第5話
ヴァンス王子は、精力的な王子だった。
それまで曖昧だった砂時計の伝承を明言し、国民に危険性を周知する活動をした。
「俺が殺されたら、大陸が沈む」
王子が殺されたら……砂時計が割れたら、大陸が沈む。
この事実を知っている国民は、王宮内に何人かしかいなかった。
王子が王宮から出られない理由。王子の権威を高めるためではない。シャフマという国が、滅亡する危険があるからだ。
「王子が死んだら、大陸が沈む」
リヒターは風の噂でそれを聞いた。
「こんな国なら、沈んでしまった方が」
孤独に生涯を生きるくらいならば
「王子を殺せば、シャフマがなくなる」
毎日、飢餓に苦しんでいたリヒターの行動は早かった。
刃物を隠し持ち、王宮へと向かう。
(ヴァンも……)
王子とよく似た名前の少年の顔を思い浮かべる。
(ヴァンも、俺と同じだ。酒を知らない。夜にしか遊べない。ヴァンは、不自由なんだ)
(それなら、俺が、この手で……王子を)
王宮へ着くと、見張りが立っていた。
「なんだ?子どもか?」
「王子に会いに来た」
「ヴァンス様に?何の用だ」
「いいから通せ」
「そんなわけにはいかないよ」
もちろん、入れてもらえない。
(仕方ない。強行突破を)
刃物を取り出そうとしたときだった。
ー通せ。
「えっ!?」
少年の声がしたのだ。どこからともなく。
「ヴァンス様!?」
リヒターは後で知るが、これはヴァンスの白魔法によるテレパシー。魔法の相当な使い手でないと使えない技だ。
ーいいから、そいつを通せ。俺の部屋まで案内しろ。
「……はっ!ヴァンス様!」
ヴァンスの部屋の扉が開く。
リヒターは警戒して中を覗く。
真っ黒な部屋の中、真っ白な服を着た王子の後ろ姿が見えた。
(あれが……ヴァンス……)
「護衛、下がってくれ」
「ですが……」
「二人にしてくれ。その少年と」
「……はっ」
護衛が下がる。
(チャンスだ!)
扉が閉まった瞬間、リヒターがヴァンスに向かって走る。
飛びつき、刃物を首に向けようとしたときだった。
「っ……!?」
ニヤリと上がる口角、そして、金の瞳。
見覚えのあるその顔に、リヒターは固まった。
「ヴァン……!?」
砂時計の王子 〜episode of Vans〜 まこちー @makoz0210
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