12月25日⑤
12月25日
久しぶり。僕は君からの手紙を一度に纏めて受け取っています。僕たちの子は元気だよ。母恋しくて泣く日もあるけど、その度に君という存在がこの子の中にあるのだと確かめられたような気がして、嬉しく思っている。
最後の手紙だ。君からの質問には誠実に答えようと思う。
戦争は終わったよ。君が最終決戦の地に旅立って1年半後に終結した。過去300年以上も遡れば、星の数よりも多い勲章を作成しても足りぬほどの犠牲と、慰めきれぬ悲しみを伴いながら、君たちは勝利した。ありがとう。君のおかげで僕は今、幸せを得ている。
人類は地下都市を引き払いつつある。300年と少しの間で塵積もった埃を払うことには苦労していてね。一部の住民から地上に住まいを移しながら、市場なんかも成立しつつある。統合政府は闇市の発生には苦労しているみたい。かく言う、僕の職場は未だ地下都市だしね。食料プラントも絶賛稼働中だ。
手紙が届いているか、と。どうして君に返事が届かなかったか、だね。この2つの質問は一度に答えよう。
正確に言えば、届いている。だからこうして、返事を書いている。そして、ここからは僕の仕事に絡んできそうなんだけど、どうも輸送関係でトラブルがあったらしい。
記録を漁っているとよくあるんだけど、どうも軍事物資をネコババしていた人がいたみたい。そのネコババするのに、積載量だかなんだかの帳尻を合わせるために君たちから預かった手紙は然るべき輸送ルートに乗せられず、誰にも見つからない隠し倉庫で3年ほど眠っていたそうだ。A.D暦の戦史に似たような事例を見たときは笑えたけど、当事者となると静かな怒りが湧いてくる。いまさら言ったって仕方ないけど。
だから、君に返事を送れなかったのも、そういう訳だ。返事もなにも、手紙が届いていなかったのだから。でも、せっかく僕のために書いてくれたんだ。素直な声も聞けたことだし、返事を書いたよ。
そして、最後の質問だね。子どもは雛鳥じゃないんだ。初めて目にしたものを母親と認識するわけじゃない。ちぐはぐでも、ゆっくり時間をかけて関係性を築けていけばいいんじゃないかな。と、こんな風に理屈を述べても君は納得してくれないだろうね。君は理屈より実感を大切にする。
もし、不安なら返事を預けた小さな配達員さんに確かめてみるといい。一番の実感を得られるはずだから。
それでは、またあとで。最後は当分、先になりそうだよ。
想念の所在地 測りかねる光年 白夏緑自 @kinpatu-osi
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