気弱で可愛い妹を強くたくましい妹へとお兄ちゃんが更生させてやる!!

関口 ジュリエッタ

第一話 妹を強くてたくましくしてやる!

 綺麗な夕陽が照らす中、公園では学ランを着た五人とブレザーを着た金髪の目つきの悪い高校生達がお互いにらみ合いをしていた。 ブレザーの少年以外は同じ高校の仲間。

 空気が張り詰める中、学ランを着たプロレスラー並みの体格をした少年が口を開き出す。


勇馬ゆうま。今日で年貢の納め時だぜ。ここにいる俺を含めた五人がまとめてお前に勝負を挑む。俺ら含めた全員は格闘技を習っている経験者だ。お前なんて勝ち目はない」

御託ごたくはいいから、さっさと始めようぜ」

「生意気な野郎だ。やっちまえ!」

 

 どうやら口調やら四人に指示を出すところを見ると彼がグループのリーダー格みたいだ。

 リーダシップの少年を除いた四人が、勇馬に襲いかかってきたが強靱の長い脚でムチのように四人の少年をあっという間に蹴り飛ばした。


「なっ! 一瞬で……化け物か!?」


 リーダ格の少年は恐怖の余り後ずさりする。

 先ほどの異性はなくなり怯える犬のようにプルプル震えだす。


「そっちから喧嘩を吹っかけてきたんだから、覚悟しろよ」


 そう言葉を放ち勇馬はリーダー格の頭部を左手で鷲掴みにし、袋叩きにしてしまった。


 無数の蜂に刺されたような顔面が腫れ上がったリーダー格の少年を投げ飛ばして勇馬は物足りない気持ちで自宅へと帰るのだった。

 五人の不良どもを一瞬にして葬ったこの少年の名は菊池勇馬きくちゆうま、高校二年生。見た目は高身長で筋肉質、金髪で短髪の耳にピアスを付けている目つきの悪い不良少年だ。

 地元では男も女も子供だろうと関係なく喧嘩を売ってきた者は容赦なく相手を病院送りにしてしまうので地元の不良達から殺戮兵器というあだ名を付けられている。


 そんな殺戮兵器さつりくへいきの勇馬は自宅に帰る途中に府と商店街の路地裏に目をやると中学のセーラー服を着た数人の女子生徒が一人の同じセーラ服を着た女子中学生を囲って何やら良くない会話していた。

 いつもは見て見ぬ振りをする勇馬だったが、今回はそんな事はできない。

 何故なら囲まれている女子中学生は勇馬の妹の菊池憂羽きくちういはだったから。

 桃色のような美しい髪色で、顔も整っていて、身体も無駄に脂肪がない綺麗なスレンダーボディーの超絶美少女。

 

 そんな可愛い妹をすぐ助けに入ろうと思ったが、勇馬はその場で思いとどめた。

 憂羽は小さきときから大の人見知りで両親や俺にもあまり会話もせずこっちから話しかけてても頷くか、一言伝えて終わってしまう。

 ここで助けたとしても今後また同じようにイジメを受けるに違いない、と思った勇馬はひとまずコンビニの壁から少し顔を出し、覗くように様子をうかがうことにした。

 距離が遠く、憂羽達の声が聞き取れてはいなかったが、少し経つと女子中学生三人は憂羽から離れてこちらに歩き勇馬の隣を素通りして去って行った。

 勇馬はすぐ憂羽の所まで向かう。


「よう、憂羽」

「おつかれお兄ちゃん」


 一言ねぎらいの言葉をかけて憂羽は素通りしようとしたので勇馬も後を追うように歩く。

 

「憂羽、あの子達と何を話していた?」

「お兄ちゃん見ていたの?」

「ああ。楽しい会話には見えなかったんだが、何を言われた?」

「別に……何でもない」


 可愛い瞳をウルウルしながら憂羽は悔しそうに下唇を噛みしめている。


「話したくないのなら別に話さなくてもいい。だけどな一生あいつらに絡まれる羽目になるぞ」

「じゃあ、お兄ちゃんが助けてよ」


 口を開いたときの最初の一言が兄への助けだった。

 ほんとは助けたい気持ちはあるが心を鬼にして憂羽を突き放す。

 

「いやだね。何でもかんでも助けを求めるな自分自身で解決しろ」

「…………うん」


 涙をポロポロ流し、鼻をすすりながら勇馬の元から離れていく。


「待て、助けてやることはできないが、手助けぐらいならできるぞ」


 憂羽は足を止めてこちらに振り向く。


「手助け?」

「そうだ。おまえを強くしてやる。そうすればあのイジメっ子達を叩きのめせるぞ」

「でも……わたし……お兄ちゃんと違うから鍛えたところで……」


 弱々しい言葉を吐いている憂羽の頭を優しく勇馬は撫でた。


「安心しろ。兄ちゃんの妹なんだから強くなれる!」


 勇馬の力強い瞳を見た憂羽は少し不安がつのっているがコクリと頷く。


「わかった、お兄ちゃん。自信はないけど頑張って強くなって紀香のりかちゃん達を見返してみせる」

「それこそ俺の妹だ」

「それと……もし紀香ちゃん達を見返したら……ご褒美貰ってもいい?」


 憂羽は、急に頬を赤らめて急に身体をモジモジさせる。


「別に構わないぞ。ただそのご褒美にもよるが……」

「だめ! 絶対ご褒美貰うから」

 

 急に人間が変わったように口調が強い。その勢いでいじめっ子達にも言えばいいのに、と心の中で勇馬は思う。

 憂羽をいじめる奴らの事が詳しく聞きたいため、憂羽と一緒にとりあえず自宅に帰ることにした。


 

 自宅に帰宅した勇馬はリビングでイジメる三人について憂羽に訊ねてみた。

 イジメるきっかけや、今までされてきたイジメの事を憂羽の口から出るたびに勇馬は物凄い殺意が湧き、腹が煮えたぎる。

 リーダ格である一つ上の先輩五十嵐紀香いがらしのりかと同じく一つ上の先輩神崎咲かんざきさき、そして同級生の伊藤美樹いとうみきの三人が憂羽をイジメている人物らしい。

 イジメのきっかけは、紀香の片思いの先輩が実は憂羽に好意を抱いており、ある日その先輩は憂羽を誰もいない教室に呼び出して告白をしたらしい。だが、憂羽はその先輩の告白を断った事を知った紀香は余計に腹が立ったらしい。

 紀香に魅力が無いのが悪いのにそれを八つ当たりのように嫌がらせをしてくるなんて勇馬はむかっ腹が立つ。

 絶対憂羽を強い人間にさせてやると強い気持ちを抱いた。

 

 こうしていじめっ子のリーダーである紀香を倒すため憂羽は、兄の勇馬の厳しい特訓を受けることになった。

 


 祝日の晴れ渡る日に勇馬は憂羽を近くの公園へと連れてきた。

 ひ弱な身体を強靱きょうじんな身体にさせるべく肉体のトレーニングを始めることにした。


「まずは腕立て、腹筋、スクワットそれぞれ一〇〇回してもらう」

「無理だよ……」

「いいからやれ、まずは腕立て一〇〇」

「一……二……さ……うぅ」


 腕立てわずか二回で終了。

 さすがの光景に勇馬は唖然あぜんとしてしまう。ここまで体力が無いとは思いも寄らなかった。


「たったの二回でダウンとは……」

「ハァ、ハァ、だって運動なんて今までしたことがないから……」


 胸に手を当てて、憂羽は息切れをしている。

 

「じゃあまずは、三十回できるようにしよう」

「ハァ、ハァ……わかった」


 辛そうな表情をする憂羽だが、前とは違い、やる気の眼差しがあるのを勇馬は感じ取っていた。

 一時間も掛けて何とか腕立て三十回を終わらせることに成功させたが、まだトレーニング科目は二つもある。


「……やっと終わった……」

「よくやった。次は腹筋だ」

「お兄ちゃん、私急用が……」

「逃げるのは許さないからな」


 逃げようとする憂羽の首根っこを掴む。


「これ以上やったら身体がバラバラに分解しちゃうよ」

「バラバラになったら組み立ててやるから、さっさとトレーニングをしろ」

「…………はい」


 青ざめた表情で憂羽は今日一日地獄の特訓をするのであった。



 陽も暮れ夕方になりようやくすべてのトレーニングメニューが終わった。


「お疲れ様憂羽、そろそろ帰るか」

「……うん でも歩けない」


 ぐったりと横になって疲労しきっている憂羽を見て嘆息たんそくを漏らしながら勇馬は仕方なくおんぶをして自宅に帰ることにした。


「お兄ちゃんにおんぶされるの幼稚園の時以来だね」

「小さい頃はともかく今はおんぶする理由がないもんな」

「トレーニングが終わって疲れたら毎回おんぶして家まで送ってよ」

「嫌に決まっているだろ。今回だけ特別だ」

「ケチ」


 いつも内気の憂羽が今日はやけに会話をしてくるなと思いながら綺麗なオレンジがかった夕陽の中を歩きながら自宅へと帰路した。



 それから学校の終わりや祝日の日は全て猛特訓して、今じゃ見違えるほどの肉体が締まってきた。

 だが、肉体は問題ないが、一番は内面の方だった。

 学校では未だに人との会話がうまくできなく、いじめっ子の紀香達にも馬鹿にされてイジメを受けているみたいだ。


 筋力がつき肉体が変われば性格も変わるだろうと思った筋肉バカな勇馬の考えは浅はかだった。


 ある日、勇馬は学校の踊り場の窓で一人ふけていた。


「よう! 勇馬、なに辛気くさいことしているんだ?」

あきらか」

 

 背後から活気ある少女の声が聞こえた。

 不動晶ふどうあきら、勇馬と同級生で、有名なレディース総長をしている。

 モデル並みの高身長の巨乳で長い金髪に吊り目の強面美少女。


「珍しいな、お前が考え事なんて――よし、お姉さんが聞いてやる」

「いつからお前は俺の姉になったんだよ。同級生だろ」

「力のレベルでは私の方が上だろ」


 勇馬は一度晶と喧嘩をして唯一敗北をしてしまった一人、それからというもの晶は姉貴気取りでいつもちょっかいをかけてくる。

 

「わかったよ、言うよ。俺の妹の件なんだが」

「勇馬、妹がいたのか!?」

「いたよ」


 驚愕きょうがくしていた晶だったが、すぐに笑顔になる。


「よし! 勇馬の妹は私の妹とでもある。このお姉さんに任せなさい」


 なにげに豊満な胸に手を置いて宣言した。


「だから姉貴面するな」


 仕方なく妹の件を晶に説明した。

 すると、コクコクと頷き始めた晶はとんでもないことを口にする。


「黙ってお前の妹を私に預けろ」

「姉貴面の次は拉致する極悪人か?」

「いいから私を信じろ。今日お前の妹をもらいに行く――いや私の妹を連れて行く」


 そう語り晶は階段を降りてその場から去って行った。


「あいつ……、授業サボる気だな」


晶のクラスでは次の授業が数学のハズなのにクラスには戻らず一階に降りていった。予想だと保健室のベッドに仮眠しに向かったのだと勇馬は予想する。

 次の授業の予鈴よれいが鳴ったので渋々勇馬も自分のクラスに戻っていく。


 授業が終わり急いで妹の通う学校に向かう途中、妹と同じセーラー服着た少女達の会話が勇馬の耳に入る。

 なんでも事業中に見知らぬ女子高生が乱入して隣のクラスの女性を拉致していった、とか、一つ上の先輩に喧嘩をふっかけたとか。

 間違いなく晶の仕業に違いない。

 まさか授業をとんずらしたあげくに可愛い妹を拉致して、しまいにいじめっ子に下剋上するとは勇馬は思いもよらなかった。

 足を止め、ポケットからスマホを取り出して晶に連絡をする。


『もしもし。何? 今忙しいんだけど』

「忙しいじゃねぇよ。俺の妹を拉致するな、警察に通報するぞ」

『ぎゃはははは、私に勝てないからサツに助けを求めるなんて、お前はインポ野郎か?』


 最後の一言で勇馬は眉間に青筋が浮き出る。

 

「最後のは余計だ。それに憂羽は俺が面倒を見るんだ。お前には関係ないだろ」

『勇馬の教えじゃ、憂羽はこれ以上進歩しない』

「人の家族の間に入ってくるな! これは兄妹の事情だ!」

『それじゃあ、勇馬は妹の憂羽の内面をどう変える? 単細胞で理由も聞かずに暴力を振るう奴が』

「…………」

 

 正論過ぎてぐうの音も出ない。


『安心しろ、こっからは私が立派な妹にさせてやる。じゃあ、これから会合があるから、またな』

「ちょっ! おまえ会合に憂羽を連れて行くわけじゃ――」


 突如通話が切れた。

 晶が率いるレディースの暴走族に憂羽が連れて行かれると思うと将来が不安になってしまう。万が一、晶がきっかけで暴走族にひってしまったらそれこそ美琴の将来は絶望的になってしまう。

 変な教え方をしなければいいなと思いながら勇馬は自宅へと引き返すことにした。



 自宅に帰ると両親からは憂羽がしばらく友達の自宅で泊まると連絡にあったみたいで、両親は憂羽に友人ができた喜びで許可を出してしまったらしい。

 実際はレディースの暴走族の総長だとも知らずに。

 仕方なく勇馬は後のことを晶にしょうがなく任せることにした。



 それから一週間が過ぎた祝日。自宅に憂羽が帰ってきた。


「ただいま、お兄ちゃん」

「おっ、おかえり」

 

 リビングのドアが勢いよく開け、とても明るい笑顔で勇馬を見つめる。

 あまりの憂羽の豹変ひょうへんぶりに勇馬は少したじろいでしまう。

 なぜなら、こんなに元気な挨拶をしてくるのは初めてだったから。


「お兄ちゃん! 大事な話があるの」

「おっ、おう」

「私、明日あした紀香達と決着付ける」


 今までの憂羽には絶対口に出さない台詞だ。


「よし! よく言った。明日けりをつけろ」


 晶はどういう訓練をさせたのか気にはなるが明日、紀香との対決が楽しみだと勇馬は心の底から思った。



 翌日、憂羽は紀香達を公園に呼び出す。公園には勇馬と晶の二人も一緒にいて憂羽を見守った。


「なによ! 私を呼ぶなんてずいぶん生意気なことするじゃない!」

「私は今日で紀香ちゃんの言いなりにはならない! 私と戦って」

「戦う? バカなことを言わないでよ。私は帰る」


 二人の子分の連れて帰ろうとした時、晶が紀香の前に立つ。

 

「散々イジメてきた奴から尻尾巻いて逃げるつもり? もしここで逃げたら今度はあんたがイジメられる番だね」


 今まで紀香に対して口に出したことない台詞を吐いて紀香の子分達は思わず驚愕をしてしまう。

 

「くっ……わかったわよ。まあ、あんな陰キャ女に負けるわけがないけどね」


 紀香は憂羽の前に立ち睨み飛ばす。


「悪いけど容赦はしないからね」

「いいよ。私も容赦しないから」


 憂羽の態度にキレた紀香は右腕を大きく振りかぶり、憂羽の顔面へとぶつけようとする。

 だが、憂羽は軽々とかわし、紀香の顔面にカウンターの右ストレートを紀香の顔面に直撃させた。

 その光景を見た勇馬といじめっ子の咲と美樹は驚愕をしてしまうが、晶は当然のような表情をしていた。

 一発でノックダウンしたがヨロヨロと立ち上がる紀香は、ポケットからスマホを取り出して誰かに連絡をしだした。


「もう、あんたらは終わりよ。私の兄がここに来るから! 私の兄はね、ここじゃ有名な暴走族のリーダーなのよ!」

「ほう……暴走族のリーダーね」

 

 それを聞いた晶はニヤリと微笑む。


 

 十分ぐらいが経ち、遠くのほうから甲高いバイクの排気音が小刻みにふかしながら近づいてくるのが聞こえる。

 公園にロケットカウルのバイクに、竹有マフラーを装備させたバイクなどの改造されたバイクが勇馬達を囲むように数十台並ぶ。

 バイクから降りてきた金髪オールバックの白い特攻服に身を包んだ高身長の男性が勇馬達を人睨みし向かってきた。

 

「紀香、こいつらかお前を酷い目に遭わせた奴らわ?」

「そうよ、わたるお兄ちゃん。こいつらを叩きのめして!」

 

 睨み飛ばしながら勇馬達を見渡していると、紀香の兄である渉は目を丸くして驚き戸惑った。


「おまえ、ひょっとしてレッドタイガーの総長、晶じゃないか!?」

「まあね」

 

 晶はゆっくりと殺気を出しながら歩み寄ると、渉は一歩後ずさった。


「待て、ここは俺がタイマンをはらせてもらう」


 勇馬は晶の前に立ち、渉に頑を飛ばす。


「お前が? 知らねぇ顔だな」


 すると近くの暴走族が勇馬に指を差して口を開いた。


「こいつ菊池勇馬だ。地元の不良達の間では結構有名ですよ」

「なら、タイマンはるにはいい相手だな」


 お互い殺気を出し合い睨みつける。


「やれるもんならやってみな。病院送りにしてやるぜ」


 渉は凄まじいほどの大振りのフックを勇馬の顔面に向かって飛ばしてきた。

 間一髪かわし、すかさず勇馬は右拳を握りしめて渉の顔面にカウンターを浴びせようとしたが、あと少しのところで右手首をつかまれ攻撃を塞がれた。

 渉に掴まれた右腕を振りほどこうとしたがビクともしなく、そのまま力のある右ストレートを勇馬は顔面にくらってしまう。

 身体がよろめきスキを作ってしまう勇馬にすかさず渉は石のような重いパンチを雨のように殴り続ける。

 殴り終えた渉は微かな笑みを浮かべて地面に膝を突く勇馬をみくたした。


「何だ? 人にガン飛ばしておきながらこの程度か。話にならないな」

「――いや、まだ勝負は終わってないぞ」


 笑みを浮かべながら渉を見る姿に、一瞬背筋が凍ってしまった。


「ほう。そうこなくちゃな」

「次はこっちの番だぜ」


 勇馬は地面に膝を突いたのを生かし、勢いよく立ち上がると同時に右アッパーを渉の顎に向けて振りかぶった。


「ぐはっ!」


 強烈なアッパーが渉の顎にクリーンヒットし、大きく中に舞い勢いよく地面に激突する。


「さあ、ここからが本番だぜ」


 拳をポキポキ鳴らしながら渉の胸倉を掴む。


「ぐぬぬぬ……待て……やめろ」


 

 不敵に頬をほころばせる勇馬に恐怖を抱き助けを懇願こんがんする。

 だが、勇馬は必至に助けを求める渉に耳を傾けず鬼のようなパンチの雨を顔面に浴びせた。


「ひゃふへて、はんべんして……」


 渉の顔の原型が変わるほど大きく腫れ上がり見るも無惨な姿になってしまった。


「けっ。手強い奴だと思っていたが、蓋を開けたらカスかよ。がっかりだ」


 勇馬は、ため息を漏らしながら渉を幻滅した。

 敗れた渉は仲間に助けを求めると周りにいた三十人近くの仲間が一斉に襲いかかろうとした。


「お兄ちゃん……」


 怯える憂羽の頭を勇馬は撫でた。


「なんだ、もしかして怖いのか?」


恐怖を押し殺し、憂羽はかぶりを振る。

 

「べっ、別に怖くなんてないもん」

「それでこそ俺の妹だ」

「そこで兄妹イチャイチャしてな――後は私がやる」


「さすがに最強と言われてる晶とはいえ、俺ら三十人を一斉に相手をするのは無理だろう」


 渉の部下は数の多さはこちらが有利だと思ったらしく少し余裕の面持ちで晶に喧嘩を売る。

 

「てめぇら雑魚は私一人で大丈夫だけど、今回は


 そう告げた瞬間、いきなり公園の周りから大勢の不良の女性達が一斉に渉の部下達に襲いかかってきた。


「てめぇら!」


 渉の暴走族の一人が奇襲を受けて声を出す。

 渉の率いる暴走族が反撃する暇を与えず晶の率いる暴走族が一斉に襲いかかった。

 数の暴力とも言えるような光景に勇馬は苦笑いをする。


 ものの数分で決着がつき渉の部下達は地面に無残に倒れ込んでいた。


「なんだよ本当にたいしたことない連中だったな」

「そりゃそうだろ……数と力が桁違いだろ」


 渉の部下は三十人に対して晶が呼んだ部下はざっと百人、それに戦闘での経験も場数が違う。


「よし引き上げるか」


 晶がそう告げると大勢の部下はバイクにまたがりこの場から去って行った。


「おい、憂羽帰るぞ」

「待って、まだやり残したことがあるから」


 そう伝え憂羽は、放心状態で棒立ちしている紀香達のところへ向かう。

 目の前に立たれた紀香は密かに憂羽のことを恐怖を抱いていたが、表情にださないよう必至に耐える。


「……何よ」


 憂羽は何も言わずに紀香の前に手を差し伸べた。


「……どういう意味?」

「私と友達になってほしいの」


 その言葉に紀香は一瞬動揺してしまうが、徐々に動揺から苛立ちへと変わり始める。

 今までいじめてきた人物に喧嘩で敗れた後に友人になってほしい、と言われるのは紀香にとって屈辱的なことだ。

 勇馬も紀香と仲良くするのは兄として反対であった。


「憂羽、何を考えているん――」

「お前は黙ってろ!」


 晶にチョークスリーパーを掛けられて喋ることも出来なく身動きも取れない。


「あんた自分が何言っているのかわかってんの! 私はあんたをいじめていた人物なのよ!」

「確かにそうだけど、でも私は紀香ちゃんとこれからはお友達として仲良くしていきたいの」

「あんた変わってるわね」

「変わっている性格は兄に似てるから」

 

 今まで紀香に見せなかった笑顔を見せる憂羽にどういう表情をすればいいか紀香は苦悶する。

 憂羽の純粋な気持ちに仕方なく紀香は差し出された手を掴み友情の握手をするのであった。


「まあ、あんたがいいなら別にかまわないけど……」


 お互い握手している姿に勇馬は納得がいかない。


「もしかして紀香と仲良くするように仕向けたのは晶の仕業が?」

「ああ。私がもし喧嘩に勝ったら紀香と友達になれと言ったんだ」


 晶に憂羽を預けたことに勇馬は後悔してならなかった。


「どうしてそんなことを言ったのか説明しろ。ことによっちゃあ今ここでお前をぶち殺すけどな」


 激しい怒りに満ちあふれた勇馬の眼差しが晶に目掛けて投げかける。


「もしここで紀香に喧嘩に勝利したとして今後憂羽はどういう生活を送れるか勇馬は想像できるのか?」

「それは勿論イジメを受けない生活が送れるだろう、それ以外の他に理由なんてるのか?」

「やっぱり、勇馬だけに憂羽ちゃんを任せなくて心底良かったと思うよ」

「どういう意味だよ!」

 

 勇馬の発言に対して晶は深いため息を漏らす。

 

「確かに勇馬の言うとおり今後中学時代はイジメを受けなくなるだろうけど、憂羽ちゃんにとって今大切なことはイジメ受けない事ともう一つは

「友達だったら他に作れば良いだろう。今の憂羽だったらたくさんできるだろ」

「積極的になって友人を作れるほどの度胸はまだ憂羽ちゃんは持っているわけないだろ。今日の紀香の戦いも実際死ぬほど緊張をしているんだから」

「たしかにそうだけど……」


 いくら紀香と喧嘩が出来るほど成長したとはいえ家族ともまともにコミュニケ-ショーンがとれなかった憂羽には、初めての友人作りは難しい。


「だったら、ずっと今まで絡んできた紀香と友達になった方がいいだろ。喧嘩に勝ったわけだし、そのきっかけで友人になってくれたら一石二鳥だろ」

「でもよ……」

「じゃあ、勇馬は喧嘩に負けた紀香が腹いせに憂羽ちゃんに仕返しをしてきたらどうすんだ。あの性格は根に持つタイプだからしつこいぞ。だから敵にさせるんじゃなくて友人として付き合っていった方がいいに決まっているだろ。何度も言わせるな。ぶっ殺すぞ」

「……わかったよ」

 

 憂羽も嫌々紀香と友達になるわけじゃないし、敗北した紀香も嫌なそぶりをしてるわけでもない二人に一応勇馬も納得をすることになった。

 憂羽は勇馬の横路に戻り、


「お兄ちゃん。私との約束覚えている?」

「約束? ああ。紀香にかったらの事だよな」

「そうだよ。良かった覚えてくれて」


 憂羽は胸に手を当てて深呼吸をし、勇馬の唇目掛けてキスをし出した。


「何するんだよ!」


 目が飛び出すほどの驚きで憂羽から一歩後ずさりした。

 周りの連中も憂羽の行動に我が目を疑うような表情をする。


「来週の休日私とデートしてね」

「はっ? ちょっと待て、デートはともかく兄妹でキスはないだろ! しかも人前で」

「私たちは


 憂羽の言うことが理解不能になる勇馬だった。


「それって、どういう意味だ?」

「詳しい話しはお父さんかお母さんに訊いてね。それじゃ私帰るね」


 逃げるように憂羽は公園から去って行った。

 憂羽の頬がサクランボのように赤くなっていたのは夕陽に照らされてもわかる。


「どういう意味なんだよ……」


 頭の中がモヤモヤしている勇馬だったが、さっきの二人のやり取りに納得がいかない人物がいた。


「なに人前でイチャイチャしているんだよシスコン野郎!」


 勇馬の首根っこ掴んで晶は睨みつけた。


「どうしたんだよ……晶、怖い顔をして」

「いいから一発――いや百発殴らせろ!」

「落ち着け晶! 話し合おう」


 いきなり怒り出す晶を必至で勇馬は宥めようとするが無理であった。


「それじゃ、今から私と戦って勇馬が負けたら私の男になれ! 拒否は認めない」

「それって…………つまり」

「――それじゃあ、よーい――ドン!」


 

 今まで一度も勝ったことがない晶との勝負のゆくえは言うまでもない。

 晶のとの一件はともかく、憂羽がとても強い心を持ち勇敢にいじめっ子達に立ち向かう姿は兄である勇馬は人生で一番の嬉しい出来事であった。

 血のつながりの事などまだ疑問に思っている勇馬であったが、これから妹の憂羽とは今まで以上に最高の兄妹生活を送る事を心に誓って公園の地面で気を失うのであった。

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