ペリカンとペンギン。

@pipiminto

 

中学生の頃、俺はコーラのペットボトルのおまけでついてきた全12種類の鳥のストラップを集めることに夢中になっていた。


俺はレアなペンギンが欲しくて、毎日毎日飲みたくもないコーラを飲んだ。


でも出てくるのはペリカンばかりで、1週間でペリカンが7つもダブった。…これ逆にすごくないか?


ペンギンを求めているうちに、そのキャンペーンは終了した。1ヶ月毎日毎日毎日、飲みたくもないコーラを飲んでいたのに。


俺の携帯には11つのストラップがぶら下がることになった。


俺はペリカンとコーラが大嫌いになった。なんたってペリカン15回出たからな。ゴミだ、もう。


拗ねたように俺はまた毎日ジンジャーエールを飲むようになった。久しぶりのジンジャーエールは逆にあまり美味しくないような気がしたが気にせず飲んだ。コーラなんてもう見たくもない。


そんなある日、俺はペンギンと出会った。



「あ、それコーラでしょ」



それは高校受験に向けての追い上げでピリッとしてカリカリとシャーペンを走らせる音しかしない学習塾の中でだった。



「あ、いいなぁ、ペリカンがいる」



ふわりと揺れるウェーブががった茶色い髪の毛、天ぷらでも食べた?と往年のボケをかましたくなるほどテカテカ…いや、ツヤツヤしてプルプルしてる唇。まつげもなんだか濃くて長い。


見た目に気を使ってる奴なんていない、勉強だけに必死な生徒達の中で明らかに異質な女の子。


その子が俺の携帯を見て楽しそうに声をかけてきた。ペットボトルのおまけに根性燃やしてるような根暗の俺に。



「見てー、あたしも集めてたの」



目か痛くなりそうなほどキラキラした石で装飾されたショッキングピンクの携帯が俺の前に差し出される。



「…すごい携帯だね」



驚きの余り固まっていた俺がどうにか絞り出したのはそんな言葉だった。


すると何故か少女は嬉しそうに微笑んで見せびらかすように携帯を揺らせて見せた。キラキラが目に刺さって痛い。



「でしょでしょ?ちょー頑張ってデコったから!」


「自分でやったの?」


「そだよ?当たり前じゃん!店だと高いし。100均でシール買ってちまちまと。」


「ペンギン!!!!!!」



へへ、と嬉しそうにはにかんだ少女はとてもかわいかったのだけど、その時の俺の目に映ったのは俺が欲しくて欲しくてたまらなかったペンギンだった。


そういえばコーラとかペリカンとか言ってたな、キラキラした携帯に気を取られて忘れてた。



「うっさ、もー。ごめんなさいね、騒がしくて」


「あっ…すいません…」


「くっら」



少女よりも騒いでしまったことを反省しているとケラケラと笑いながらディスられた。


世の中には言葉の暴力ってものがあるんだけど知っているだろうか。根暗に暗いとかもうそれ地雷レベルじゃないだろうか。


俺だってSNSでは喋れるのに。…そういうのが一番痛いって後々言われたけどそんなん知るか。



「ペンギンほしかったの?」


「うん、集めてたのにペンギンだけ出なかったんだ」


「あたしはねー、ペリカン好きでさー。ペリカン欲しかったのにペンギン出たからペンギン付けてんの」


「な…!ペリカンなら家にあと14個あるぞ」


「ほんと?じゃあソレちょーだい」


「え、これ?」


「家にまだあるならいいでしょ?ペンギンと交換しよーよ」


「いや、だったら新しいの持ってくるから…」


「いーよ、あたしのこれしかないし。新品悪いじゃん」


「いや、14個余ってるし、ペリカン…」


「あ、そっか。じゃあ明日交換ね。アドレス教えて」





それが俺とペンギンの出会いだった。

今の俺らはというと、ふたたびカリカリとシャーペンの音だけげ響き渡る塾の中で隣り合って座っていた。





「ぼーっとしてないで問題解きなよ。ぺりー」


「るせーぞペン子」


「そんなんじゃ大学落ちるよ?」


「おま。受験生に落ちるとか言うなし…」


「二人で受かりたいの。黙ってやれ」



出会った頃の可愛い笑顔をめっきり見せてくれなくなった少女は俺の彼女だった。


まさかギャルと付き合う日が来ると思わなかったよ、と言ったらこれでギャルとか言ってたら渋谷行ったらチビっちゃうよ、と笑いながら股間を指でなぞられた。


付き合っているくせに俺を弟のように扱うのはやめてほしいね、ほんとに。男として見ろよ、彼氏と呼ぶなら。


ちなみにそんな流れで押し倒してみたら頭を叩かれた。調子乗んなヘタレって言葉を投げ掛けて。ヘタレだったら押し倒すことなんて出来ないんだからな、と文句を垂れようとした時、何かが、とても柔らかい何かが俺の唇を包んで、離れた。


まだここまで。とイタズラっぽく笑ったのは俺の彼女に違いなくて…。


と、今度はつい数日前の思い出に浸っていたら隣からテキストが飛んできた。


ギャルの癖に成績の良い彼女に頼まれまくって、俺は志望校のランクを3つ上げた。前々回の模試ではE判定、前回の模試ではD判定。明日の模試ではB判定が目標だ。



「ぺりー。頑張ろ?」



先程の暴力をなかったことにするかのように上目遣いで可愛くおねだりをされた。可愛いから素直に頷いてペンを持つ。


大好きなペンギンを、まぁ好きなペン子と見に行く為に。ちょっと嫌いなペリカンを、まぁ好きなペン子と見に行く為に。


俺は今日も机に向かってコーラを飲んだ。




ーEndー

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