6月22日

6月22日

 久しぶり。前回の手紙からだいぶ間が開いてしまいました。手紙を書く余裕もない日々が続いていたのです。作戦終了時期も大幅に遅れています。間に合わなくてごめんなさい。アナタと私たちの子は元気ですか。

 

 たぶん、これが最後の手紙になります。もうすぐ、残存戦力を全て投入する大侵攻作戦が始まるからです。人類より数歩先の進化速度と拡大力を持つ敵ですが、ついに完全な殲滅が目前だそうです。しかし、私たち人類も疲弊しています。アナタも気づいているでしょう、地下都市から兵士がほとんどいなくなっていることかと思います。敵が全滅目前なら、私たちも戦う力が残っていません。何とかかき集めて、やっと最後に渡り合える。その段階に私たちはやって来ています。

本当に全てですから、もし負ければ、手紙を届けてくれる人もいなくなります。

 私も生きては帰って来れないでしょう。


 この手紙が届くのはいったい何日後なのでしょう。少なくとも今より未来のアナタが受け取ることは確かなはずです。どうですか。戦争は終わっていますか。いったい何人の兵士が帰ってきましたか。そこに私はいますか。私たちの子は元気ですか。

ここまで書いて、肩が凝り始めたことに気づきました。最後だからって畏まりすぎたのかも。うん、やっぱりいつもの調子に戻すね。久しぶりの手紙だから、書き方を忘れてたみたい。

 

 そうだ。アナタの仕事は戦史研究だったわ。表向きだろうが、それが仕事なんでしょ? だったら、私が出兵してからの作戦も研究対象になるのかしら? そしたらアナタは私の出撃記録を追って、いかに私が大活躍していたかを知ることになるね。隊長と副隊長が不意打ちに殺され、烏合の衆となりかけた部隊を大声で私が纏めた話とか、遠くで息をひそめていた敵に気づいてピストル一発で仕留めた話とか。あとは、右腕を犠牲に仲間を守り、最後まで左腕一本で戦い抜いた話とか。


 これはまだ、アナタに教えていなかったね。右腕、失なっちゃってます。いつだったかな、最初の手紙を書く少し前。利き腕を持っていかれちゃったから、字が上手くかけなかったの、隠していてごめんね。

だから、今度アナタと寝るときは私が右側で、アナタが左。そっか、二人の間に子も挟まないと。手を繋いでくれるかな。生まれた時、一緒にいなかった私をお母さんと認めてくれるかな。もし、私が生きている間に他の誰かをお母さんと紹介していたら、恨むから。冗談。アナタが選んだことなら、私は大丈夫。寂しいけど。


 そろそろ出撃の時間です。最後に、私より未来にいるアナタにいくつか質問です。

戦争は終わっていますか。まだ地下都市 シェルターに引きこもっていますか。手紙は届いていますか。どうして、返事は一回も来なかったのですか。

私は、お母さんになれますか。

 それでは、お元気で。最後にもう一度だけアナタの言葉を受け取りたかった。

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