第2話
その日から、ヴァンとリヒターは毎晩会うようになった。ヴァンは家から美味しいものを持って来て、リヒターに手渡した。小さい菓子が多かったため腹の足しにはならなかったが……そのどれもがキラキラ光っていて、美味しかった。
「こんなに貰っても、俺には何も返せない」
「俺が好きでやってるんだからいいだろう」
「だが……」
「本当はお前を俺の家に連れて行きたいんだが……な」
リヒターはいつも、切なそうに笑うヴァンに何も言えなくなってしまうのだった。
「なぁ、お前は恋ってしたことあるか?」
いつもの路地裏。ふと、ヴァンがそんな話を振ってきた。
「コイ……?友達とは違うものか?」
「あぁ。違うね。俺はしなくてはいけないんだ」
「皆しなくてはいけないものなのか?」
「いや、そんなことはない。リヒターには必要ないだろうよ」
リヒターは首を傾げた。
「まぁ一種の義務ってやつだ。俺はこんなんだし、一生できないんだと思っていた」
「恋をしたのか」
「っ……いや、まだ分からないぜ!そうかもってだけで」
色白のヴァンの顔が真っ赤に染まった。なんだか笑えてくる。リヒターの口元が緩む。
「俺が家のやつらから聞いた『恋』っていうのはよ……。見てるとドキドキするとか、一緒にいたいって思うとか……こいつと子を成して育ててみたいとかそういう……つまり、特別な存在にしたいという意味だ。愛している、というらしい」
「愛……か」
15歳の少年2人にはまだ難しい感覚だろう。しかし、リヒターはヴァンの慌てようが面白くて仕方がなかった。
「はははっ、ヴァン、お前……美しい女と知り合ったのか?」
笑いながら言うと、ヴァンが驚いた顔をする。
「笑っ……。あぁ、そりゃあもう美しい女だ。平民だが、淑やかで……俺の全てを受け入れてくれるような……」
自然と声に熱が入る。その女性のことを考えるとどうもいつものヴァンでいられなくなるらしい。
「結婚、したいと思う」
シャフマ人には結婚の制限はない。年齢や身分が違っても、結婚ができるのだ。
「応援してる」
心の底から言う。リヒターは友達として、ヴァンの背中を押したいと思った。
〜朝 シャフマ王宮〜
「ヴァンス・エル・レアンドロ様」
呼ばれた少年が自室の扉を開ける。
「……ええと、オ……」
「オリヴィエです。ヴァンス様」
緑髪の6歳の男の子。隣にはその親であるラパポーツ公が立っていた。
「すまん、名前を思い出せなかった」
「『執事』で結構です。ヴァンス様、今日から倅をよろしくお願い致します」
「昨日も言ったが……まだ6歳だろう。無茶をさせるべきではない」
「無茶ではありません。わたくしも5歳の頃には既に国王様の執事でしたから」
「……」
ヴァンスは苦い顔をしつつも、オリヴィエに頭を下げる。
「あ、頭を下げないでください!王子様!」
泣きそうな高い声、まだ子どもだ。こんな男の子に執事の業務をやらせるなど……。
(騎士団長ス……スティ…ルの息子は俺より年上だが、ラパポーツの息子は……)
まだ幼い。幼すぎる。
(従者が欲しい……こいつに全てやらせるわけにはいかないぜ……)
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