。


彩佳「え~ん…私も百鬼夜行に参加したいよ~」

夏澄「すればいいじゃない、パフォーマンスではなく

集会として百鬼夜行をやってる人は何人か居るわよ」


集会イベントと言う形で妖怪アバターに扮してワールドを

練り歩くものは実は妖衆より前から存在する。

ただそれはパフォーマンスとしてではなく皆でワイワイ

集まって楽しむと言った趣旨のイベントとしてだが


彩佳「むぅ、私は妖衆のメンバーになって百鬼夜行

をしたいの!夏澄ちゃんどうにかならない?」


夏澄「どうにもならないわね」

彩佳「そんなキッパリと」


夏澄「全く手がかりが無いのだもの、知っての通り

告知もない、連絡も取れない、わかってるのはメンバー構成が

サイトにまとめられているぐらいね。

そこ含めて妖衆の魅力よ、混ざりたい気持ちもわかるけど

そう言うものとして楽しむのが正解なのよ」


私は一つ友人には話さなかった

そのファンから猛烈な批判を浴びた張本人は幼き頃の私だと

いう事を。

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