第3話
「キャロル」
「ヴァンス様……」
少年の真っ黒な髪が揺れる。その長い髪は、砂漠の青空によく映えた。
「許嫁など、山ほどいるでしょう」
赤髪の少女は柔らかく笑った。ヴァンスもつられて笑ってしまう。
「あぁ、だが……俺はお前がいいんだ。キャロル」
〜昼 王宮近郊の街 路地裏〜
王子の結婚が発表された。リヒターは文字が読めなかったので新聞を読みながら話している商人の声で知ったが。
「王子の結婚か、ついに『砂時計』の継承が見れるんだな」
「次の王子が千年目を迎えることになるかもな」
「いや、千年目はその次の王子だろう。30前後で国王になるなどありえんからな」
「ヴァンス様は王子らしい王子だからなぁ。ま、俺は顔なんて知らないが。魔法も上手いし性格も大人しいと噂だよな」
「王宮から出たことがないから、誰も顔なんて見たことないだろう」
商人たちの笑い声が聞こえる。
(ヴァンス様、か)
会ったことがない。高貴な存在なのだろう。今も路地裏でゴミを漁っている自分となんて一生縁のない人間だ。
(ヴァンにしばらく会ってないな)
腐りかけたパンを食べながらため息をつく。
(まぁ、あいつの親は商人だろうし、成功して金持ちになって引っ越したのだろう)
こんなスラム街で商売をするなんて馬鹿げているし。
〜数日後 王宮近郊 夜〜
「……こっちだ。転ぶなよ?」
「ふふふ、ヴァンス様ったら」
「その呼び方はいけない。俺はここでは平民の『ヴァン』だからな」
ヴァンがキャロルの口に指を当てる。
「では、ヴァンさん。目的地はもうすぐですの?」
「あぁ。ここに……」
ードサッ
何かが目の前に落ちた。ヴァンは驚いて腰を抜かしてしまう。
「て、手斧じゃないか」
何者かがなげたのだ。辺りを見回す。茶色の目と視線が合った。
「リヒター!」
「ヴァン、すまない。まさかお前だとは」
リヒターが駆け寄ってくる。
「最近、この辺が荒れているんだ。……孤児が増えた影響だと思うが」
「そうか……。それで手斧を」
「ボロボロだが、ないよりはいいと思って……」
リヒターの言葉が途切れる。キャロルが呆然としているのが見えたからだ。
「あ、そうだ。キャロル、こいつがリヒターだ」
「あなたがリヒターさんですのね!わたくしはキャロルですわ」
「俺の……結婚相手だ」
「!」
「キャロルも平民でな……。しゃべり方は親の教育のせいで少し不自然だが、面白いやつだから、たまにここに遊びに連れてくることにした」
「わたくし、外の世界が大好きですのよ!リヒターさん、教えてくださる?」
「面白い話などないが……遊ぶくらいならいいか」
この日から、3人はたまに集まり、夜の街で遊ぶようになった。
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