月面探査
結騎 了
#365日ショートショート 032
枯れ果てたでこぼこの地面に、アームから伸びる足がゆっくりと接触していく。アポロXX号は、この度も無事に月面着陸を成功させた。
「周囲に異常はありません」
顎髭をたくわえた船長は、その報告を受けて命令を下す。
「調査班は月面に降り立て。地質調査と鉱石の採掘だ。シミュレーション通りに動け。ほうら、時間がないぞ」
椅子に深く腰かけながら、部下の報告を待つ。アポロXX号の船長となった彼は、とにかく慎重な性格だと評判だった。好奇心より実直さ。可能性より安定感。月面探査にはその気質が向いているとされ、船長に抜擢されたのだ。
ぴぴぴっ。無線からコール音が聞こえた。
「船長、不審な影が。そ、その。まさか。あの、信じられないことに、影が動いています」
船長は目を見開く。
「彼のカメラをモニターに映せ」
船内の皆が、モニターに釘付けになる。確かに、灰色の岩の向こうで、影が動いているではないか。ややっ、あれは。人間の膝の高さより小さい、白い影。ぴょん、と細かく跳ねる動き。そして、頭部から伸びた二本の部位。
誰もが、瞬時に答えにたどりついた。間違いない。まさか、本当に月にいたなんて。おとぎ話ではなかったのか。
目の当たりにした隊員の、上ずった声が響く。
「船長、私がヤツを追跡します。予定にない行動ですが、許可をください」
しかし、船長の決断は迅速だった。
「いいや、やめなさい。我々の任務は地質調査と鉱石の採掘だ。ついさっき、そう言ったはずだぞ」
騒然とする船内。
「どうしてですか。あれは宇宙開拓の歴史に残る大発見ですよ。絶対に捕まえるべきです」
「やめない、と言ったはずだ。いいか、君に東洋の言葉をおくろう。その身に刻みなさい。二兎を追う者は一兎をも得ず、だ」
月面探査 結騎 了 @slinky_dog_s11
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます