第4話
孤児が増えた。
毎晩、シャフマ王宮近郊の路地裏に赤子が捨てられる。
そのほとんどが五体満足で、生きていくのに不自由な体とは思えなかった。この国は貧しい。足がなかったり目が見えなかったりする子どもの面倒を見る余裕はない……リヒターは最初はそういう理由で赤子が捨てられているのかと思っていたが、違うと気づいてしまった。
「騙せると思ったのに!」
今日も路地裏に女の声が響く。
「何で女なのよ!!男じゃないと意味が無いのよ!背中に『模様』を書いたって、女だったら意味ないじゃない!」
赤子が投げ捨てられる音がした。幼い頃から何度も死の淵をさ迷ってきたリヒターだったが、女の声は恐ろしく感じた。
「王子様……何故私を選んでくれなかったの……?」
赤子を捨てた女はいつもそう言って路地裏を去るのだった。
「リヒターさん、リヒターさん」
キャロルの声で目が覚める。夜だ。一日寝てしまっていたらしい。
「うふふ、丸まって寝ていましたわよ。ダンゴムシみたいでしたわ」
「図鑑で見たことある虫のことだな、キャロル。フートテチにはたくさん生息しているらしい」
寝ぼけ眼を擦って座る。ヴァンが持ってきた包をリヒターに渡した。
「これ、面白いぜ。フートテチから取り寄せた『コンペイトウ』って菓子。あまり味はしないが、たしかに甘いんだ」
包みを開く。そこには色とりどりの綺麗な砂糖菓子が。一つ口に含んでみる。ガリッ……。
「甘い……」
「だろう?」
「あぁ……」
視界が潤む。コンペイトウの輪郭が分からなくなる。
「どうしましたの?」
「おいおい、リヒター?」
「っ……」
リヒターは何故自分が泣いているのか分からなかった。赤子を捨てている女たちの言葉が、ずっと刺さって抜けなかったのだ。
自分はずっと一人だった。それは、この国にいらない存在だったからなのかもしれない。あの赤子たちと同じように、捨てられるべき存在だったからなのかもしれない。
だが、今は違う。
(ヴァンが……キャロルがいる……)
それが救いだったのだ。
「……リヒター、俺たちのところに来い」
ヴァンが低い声で言った。
「リヒター、泣くな。リヒター……」
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